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第1章 転生からの逃亡

第21話 一期一会

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 結局オークを討伐するのに時間がかかったのか、昨夜は何もなく安眠できた。
 おかげで、あと半日も歩けば霊峰に入ることができそうだ。もちろん、お馬さんが歩くのだけど。

「少し余裕が出てきたし、あの点滅していた二箇所を見てみるか」

 まずは称号の方から。
 名前は……いいか。知らない人だし。

 機能としては職業の階級順で並んでいる名簿になっていて、ほとんどは名前がほんのり光った白文字だ。
 しかし、おそらく死亡した人だと思われる人は光が消えた黒色になっている。そして押すと死因が表示されるらしい。

 彼はスローライフ希望で田舎へ転移を希望するも、魔獣に殺されたそうだ。

「お悔やみ申し上げる」

 それ以上の興味はない。
 だって、知らない人だもん。
 女神様の協力者でもない、スローライフ無双したかったお花畑くんでしょ?
 どうでもいいわ。

「さて、もう一つの方は……」

 もう一つは固有スキルの【魔獣図鑑】だったはず。

「すごい……。図鑑が少しだけ埋まってる。……輪郭だけだけど」

 名探偵コ○ンの犯人みたいに黒い輪郭だけが図鑑に載っているのだが、全部同じ形なんだよね。
 七種類の楕円形という、意味があるのかないのか判断しづらい図鑑になっている。

「今のところスライム図鑑だな」

 なるほど。迷宮に行く前は討伐すれば情報が載り、何かしらの報酬がもらえることしか分からなかった。が、今ならはっきり分かる。
 まずはレベルだ。
 結構な数を倒しているのに、レベルが七つしか上がっていない。それはスライムの種類と同じ数だ。

 つまり、一体目は必ずレベルが一つ上がると。同時に黒い輪郭で登録されるのだろう。
 普通なら二体目以降は無駄だと思うのだろうが、普通スライムのページに『三二六/五万』と表示されているのを見れば、五万体の討伐が必要不可欠だと思うはずだ。

 この討伐数は魔獣の階級ごとに変化するらしく、ギフトの【筆】とも連動しているらしい。

 続いて、レベル関係でもう一つ。
 規定のレベルに到達すると、ボーナスがもらえるようになるらしい。
 これは固有スキルとして登録され、他のスキルとの併用も可能になるんだとか。
 今回は初めてのボーナス獲得で、もらったものは【地図】だ。

 やったーーーっ!

 迷わずに進める。
 もっと早く気づけばよかったと後悔……。

 それから、今回は『蒐集賞与』というものもあるらしい。
 初めて使用した時には気づかなかったけど、スキルの初回使用分と一種類目の特別ボーナスに、五種類ごとの定期ボーナスの三つ分だ。
 きっと豪華なものがもらえるのだろう。

「ではさっそく――「ブルルッ」」

 クソッ! 集中しすぎたっ!

 お馬さんの鳴き声を耳にした直後、お馬さんは倒れ伏してしまった。
 矢が刺さった首元を見れば、倒れた理由は一目瞭然だ。

「可哀想に……。仇はとってやるからな」

「逃亡もそこまでだっ!」

「おや? 生きていたんですね?」

 追撃隊らしき人たちの一人は、俺の護送を行っていた人だった。
 てっきり賊の手にかかったと思っていたのだが、どうにか逃げ切ることができたらしい。

「まぁ生きているという言葉が正しいかどうかは分かりませんが……。それで部下はどうなりました?」

 そこそこイケメンだった精悍な顔立ちは見る影もなく、隻眼で一部焼け爛れた顔面。さらに、腕も片方が義手になっている。
 俺も【鑑定】を使っていなければ、とてもではないが判別できなかっただろう。

「――貴様のせいでっ!」

「え? 僕ですか? 襲撃をしたの僕ではありませんよ? 僕は多勢に無勢に不安を感じて逃げただけです。実際残っていたら、あなた方と同じような目に遭っていたのは間違いないでしょ? 八つ当たりはやめてもらいます? お宅らの実力不足でしょ?」

「逃げなければっ!」

「僕を引き渡すつもりだったと? つまりは独力で解決できないと認めているわけだ。――無能」

「――っ! 殺すっ!」

「できんのか? 無能? 馬殺してイキってる無能。あっ、違うか。弓引けねぇもんな、無能」

「殺す殺す殺すっ」

「最後に手柄を譲ってもらうのか? その前に僕が残った腕を切り飛ばしてあげようか? 無能くん?」

 そろそろ俺の包囲が終わった頃かな。
 初撃で俺じゃなくてお馬さんを狙ったってことは、神罰が怖くて直接手を下したくないか、まだ利用する手段を考えているかなど、殺したくない理由が何かあるのだろう。
 その場合、手足などに毒矢を撃つのが効果的だ。

 どう考えても足手まといの無能くんを連れてきて会話をさせたのも、包囲網形成の時間稼ぎと、無能くんを暴走させないように監視するためだろう。
 中級職業の学者を殺すために捜索網を築いたり検問したりと、不自然なほど手間と時間をかけている。
 それなのに、私怨で暴走した無能に殺されましたなんてことになれば、とてもではないが弁解の余地などないだろう。
 ゆえに側で見張り、問題行動を起こしたら即座に処罰できるようにしたというところか。

 まぁ無能だからな。仕方ない。

「さて、感動の再会はそこまでにしてもらおうか」

「おや? この部隊の指揮官はそちらのおばさんなんですか?」

「……言葉遣いは気をつけた方がいいと、御両親に習わなかったのか? この後の待遇に響くぞ?」

「僕の両親をご存知ない?」

「知るわけないだろう」

「この世界に住んでいる人で知らない人はいないと思いますが、王国の人は学がないんですね?」

「貴様、さっきから何が言いたいっ」

「僕の親は生命神様ですけど? 人間ごときに言葉遣いを気にする必要があります?」

「「――はぁ?」」

 当然だろ?
 俺は転移じゃないんだよ?
 転生なんだよ? 
 前世の御両親が愛を育んで創ってくれた体は、エルモアールに来た時点で既に崩壊してるんだよ。
 この新しい体は、生命神様が特別に用意してくれた体だ。
 つまりは生命神様が親である。

「これから神の子どもを殺すわけだけど、どんな心境? 高揚してるかな? それとも恐怖に震えている?」

「そんな馬鹿なっ! 戯れ言などに誤魔化されると思うなっ!」

「であれば、周囲を包囲している部下に矢を撃たせるのではなく、ご自分で撃ってみればいかがですか? 信じてないのでしょう?」

「……いいだろう」

 ふふふ。神の奇跡を見せてやろう。

 いつも通り【魔力装甲】はそのままに、【気功】で肉体能力の向上を図り、続けて防御用のスキル【硬身】を発動する。
 筋肉を張ることで、攻撃を受ける際のダメージを減らしてくれるスキルだ。
 このスキルのおかげで、スライムの群れの中央に立ち続けてることができたとも言える。

 そもそも魔眼を使えれば受ける必要などないのだが、このタイミングで使うにはもったいない。
 魔眼の代わりに最大レベルの【観察】や【呼吸】で動きを読み、【合気】で相手の狙いを外す予定だ。

 それにしても、キ○ガイ王女のおかげで信心深い兵士が多いな。
 俺のはったりで既にビビっている弓手が何人かいるし、指揮官のおばさんが俺の挑発を拒否していたらもっと多くの弓手が躊躇していただろう。

「――シッ」

 やっぱり殺すつもりはなく、右肩を狙って来た。
 それも当てるのではなく擦るように。

 俺はそれを、【幽歩】という分身しているように錯覚させられる歩法で避けた。
 数歩以内であれば分身ではなく透過したように錯覚させられ、俺が避けたというよりも、相手がわざと外したかのように偽装できる。

「おや? やっぱり怖かったですか? 擦りもしてませんよ? それなのに、これから部下にやらせるんですか? 自分の安全は確保するのに?」

「――くっ。よ、避けるとは卑怯だぞっ」

「この距離で? 中級職業の学者が避けられるとでも? おいおいマジかよ。どんだけ弱卒なんだよ」

「我が兵への侮辱は許さんっ」

「はい? 今撃ったのはおばさんでしょ? 避けられたと思っているのもおばさんだし、それに返事をした相手もおばさんだよ? つまりは部下たちに対して話していない。対象をずらすのはやめてもらいます?」

「私への侮辱は我が兵への侮辱だっ!」

「では、僕に対する無礼は女神様に対する無礼です。控えてもらえます?」

「意味不明なことを言うなっ」

「そっくりそのままお返ししますよ」

 よし、準備完了。

 会話による時間稼ぎは俺も望むところだった。
 無能は今にも飛びかかってきそうだし、弓を番えた真面目な兵士の腕はそろそろ限界だろう。
 微妙に立ち位置を調整しつつ、低威力だが発動の早い魔法を展開する。

 ――《魔力撃マナショック

「――うわっ」

 無能やおばさんと対角にいる兵士の背中に向けて魔法を発動し、誤射からのフレンドリーファイアを狙う。
 誤射されたと同時に【転歩】で一気に距離を稼ぎ、霊峰に向かって走り出す。

「ぐっ!」

「クソッ! だから言っただろっ! 初撃で殺すべきだとっ!」

「無能は黙っていろっ」

「何だとっ!? 誰に向かって言っているっ!」

「そんな簡単なことも分からないから無能なのだろっ!?」

 おぉ、おぉ。揉めてる揉めてる。

「すぐに解毒剤を持って来い! 無能は放っておけ!」

「はっ!」

「おいっ! 巫山戯るなよっ!?」

「追跡班、追ってるか!?」

「はい。すぐ後に付けています」

「よし。治療が済み次第追うぞ」

「「「はっ」」」

「おいっ! 無視するなっ!」

 かなり小さい声だが、さすが軍人。
 遠くまでよく通る声をお持ちだ。

「――おっと。危ない危ない」

 高速移動中の【硬身】はまだ慣れないため、現在は先ほどよりも防御力が低下している。
 それでも【魔力装甲】を身に纏っているため、防御や回避に意識の多くを回さずに済んだ。
 今一番集中するべきなのは、キレの悪いウ○コのようにピッタリくっついてくるハエ共である。

 というのも、ハエは【身体強化】を使用しているが、俺は使っていない。
 その差が速度に表れ、振り切れずに追随を許していた。

「少し減らすか」

 ――《石礫弾ストーンショット

 ――《魔力弾マナショット

「――魔法だっ」

「隊長っ! 《石礫弾》が二発ですっ!」

「縦隊っ!」

 おぉ。半円状態で追ってきてたのに、標的対策と損耗対策に縦隊へ編隊するとは。
 やるなぁ。

「あれは……盾か」

 しかも先頭の隊員は元から防御隊員だったらしく、盾を持って走っている。

 さすが軍人。魔法への対応が早い。
 だが、《石礫弾》にばかり注意が行ってもいいのかな?

「忍法・影魔弾の術」

 まずは二発の《石礫弾》。それぞれを時間差をつけて足元と頭部に放つ。
 ここまでは予想できているだろう。
 たとえ非常識な威力だったとしても。

「――グウッ」

「どうし――」

 一発目が足に着弾した瞬間、しっかりと盾で防いだ兵士だったが、《石礫弾》の強みである物理攻撃により盾を押し返し、自らの盾で自らの足を強打した。
 本来だったら素早く盾を移動して防ぐ予定だった頭部への《石礫弾》が、先頭の頭が下がったことで後方の隊員へ。
 盾で視界不良だったところへ、突如現れた《石礫弾》の姿。
 彼は避ける間もなく頭部を破裂させた。

 さらに、圧縮玉を使用した《石礫弾》の威力や貫通力は凄まじく、後続の隊員数人を削るまで止まることはなかった。
 そして先頭の防御隊員は、二発の《石礫弾》が通過したことで気を抜いたのか、三発目の《魔力弾》により頭部を砕かれ死亡。

「お悔やみ申し上げる。――エルモアール」


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