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第三章 フドゥー伯爵家

第七十二話 能力公開

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 西門近くの馬屋で馬を引き取り、まずは教会で違法奴隷の手続きをする。
 シスターに途中で古着屋に寄るように言われた神父様が、シスターの指示に従って馬を操っている。

「何故、こんなに離れているのですか?」

 ネビロスも気になったようだが、今回はハエルに質問させることにしたようだ。
 でも、残念ながら能力に関係ないことは普通に説明するから、ネビロスでもハエルでも対応に変わりはないよ。

「お馬さんがユミルを怖がるからだよ。こんなに可愛いのにね」

「グァ……」

「なるほど……。だから、馬車なのに馬がいなかったわけですか」

「うん。それもあるけど、お馬さんは遅いからね」

「遅い……」

「うん」

 首を傾げるネビロスとハエルを、バラムとフルカスがニヤニヤと笑って観察している。

 怒られるよ……。

「もしかして、奴隷の服を買ってあげてるのかな?」

「それ以外ないでしょ?」

「アル、自分の買い物かもしれないでしょ?」

「ほとんど法衣なのに?」

「……確かに。支給品って言ってたねー。……慈悲深い司教様だ」

「カルムは違法奴隷に興味なさそうだね?」

「うん。この間解放した四人の奴隷ですら無視されたんだよ? 自分たちの敵を捕虜として囲っている僕たちに友好的なわけないじゃん。逆に近づいてきたら裏があるってことだよ」

「えぇー……エルードさんも何も言わなかったの?」

「ううん。エルードさんはお礼を言ってくれたよ。だからまだマシかな。できれば、自分の利益にならない違法奴隷は助けたくないんだけど、僕の良心が許さないんだよねー」

「「「「「「…………」」」」」」

 あれ? メイベルも?
 何かしたかな?

「ほら、神父様が呼んでるよ。ちょっと言ってくるねー」

 私兵団たちのジト目から逃げたのだが、彼らは気づいているだろうか。
 現在の荷車は非常識班と私兵団しかいないということに……。

「じゃあ奴隷を解放する書類にサインをしてくれ」

「はーい」

 二十六枚の書類にサインをし、【魔導眼】の解除で首輪を外していく。
 本当なら奴隷商人がいないと外せないらしいが、俺ができると知っている神父様が違法奴隷に神前契約をさせてすぐに外した。
 そうでないと、本当に違法奴隷かどうかの調査に時間がかかり、結局有耶無耶のまま解放されないことが多々ある。

 この間のエルフ四人組が解放されたのも、真偽鑑定を行ったことと商人ギルドのパフォーマンスをする必要があったからで、本来なら調査をする必要があったのだ。
 たとえ真偽鑑定をしたとしても。

 それゆえ、全てを知っているエルードさんから感謝されたわけだが。

 ちなみに、今回もエルードさんがいる。
 教会で写本をしているところに帰って来たわけだから、当然立ち会っている。
 いろいろバレてそうなエルードさんには無駄な気がするが、一応神父様が手をかざして魔力を込めた瞬間を狙って首輪を解除している。
 エルードさんの視線は俺に固定されているけど。

「終わりましたね。では、シボラ商会に敵対しないことを願っていますよ。それでは失礼します。神父様たちはあとで奈落湯に来て下さいね。治療の打ち合わせをしますから」

「感謝する」

「お願いします」

「儂も引き継ぎをしたら行くからな」

「お待ちしています」

 ◇

 現在はネビロスとハエル、それに帰還したセルグラトとアグラシスにシドラゴサムをママンに紹介している。

 ママンも武人の端くれゆえ、一気に増えた実力者を前に緊張している様子だ。

「母上、ついに我が分家にも侍女が来ましたね」

「……えぇ、そうね」

「それとですね……久しぶりに例の森に行きますので、また増えるかもですー」

「前から思っていたのだけど……どこにあるの? そのおかしな森は」

「みんなの心の中です」

「「…………」」

 ママンとネビロスの視線が痛い。
 メイベルはモノを拾ってくる森を知ってるから、少しだけ余裕があるようだ。

「母上? どうされました?」

「あいにく、私の心の中にはないわ?」

「そうなのですか? 母上の分まで楽しんで来ますねっ。では、晩餐でっ!」

「ちょっと、待ちなさーいっ」

 ママンの制止を無視して自室に飛び込んだ。
 防御や防音の魔法陣が設置してあるため、シェルターとしても利用できる。

「早速召喚しようと思うんだけど、室内で大丈夫なのかな?」

「一応屋外の方がいいですねー」

「じゃあ北の森に転移するか」

「ですねー。絶対に人がいませんからねー」

「グァ……」

「メイベルも連れて行きたいの?」

「グァ」

 【白毫眼】で確認したところ、周囲にネビロスがいるから一人で連れ出すのは無理そうだ。

『少年。そろそろネビロスに意地悪するのをやめた方がいいのではないか?』

『ちょっと、意地悪なんかしてないよ。ただ、バラムたちみたいに精神干渉をされたら防げない者が近くにいるときは、自分の能力を話さないようにしているだけ。一番話しているメイベルにも【召喚】と、どすこいパワーで通しているんだよ? 過去視とかで話している内容からバレたら、メイベルは自分を責めるでしょ?』

『なるほどな。では、質問したタイミングが悪かったと?』

『そのとおり。バラムとフルカスに話したのだって、俺の精神世界だけじゃん』

『なるほどな。だが、話さずへそを曲げられたら面倒だぞ』

『うーん……じゃあこれから北の森で【召喚】をするから、母上にバレないようにメイベルを連れてきて。母上にはバカラ家の問題が片づくまで言いたくないからさ』

『了解だ』

 バラムの能力の一つに行動予測っていうのがあるけど、本当に予測されてるみたいで怖いな。

「それじゃあ行こうか」

「はいですー」

「グァ」

 ママンがバカラ家のことをどう思っているか分からないけど、元々武門の家だから能力があれば魔量は関係ないと考えるらしい。
 侵略軍を撃退した功績で復興させるなら、俺を嫡男に据えようとするはず。

 俺にその気がなくてもママンに声がかかるだろう。
 ママンが拒否してくれたとしても、ママンの立場が悪くなるのは間違いない。
 バカラ家が諦めるか、俺が【奈落大地】の緑化に成功して独立するまで能力の公表は憚れる。

 ◇

 金剛弓で切り開いた広場は、俺とメイベルの訓練場だ。
 ちょっと危険な秘密基地でもある。
 今回もここで召喚しようと思う。

「待たせた」

「僕も今来たところだから。それじゃあ早速始めようか」

「うむ。楽しみだ」

 ネビロスは好奇心旺盛な性格らしい。
 瞳をキラキラさせている。

 手に持った【御朱印帳】を開き、【天叢雲剣】の剣先を地面に突き立てて召還陣を構築する。

「召喚――スライムキング」

「プォ」

 水色の大きいスライムが、王冠と赤いマントを身に纏い、手には王笏を持っている姿で現れた。

「可愛い。プルプルしてる」

 思わず抱きついてしまうほど可愛い。
 感触はひんやりツルッとしたわらび餅が一番近いだろうか。

「名前は『アープ』ね」

 抱きついたまま上目遣い状態で名付ける。

「プォォォー」

 名前に喜んでくれたのか、アープは王笏を掲げて雄叫びをあげた。

 次の召喚が控えているから惜しみながらも体を離すと、アープは一礼した後ポンポン跳ねてメイベルの近くに移動した。
 召喚陣を構築するために中央を空けるということが分かっているようで、知能の高さがうかがえる。

「お待たせしました」

「よかった。ちょうど呼ぼうと思っていたんだ。仲間の召喚をしているから、先輩としていろいろ教えてあげて」

「はっ」

 ダンジョン産召喚獣第一号のカーティルを加われば、【御朱印帳】内に登録された全ての召喚獣及び召喚者が勢揃いしたことになる。
 初顔合わせをするのにも好都合だ。

 ユミルとカーティルは、早速アープに何やら話しているようだった。

「二体目。召喚――ホブゴブリンロード」

 黒に近い緑色の体を持った筋骨隆々の鬼が、蛮族鎧を身につけて立っていた。

「チュウセイ、チカウ」

 片膝をついて礼を取った後、片言で忠誠を誓うホブゴブリンロード。
 見た目よりも礼儀正しいことに驚きだ。
 あらかじめ考えていた名前があるのだが、なんか申し訳なく感じる。

「うん。名前は『ローグ』ね」

「コウエイ」

 起き上がるとカーティルたちにあいさつしに行った。
 何故か、アープも含めて誰もバラムたちに近づかないけどね。

「三体目。召喚――デスペアオークロード」

 ダンジョンで殴り合いをしたオークの戦士だ。
 しかし、目の前に現れたのは少し派手目の袈裟を身につけた僧侶だった。
 闘士でもあったことから考えて、僧兵に転職したのかな?

「再び相見えたこと、感謝申し上げる」

「う……うん。よろしくね」

「我が神に身を捧げる所存」

 ん? 何かおかしなことを聞いた気がする。
 ……まぁいいか。

「名前は『ソンウン』」

「良き名を下さり感謝申し上げる」

 召喚された時から膝をついていたソンウンは、カーティルに手招きされたことに気づき移動していった。
 ソンウンは以前よりも大きく強そうになっており、言葉も流暢に話せるなっている。

『これが【九十九神】の効果?』

『そうですー』

『すごいなー』

『でしょー。しかもー、彼らの進化が止まったわけではないのでー、さらに強くなるかもですよー』

『変わったのはソンウンだけ?』

『いいえー。ローグも進化しましたよー。【御朱印帳】を見る限りー、全く進化していないのはいませんねー。姿の変化が見られないものもー、知能が高くなったものもいますしねー』

『そうなんだー。楽しみだー』

 早速四体目の召喚に移る。
 確か次は騎士の形をしたアイアンゴーレムだったはず。

「召喚――マギーアマキナレクス」

 ダンジョンで戦った騎士よりも一回り以上大きめの重騎士が登場し、騎士の礼を取る。
 話せないのか、代わりに騎士の叙任式を行いたいらしく剣を捧げてきた。

「我は汝を騎士に任命す。これより『テュール』を名乗られよ」

 剣の腹で肩を叩き儀式を終える。
 これで良かったのか疑問だが、満足そうに頷いているから大丈夫だろう。

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