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第三章 フドゥー伯爵家

第五十三話 遠征出発

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 奴隷は風呂に入れた後、欠損の治療や病気の治療を行っていった。
 その際、ほぼ裸のような格好の女性もいたわけで、五歳児の立場をフル活用しつつ魔導丸眼鏡越しに見てやろうと思っていた。

 だがしかし、監視者が現れる。

「カルム? どうしたの?」

「グァ?」

「……何でもないんだよ?」

 体は反応しないから純粋な好奇心と言い切れるのに……!

「それより、怪物村に移送しないとね!」

「怪物村の担当にするの?」

「うーん。住む場所の確保ができないからね」

「なるほど」

 まぁ今回は三〇人くらいしか買わなかったから、銭湯に泊めようと思えば泊められなくはない。
 営業は泊めないといけなくなるけど。

「移送したら話があるからねー」

「ダンジョンでしょー?」

「そのとおり! ユミルの友達を見つけに行こうね?」

「……グァ」

「あれ? 嫌なの?」

「グァ……」

「あれ? どうしたの?」

「……」

 御朱印帳を取りだして聞くと、今度は黙り込んでしまった。

「もぉーー! 独り占めできなくなるから嫌なんだよねーー! 新しいモフモフばかりを可愛がりそうだもんねーー!」

「グァ!」

「えっ!? そんなことしないよ!?」

「「…………」」

 何故か信用がない……。

「あっ! エルードさんだ!」

 誤魔化すために神父様とエルードさんのところに向かう。

「あっ! 逃げたっ!」

「グァ!」

 ユミルがヤキモチを妬いてくれたのは嬉しいけど、もう少し信じてくれてもいいのに。

「どうしましたー?」

「杖ついているのに、走っていいのか?」

「走ってません」

「あぁーー……なるほど」

 俺は空を飛んでいるのだ。
 正確に言えば念動だけど。

「それでどうしたんですか?」

「ほら、教会を空けるだろ? 代役の依頼だ」

「お主ら最近外出しすぎじゃないか?」

「治療のため何だよ。そうだろ? 先生?」

「えぇ。先生呼びはやめて欲しいですけど」

「アリア嬢のためなのは分かるがのぅ……。儂もエルフの娘っ子の面倒を見ないといけないんじゃ」

 あぁ。奴隷から解放された子ね。
 エルードさんには感謝されたけど、本人たちは話してすらないからどうでもいい。
 俺からしたら耳元の悪魔を鎮めてくれたアリアさんの方が重要だ。

「希少本の写本は静かな教会の方がいいと思いますが?」

「――どの本じゃ!?」

「『秘薬全集』なんてどうでしょう?」

「喜んで引き受けよう!」

 本当は俺が写本してもいいんだけど、エルードさんは写本が趣味らしく、楽しそうに写本しているらしい。
 ガンツさんが、写本しているときは邪魔をしない方が良いと言っていたから、かなり本格的なんだろう。

「それと、図書館を早めに頼むぞ!」

「あぁーー、あれはガンツさんに止められていて……」

「何故だ!?」

「今は装備を頼んでいて、それが終わったら一緒に作りたいそうで……」

「アイツのせいだったのかっ!」

「それに最初に作るのは教会ですしね」

「神官になるのか? いい領主になりそうだが?」

「どちらにもなりませんよ。当主の資格はないですし、神官にはなるつもりはないですし」

「資格?」

「魔量が星四つ以上必要なので」

 エルードさんには言ったことなかったっけ?
 神父様には言ったような気がするけど。

「いや、あるじゃろ?」

「ありませんよ」

「そんなはずは……?」

『黒星は長命種には知られてますからねー。でも直接口に出さないのはー、一応の秘事ですからねー』

『なんで?』

『魔量が少なくて迫害された者をスカウトしやすくしているんですー。発見も楽だしー、勧誘も楽ですー』

『なるほどねー! 何でバレたかな?』

『精霊がビビってるからでしょうねー。【精霊視】で見てみると分かりやすいですよー』

 言われたとおりにしてみると、確かに精霊がビビっていた。
 エルードさんの長い髪に隠れ、耳元で何やら呟いている。

『これから精霊と会う度にバレるの?』

『確証はないので無視すればいいですよー。神々の加護もありますしー』

『ならいいか!』

 エルードさんは物の出所に関しては詮索しないけど、俺の能力に関しては少しずつ詮索してくる。
 逆にガンツさんは物の出所は気になるみたいだけど、能力はどうでもいいみたいな態度だ。

 たぶん、エルードさんはどこかの国のお偉いさんなんだろう。

「では、明日からお願いしますね!」

「「――明日っ!」」

 神父様も急なことだったようで驚いている。
 しかし、全ては神父様のためなのだ。
 優秀と名高い王太后なら絶対に人を送ってくる。

 一度捕まってしまえば、しばらく外出ができなくなるだろう。
 その前にさっさと出ていくべきだ。

 スケープゴートにした以上は、全力でサポートさせていただく。

 ◇

 翌日。
 商会メンバーと顧問弁護士事務所の二人が、怪物村の入口に集合している。
 今回のダンジョンで事務官を快方に向かわせ、弁護士をサポートしていただきたい。

 という話は、商会メンバーには話してある。
 王太后の件と合わせてね。

「カーティルは怪物村の警備をお願いする。配下を使えるし、用があればいつでも呼び出せるしね」

「はっ」

 性懲りもなく諜報員が侵入してくるし、現在はまだ外部の者は村内に入れないことになっている。
 一人の例外もなく。
 ガンツさんもエルードさんも同様だ。

 だから、勝手に侵入されないためにカーティルに残ってもらう。

「他は全員移動。だけど、バラムとフルカスは現地では別行動ね」

「何故だ?」

「表向きはってこと。ダンジョンの利用では邪魔をしないって言ったけど、素材の売買で邪魔されたら面倒でしょ? 二人は実力も離れすぎてるから、早く階級を上げてもらおうかなって」

「具体的には?」

「素材を売ってきて」

 二人は技能結晶が使えないからね。
 一緒にいても暇だし、用もないだろう。
 この世界の魔物で人間と同じ恩恵を受けられる魔物は、オークに転生した召喚者だけらしい。

「なるほど。採取依頼を熟しつつ、試験を受けられるなら受けろということだな?」

「そうだね」

「面白そうだ」

「食事の時に素材を受け渡そう。だから、家を借りてね」

「うむ。任せよ」

 ふ、不安だ……。

 そして始まる生贄座席取り。
 神父様は指定席だが、今日はカーティルがいないからフルカスの隣はアルが座ることに。
 アルは持ち上げられて座らされたのだ。
 十分怒っていい。

「じゃあ出発しまーす! ――テイクオフ!」

 いつも通り離陸したが、まだ慣れない者が多いらしく悲鳴が聞こえる。

「早く馬車を作りたいなーー!」

「どんな仕様にするんですかー?」

「キャンピングカーみたいな。野営が楽だろうし、従魔を入れない宿とか町とかあっても大丈夫じゃん」

「なるほどー」

 俺はモフモフに囲まれて寝たいのだ。
 綺麗なお姉さんでもいいけど、すぐに飽きそうだしなぁ。妄想で十分だろう。

「そろそろ到着しまーす!」

「早すぎる……」

 静かだなと思っていたら、人間組はジェイド以外全員が気絶していた。

「ジェイドはみんなが起きるまでに、客室荷車を組み立てておいてね」

「了解」

 客室荷車は、今まで荷物を運ぶために使っていた組立式荷車を改造したものだ。
 馬なし馬車が車両だけで動くと異常だが、元々馬が引かなくてもいい荷車が人力で動く分には問題ない。

 ゆえに、体力面で心配なシスターや子ども組の移動に使おうと考えたのだ。
 座面が柔らかいベンチシートをつけ、バスや新幹線のような収納式のテーブルも用意した。

 一応見た目は幌馬車だけど、中身は自動車のような二列シートだ。
 ベンチシートは真ん中に設置し、席の両脇を使って移動できたり座れたりしている。子どもなら三人、大人なら二人が座れるだろう。

 運転席を荷車の前面には、運転席という名の指示席がある。

 そして、この客室荷車を製作するに至って犠牲になったものもある。
 貨物運搬力だ。

 客室荷車の後ろに別の貨物専用の荷車をつけることも提案されたが、運搬するのは私兵団である。
 人員が足りないし、実質四人で引いていたら異常に見えてしまう。

「なぁ、これ本当にもらっていいのか?」

「もちろん。ドンドン素材を詰めてもらいたいからね。それに魔力登録した以上は、僕が書き換えないかぎり君たち以外は使えないんだよ? 書き換えるつもりもないしね」

「だけど……こんな高価なもの……」

「僕はどすこいパワーでいくらでも作れるからね」

「わかった。ありがたく受け取っておく」

「さぁ、早く組み立ててくれたまえ。僕はみんなを起こすからさ」

「おう」

 今回はドロップ型ダンジョンらしく、素材をサクサク拾って先に進む作戦だ。
 そのためには運搬力は必須。
 加えて、荷車よりも機動力が欲しい。

 パシリ大作戦のためにグリムと考えた結果、廃教会のデーモン戦で得た【異空箱】を解析して【異空袋】なるものを作った。
 デーモン戦はランダム式の報酬だったため、侯爵級デーモンのときには宝箱のような道具を報酬にもらったのだ。
 ずっと放置していたのだが、私兵団の装備を作ろうとしたときに思い出して鑑定したところ、時間停止付きのアイテムボックスだった。

 どうやら天霊具だったらしい。

 ガンツさんからはポーチが完成したから見に来て欲しいと言われていたから、ポーチを改造して【異空袋】にした。
 ただ、元がビッグボアという微妙な魔法触媒だったため、ドラゴンゾンビの素材で補強するも、個別の能力しか付与できず不完全燃焼だ。

 まぁポーチは二つずつ装備させる予定だったから、一つを時間停止付きにして、もう一つは容量重視にしたから使い分けてもらおう。

「ほら、起きて起きて!」

「グァ♪ グァ♪」

 純粋に二度寝を満喫していたユミルから起こしにかかり、ついでにモフモフして遊ぶ。

「メイベル、起きてーー!」

「うーん……」

「ユミル、ゴーーー!」

「グァ♪」

「――起きてるぅぅぅ!」

「残念……」

「グァ……」

「ゆ、ユミルちゃん!? ごめんね!」

「グァ!」

 ユミルの悲しむ顔に慌てるメイベルも可愛い。
 もちろん、ユミルも可愛い。

「じゃあ、バラムよろしくーー!」

「うむ。《起きろ》」

 みんなにすっきりとした目覚めを贈った後、ダンジョンに向けて出発した。

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