身代わりで隣国に嫁がされましたが、チー牛王子となんやかんや仲良く生きていきま、す?

佐伯 鮪

文字の大きさ
上 下
48 / 57

48 妹

しおりを挟む
 私達はしゃがみ込んだ青年を立たせ、少し場所を移した。
 出入り口で立ち止まって会話していては、何かと怪しまれることを恐れたためだ。

「いきなり話しかけてごめん。でもほんと、どうしたらいいかわからなくて……」
「えっと、とりあえず、事情を聞かせていただけますか? お願いを聞けるかどうかは、話を聞いてから考えます」

 青年の話を聞くのも、ちょっとした賭けだった。
 もしかしたらこれからの調査の手掛かりになるかもしれないし、逆に罠である可能性もある。

 私達は、阿銅羅教に関心を持って教会を訪れた、街に住む一般市民を装うことを忘れないようにしなくてはと、コソコソと念を押し合った。

「妹が、ここにいるかもしれないんだ。もう長いこと家に帰ってきてなくて。俺、ここの教会にしつこくして出禁食らってて入れないから」

 私と殿下は、顔を見合わせた。

「妹さんは、いなくなる前に何か言ってた?」
「……阿銅羅教仲間とだけで暮らしたいって。でも婚約も決まってたし、何言ってんだって周りもあんま相手にしなくて」

 武大臣の言っていた、「寺院で集まって生活する」というやつだろうか。私達は、彼に話の続きを促した。

「阿銅羅教の教会に通い出した初めの頃は、元々塞ぎがちだった妹が明るくなって良かったなって思ってたんだ。でもだんだん、自分の考えを理解しない周りに対してイライラするようになってきて。で、仲間と~って言い出すようになったから、絶対ここにいるって思ってるんだけど」
「さっき、『教会にしつこくして』って言ってたわよね? 最初訪ねた時は、どういう回答だったの?」
「名前と特徴を伝えても、そんな人は知らない、いないの一点張りだった。中を見せて欲しいって言ったけど当然断られて、これ以上粘るなら警吏呼ぶって」
「……気にせず突破しちゃえば良かったのに」

 私の発言に、青年は顔を起こした。

「できるなら、そうしてる。俺さ、この国の王城で兵士として働いてるんだ。そんな問題起こしたらクビになっちゃうよ……。家族にも迷惑かかるし、それは」
「そう、ごめん」

 想像力のない自分を恥ずかしく思った。
 誰もが思うがままに行動できるわけではないのだ。

「妹さんの、名前と特徴を教えて」
「見てきてくれるの!?」
「うん……でも。私達も、ここへ来るのは初めてなの。えっと、阿銅羅教に興味があって、話を聞いてみたくて来たから、その。もしかしたら入れて貰えない可能性だってあるし、それは許して」

 青年は私の手を両側から握りしめ、ありがとうありがとう、と繰り返した。

「妹の名は、琉花ルゥファ。歳は18で、顔は俺とそっくり、このまんま女にした感じ。とりあえず、似た人間がいるかいないかだけでも見てきてくれたら助かる」
「わかった」

 彼とは後ほど落ち合う約束をして、私は晃瑛コウエイと教会へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

紀尾井坂ノスタルジック

涼寺みすゞ
恋愛
士農工商の身分制度は、御一新により変化した。 元公家出身の堂上華族、大名家の大名華族、勲功から身分を得た新華族。 明治25年4月、英国視察を終えた官の一行が帰国した。その中には1年前、初恋を成就させる為に宮家との縁談を断った子爵家の従五位、田中光留がいた。 日本に帰ったら1番に、あの方に逢いに行くと断言していた光留の耳に入ってきた噂は、恋い焦がれた尾井坂男爵家の晃子の婚約が整ったというものだった。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜

𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。 だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。 そこで出逢った簫 完陽という料理人に料理を教えてもらうことに。 そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?! 料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕! ※、のところはご注意を。

処理中です...