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絵
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「おはよっ」
既にほとんどの生徒が登校し、ざわついた教室へ駆け入る。
「絵麻、おっそ!もうHR始まるし」
クラスメイトの鈴原紗季がつっこんできて、えへ、と笑いを返したところで、後ろからとん、と背中を小突かれた。
久保翔真、近くの席でやたら絡んでくる男子だ。同じ小学校からの付き合いでもある。
「また寝坊かよ、ちゃんと起きろよ~」
「ち、違うし!毎日部活でへとへとなんだってばー」
「それで起きれないんだから、結局寝坊じゃね?」
「あ・・・」
「久保、するどい」と紗季が言ったところで担任が教室へ入ってきたため、それぞれ席へ着いた。
中学へ入学してから、テニス部に入った。
二学期になって、一学期とは違って球拾いと素振り以外のこともさせてもらえるようになり、部活は楽しくなってきたところだ。毎日日が暮れるまで練習があり、朝起きれないのも事実である。
放課後以外は練習はないので、昼休みはいつも友達とのんびり話して過ごす。
「そういやさ、うちのクラスの山田と酒井さん、先週から付き合い始めたらしいよ」
紗季がヒソヒソ声で言った。
「へぇ、山田やるじゃん」翔真が返す。
「ふーん・・・」
二学期になってからというもの、こういう話題が増えた。
「絵麻は?誰か、好きな人とかいないの?」
「え、いや、いないし、そんなの」
ふいに自分に話題を振られて焦った。
「だってさー、久保ー」
にやにやしながら紗季が翔真をつっつく。
「は!?いや、なんで俺にふるわけー?や、ほら、そういう鈴原はどうなんだよ」
「私?私はねぇ~ふふふ…聞きたい?」
「あはっ、紗季、話したそうだね」
そういうことは、絵麻にはまだわからなかった。
――好きって、なんだろう?話したい、とか、一緒に出掛けたい、とか思うことなんだろうか?でも、それだと友達と変わらない。
一体みんな、どうやって「好き」「付き合いたい」と自覚するのだろうか。
「あ、5時間目美術じゃん。そろそろ移動しようぜ」
翔真がそう声をかけると、紗季があからさまに残念そうに従う。
「まじかー。仕方ない、私の極秘話は温存しとくかぁ」
「紗季、極秘にするつもり、さらさらなくない?」
談笑しながら、授業に必要なものを用意して三人は教室を出た。
「美術って、今日は何やるんだっけー?」
「確か版画だろ、てか今手に持ってるその彫刻刀セットはなんだよ」
紗季は本当にムードメーカーだな、と絵麻は思う。誰とでも気軽に話せて、会話に飽きさせることがない。「極秘話」とやらがあるとのことだったが、紗季のように明るく目立つ子ならば、やはり男子から告白されたりして、"そういうこと"は既に知っているのかもしれない。
美術室の入り口に差し掛かった時、ふと横の壁に飾ってある絵が目に入った。
「あ・・・」
朝の、教室――
去年の秋に美術館で見た、あの絵とよく似ている。
違うのは、その絵は中学校の教室を描いたものだという点。
息が詰まり、心臓がどくん、と鳴った。
「絵麻ー?どうしたのー?」
「あ、ごめん、なんでもない!」
先に入っていた紗季と翔真に呼ばれ我に返り、慌てて美術室へ入ったが、心臓の鼓動はしばらく鳴り止まなかった。
既にほとんどの生徒が登校し、ざわついた教室へ駆け入る。
「絵麻、おっそ!もうHR始まるし」
クラスメイトの鈴原紗季がつっこんできて、えへ、と笑いを返したところで、後ろからとん、と背中を小突かれた。
久保翔真、近くの席でやたら絡んでくる男子だ。同じ小学校からの付き合いでもある。
「また寝坊かよ、ちゃんと起きろよ~」
「ち、違うし!毎日部活でへとへとなんだってばー」
「それで起きれないんだから、結局寝坊じゃね?」
「あ・・・」
「久保、するどい」と紗季が言ったところで担任が教室へ入ってきたため、それぞれ席へ着いた。
中学へ入学してから、テニス部に入った。
二学期になって、一学期とは違って球拾いと素振り以外のこともさせてもらえるようになり、部活は楽しくなってきたところだ。毎日日が暮れるまで練習があり、朝起きれないのも事実である。
放課後以外は練習はないので、昼休みはいつも友達とのんびり話して過ごす。
「そういやさ、うちのクラスの山田と酒井さん、先週から付き合い始めたらしいよ」
紗季がヒソヒソ声で言った。
「へぇ、山田やるじゃん」翔真が返す。
「ふーん・・・」
二学期になってからというもの、こういう話題が増えた。
「絵麻は?誰か、好きな人とかいないの?」
「え、いや、いないし、そんなの」
ふいに自分に話題を振られて焦った。
「だってさー、久保ー」
にやにやしながら紗季が翔真をつっつく。
「は!?いや、なんで俺にふるわけー?や、ほら、そういう鈴原はどうなんだよ」
「私?私はねぇ~ふふふ…聞きたい?」
「あはっ、紗季、話したそうだね」
そういうことは、絵麻にはまだわからなかった。
――好きって、なんだろう?話したい、とか、一緒に出掛けたい、とか思うことなんだろうか?でも、それだと友達と変わらない。
一体みんな、どうやって「好き」「付き合いたい」と自覚するのだろうか。
「あ、5時間目美術じゃん。そろそろ移動しようぜ」
翔真がそう声をかけると、紗季があからさまに残念そうに従う。
「まじかー。仕方ない、私の極秘話は温存しとくかぁ」
「紗季、極秘にするつもり、さらさらなくない?」
談笑しながら、授業に必要なものを用意して三人は教室を出た。
「美術って、今日は何やるんだっけー?」
「確か版画だろ、てか今手に持ってるその彫刻刀セットはなんだよ」
紗季は本当にムードメーカーだな、と絵麻は思う。誰とでも気軽に話せて、会話に飽きさせることがない。「極秘話」とやらがあるとのことだったが、紗季のように明るく目立つ子ならば、やはり男子から告白されたりして、"そういうこと"は既に知っているのかもしれない。
美術室の入り口に差し掛かった時、ふと横の壁に飾ってある絵が目に入った。
「あ・・・」
朝の、教室――
去年の秋に美術館で見た、あの絵とよく似ている。
違うのは、その絵は中学校の教室を描いたものだという点。
息が詰まり、心臓がどくん、と鳴った。
「絵麻ー?どうしたのー?」
「あ、ごめん、なんでもない!」
先に入っていた紗季と翔真に呼ばれ我に返り、慌てて美術室へ入ったが、心臓の鼓動はしばらく鳴り止まなかった。
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