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第2章 星屑のビキニアーマー
精霊のいない洞窟で
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鍾乳洞の天井は高く、横幅も広い。魔法が使えないことから、この一帯に精霊がいないことが分かる。だが、そんな場所など、自然界には本来存在しないのだ。意図的に精霊を寄せ付けない空間を作ることは可能だが、それはある特別な事情があるときのみ許されている行為なのである。
「タケルさんには話しておきましょう。私たち人間が、結婚して子作りをするまでの過程を……」
「い、いきなり何だよ! 僕は高校生だぞ。知識として、それくらい知ってらぁ」
焦るタケルに構うことなく、ホノは生命の誕生について話を始めた。
「子は親から生まれます。親が子を産むためには、命の源と言われる白濁色の液体が必要とされています」
「白濁色の液体か……。ホノの口からそんな言葉が出るなんて思わなかったよ」
「命の源は男性の体内でのみ生成されるのですが、生成されるとすぐ、精霊たちが身体の中に入り込み、食べてしまうのです」
「マジか……。この世界の男はオールシーズン賢者タイムなのかよ」
「私たちが魔法を使うには、精霊たちの協力が必要です。精霊たちはその代償として、命の源を食べているのです」
「なるほどね。ウィンウィンな関係というやつか」
精霊は生きるための養分として人間から命の源を摂取する。その精霊を主食としているのが魔物であり、魔物を狩るのが精霊の力を借りた人間なのだ。
人は夫婦で子を宿す間の、限られた期間のみ、精霊を寄せ付けない特別な空間に入ることができる。この空間の中では夫婦が寄り添い、魔法の力に頼ることなく生きることで、やがて子を宿すとされている。
「精霊が入り込めない特別な空間を作り出すことができるのは、ほんの一部の人間だけです。そして、そこへ入ることを許されるのは、子を望む夫婦のみ……」
「じゃあ、地下階やこの鍾乳洞も、その特別な空間ってことになるの?」
「はい。何者かが意図的に作り出した空間であることは間違いありません」
「一体、何のために?」
「それを調べるのが、私たちの……タケルさん! 後ろ!」
タケルの背後にフードを被った男が立っていた。ホノは素早く剣を抜く。しかし、男の姿はすでにそこには無く、一瞬でホノの隣に移動していた。
ホノは剣を振り回したが、男の身体を掠めることすらできない。
「ホノ、右だ!」
タケルの声に従い、ホノは咄嗟に身体の向きを変えた。しかし、男の杖がホノの横っ腹を殴打し、地に崩れる。
「動きが……見えない」
「痛いですか~? ラグラークの騎士も大したことないですねぇ」
「その声は……!」
ホノはガラス瓶を男に投げつけた。ふわりとフードがめくれ、男の素顔が明らかになる。灰色の波立つロングヘアー、顎先まである前髪は、顔の火傷を隠すためのものだ。その前髪の隙間から、ギョロっとした目が覗き込む。
「やはりあなたは……レナスの大賢者さま。何故あなたがこんなことを……!」
「侵入者を排除する。それが私の職務だからに決まっているじゃないですか……。あなた、ひょっとしてバカですかぁ? もしかして、本物のバカなんですかぁ?」
レナスの大賢者、ボリノクール。彼はガーランドにも匹敵する魔法力を持っており、魔法学校の校長も務めている。面倒見の良いその性格から、レナスには彼を崇拝する生徒も多い。
「おやおや~これはこれは」
ボリノクールは割れたガラス瓶に近づき、散らばった魔像のかけらを摘んでニヤリと笑った。
「せっかく苦労して手に入れたのに、持ち帰らなくて良かったんですかぁ?」
「そんなもの、もはや必要ありません。あなたが関与していると分かった時点で、魔像の正体は判明しました。あれは、石化した古代の魔物なのでしょう」
「さすが、ガーランドの娘ですねぇ。ならばこの杖の秘密もとうにお分かりということで良いですよねぇ!」
ボリノクールの杖の先から真っ赤な炎の球が放出された。球はゆらゆらと軌道を変えながら、ホノの頬に当たって爆発した。ジュッと皮膚が焼ける音に、ボリノクールは目を見開き歓喜する。
「たまりませんねぇ! どうです? 顔を焼かれる気分は!」
「ボリノクール……。あなたの目的は何なのですか!」
「そんなのは決まっているでしょう。平和な世の中を築き上げることです。ただ、あなたたちと見ている世界が違うだけなのですよ。私は真の平和を願っているのです! だから邪魔者には消えてもらわねば……。邪魔なんですよ! あなたも、ラグラークの騎士たちも」
「山賊を仕向けたのも……使いの者たちを妨害したのも、全てはあなたの仕業か!」
剣を構えても、ボリノクールはすぐに視界から消えてしまう。ホノは間合いを詰めることもできず、ただ疲弊し続けていた。
「移動魔法、なのですか?」
「便利な杖でしょう? 生きた精霊を数十万と閉じ込めておくことで、魔法力の消費を気にせず、いつでもどこでも魔法を使えるのですよ」
ボリノクールはタケルに視線を移し、ニタニタと不気味に笑ってみせた。
「タケルくんでしたっけ。あなたですよね。あの娘が身につけている鎧を作ったのは……。いやはや、スク水は私も大好きなんです……。私たち、気が合いそうですねぇ」
「お前、どうしてスク水のことを知ってるんだ……」
「私もライトノベルが大好きなんですよ。この世界は良いですよねぇ……。エロという概念が存在しない。おかげで生徒たちにやりたいほうだいですよ」
ホノが隙を突いて斬りかかると、ボリノクールはフワッと後ろに避けた。
「当たりませんよぉ~。さぁ、もう体力が尽きる頃ですかねぇ。そろそろ、殺しちゃいましょうかねぇ」
「引けホノ! そいつは変態だ!」
タケルが叫んでも、ホノは全く反応せずボリノクールだけを追い続けている。
「ふぉっふぉっふぉ! タケルくん、無駄ですよ~! この世界には、変態なんて言葉がそもそも存在しないのですから!」
ボリノクールは空中浮遊しながら水平に動き続けている。ホノは脚に力を集中させ、一気に踏み込み間合いを詰めた。しかし、ボリノクールの杖先は、すでにホノの額に当てられていたのである。
「終わりです。石化魔法!」
剣を振り上げたホノの身体は硬直し、灰色の石と化した──
「タケルさんには話しておきましょう。私たち人間が、結婚して子作りをするまでの過程を……」
「い、いきなり何だよ! 僕は高校生だぞ。知識として、それくらい知ってらぁ」
焦るタケルに構うことなく、ホノは生命の誕生について話を始めた。
「子は親から生まれます。親が子を産むためには、命の源と言われる白濁色の液体が必要とされています」
「白濁色の液体か……。ホノの口からそんな言葉が出るなんて思わなかったよ」
「命の源は男性の体内でのみ生成されるのですが、生成されるとすぐ、精霊たちが身体の中に入り込み、食べてしまうのです」
「マジか……。この世界の男はオールシーズン賢者タイムなのかよ」
「私たちが魔法を使うには、精霊たちの協力が必要です。精霊たちはその代償として、命の源を食べているのです」
「なるほどね。ウィンウィンな関係というやつか」
精霊は生きるための養分として人間から命の源を摂取する。その精霊を主食としているのが魔物であり、魔物を狩るのが精霊の力を借りた人間なのだ。
人は夫婦で子を宿す間の、限られた期間のみ、精霊を寄せ付けない特別な空間に入ることができる。この空間の中では夫婦が寄り添い、魔法の力に頼ることなく生きることで、やがて子を宿すとされている。
「精霊が入り込めない特別な空間を作り出すことができるのは、ほんの一部の人間だけです。そして、そこへ入ることを許されるのは、子を望む夫婦のみ……」
「じゃあ、地下階やこの鍾乳洞も、その特別な空間ってことになるの?」
「はい。何者かが意図的に作り出した空間であることは間違いありません」
「一体、何のために?」
「それを調べるのが、私たちの……タケルさん! 後ろ!」
タケルの背後にフードを被った男が立っていた。ホノは素早く剣を抜く。しかし、男の姿はすでにそこには無く、一瞬でホノの隣に移動していた。
ホノは剣を振り回したが、男の身体を掠めることすらできない。
「ホノ、右だ!」
タケルの声に従い、ホノは咄嗟に身体の向きを変えた。しかし、男の杖がホノの横っ腹を殴打し、地に崩れる。
「動きが……見えない」
「痛いですか~? ラグラークの騎士も大したことないですねぇ」
「その声は……!」
ホノはガラス瓶を男に投げつけた。ふわりとフードがめくれ、男の素顔が明らかになる。灰色の波立つロングヘアー、顎先まである前髪は、顔の火傷を隠すためのものだ。その前髪の隙間から、ギョロっとした目が覗き込む。
「やはりあなたは……レナスの大賢者さま。何故あなたがこんなことを……!」
「侵入者を排除する。それが私の職務だからに決まっているじゃないですか……。あなた、ひょっとしてバカですかぁ? もしかして、本物のバカなんですかぁ?」
レナスの大賢者、ボリノクール。彼はガーランドにも匹敵する魔法力を持っており、魔法学校の校長も務めている。面倒見の良いその性格から、レナスには彼を崇拝する生徒も多い。
「おやおや~これはこれは」
ボリノクールは割れたガラス瓶に近づき、散らばった魔像のかけらを摘んでニヤリと笑った。
「せっかく苦労して手に入れたのに、持ち帰らなくて良かったんですかぁ?」
「そんなもの、もはや必要ありません。あなたが関与していると分かった時点で、魔像の正体は判明しました。あれは、石化した古代の魔物なのでしょう」
「さすが、ガーランドの娘ですねぇ。ならばこの杖の秘密もとうにお分かりということで良いですよねぇ!」
ボリノクールの杖の先から真っ赤な炎の球が放出された。球はゆらゆらと軌道を変えながら、ホノの頬に当たって爆発した。ジュッと皮膚が焼ける音に、ボリノクールは目を見開き歓喜する。
「たまりませんねぇ! どうです? 顔を焼かれる気分は!」
「ボリノクール……。あなたの目的は何なのですか!」
「そんなのは決まっているでしょう。平和な世の中を築き上げることです。ただ、あなたたちと見ている世界が違うだけなのですよ。私は真の平和を願っているのです! だから邪魔者には消えてもらわねば……。邪魔なんですよ! あなたも、ラグラークの騎士たちも」
「山賊を仕向けたのも……使いの者たちを妨害したのも、全てはあなたの仕業か!」
剣を構えても、ボリノクールはすぐに視界から消えてしまう。ホノは間合いを詰めることもできず、ただ疲弊し続けていた。
「移動魔法、なのですか?」
「便利な杖でしょう? 生きた精霊を数十万と閉じ込めておくことで、魔法力の消費を気にせず、いつでもどこでも魔法を使えるのですよ」
ボリノクールはタケルに視線を移し、ニタニタと不気味に笑ってみせた。
「タケルくんでしたっけ。あなたですよね。あの娘が身につけている鎧を作ったのは……。いやはや、スク水は私も大好きなんです……。私たち、気が合いそうですねぇ」
「お前、どうしてスク水のことを知ってるんだ……」
「私もライトノベルが大好きなんですよ。この世界は良いですよねぇ……。エロという概念が存在しない。おかげで生徒たちにやりたいほうだいですよ」
ホノが隙を突いて斬りかかると、ボリノクールはフワッと後ろに避けた。
「当たりませんよぉ~。さぁ、もう体力が尽きる頃ですかねぇ。そろそろ、殺しちゃいましょうかねぇ」
「引けホノ! そいつは変態だ!」
タケルが叫んでも、ホノは全く反応せずボリノクールだけを追い続けている。
「ふぉっふぉっふぉ! タケルくん、無駄ですよ~! この世界には、変態なんて言葉がそもそも存在しないのですから!」
ボリノクールは空中浮遊しながら水平に動き続けている。ホノは脚に力を集中させ、一気に踏み込み間合いを詰めた。しかし、ボリノクールの杖先は、すでにホノの額に当てられていたのである。
「終わりです。石化魔法!」
剣を振り上げたホノの身体は硬直し、灰色の石と化した──
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