星屑のビキニアーマー

ぺんらば

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第2章 星屑のビキニアーマー

ラグラーク

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 タケルは馬車の中から風景を楽しんでいた。異世界に来てから何日も経つが、クロナがいるおかげで孤独や不安はあまり感じていない。元の世界に帰ったときの土産話を探す方が、今のタケルには楽しかった。

「ラグラークの街に入るわよ」

 クロナは馬車を止め、門番に通行書を手渡した。巨大で分厚い木造の門はゆっくり時間をかけて開いていく。その動力は水力と人力によるものだ。この世界の大人の腕力は、タケルの世界の子どもと同等である。故に、馬車が通れるだけの道幅に開くだけでも一苦労なのである。

 ラグラークの街は賑わっていた。タケルがケレンから聞いていたイメージとはまるで違う。子どもたちは無邪気に走り回り、老人たちは穏やかな表情で談笑している。空を覆い尽くす暗雲は、そんな人たちの活気によって吹き飛ばされそうなほどだ。

 馬車は石畳の道を通り、城の手前で二人を降ろした。役目を終えた馬は、若い兵士に馬小屋へと連れて行かれる。共に旅をした仲間との別れは寂しいものだが、馬との思い出に浸る間もなく、タケルは走り出していた。

「どこへ行くの?」

「知り合いを見つけたんです! すぐに戻りますから、少しだけ時間をください!」

「私たちはお城へ行かないといけないのよ」

「分かってます!」

 タケルは武具屋の前で足を止め、窓から店内を覗き込んだ。そして、一人の男が店から出てくると、いきなり話しかけたのだ。

「ケレンさん! 良かった……。ケレンさんも、こっちの世界に来ていたんですね!」

「ん? 見ない顔だが、キミは誰だ?」

「タケルですよ! 小須藤タケル。まさか記憶喪失になったんですか? 冗談はやめてくださいよ」

「タケルだと? 聞いたことの無い名前だ。ところで、キミは何故、俺の名を知っている?」

 タケルは困惑していた。目の前の男は確かにケレンなのに、まるで初対面のような振る舞いをしている。他人の空似とはとても思えない。その証拠に、この男は皮の鎧を身につけている。だが、その鎧が調達したばかりの新品に見えるのは何故だろう──

「鎧、新しくしたんですか? でも、この鎧を作った人って、街が魔物に襲われたとき亡くなったって……」

「ははは。おかしな奴だ。ラグラークは魔物に襲われたことなんて一度も無いぞ。俺をからかっているのなら、やめてくれ」

 ケレンはタケルの肩をポンと叩き、去って行った。その一部始終を遠くで見ていたクロナがタケルに近づいてくる。

「あの人はタケルの知り合い?」

「そのはずなんですが……。僕のことを覚えていないようなんです。クロナさん、教えてください。ラグラークが魔物に襲われたことが無いと言うのは本当なんですか?」

「そうね。レナスもラグラークも、魔物の襲撃を受けたことは無いわ。だけど、それだっていつまで続くか……。魔王を倒さないと、魔物は生まれ続けるのよ」

「魔王?」

 その言葉にタケルの中で何かが引っ掛かった。ケレンと初めて会った日、彼は言っていなかったか? 魔王は倒したと。いや、倒したはずだったと。

「そういうことか……。僕は、ケレンさんがまだこっちの世界にいた頃の時代に飛ばされてきたんだ。だからラグラークは平和なままだし、ケレンさんは僕を知らない」

 タケルはケレンと初めて会った日の会話を思い出していた。魔物の襲撃で被害に遭うのは、ラグラークや街の人々だけではない。クロナもケルベロスによって殺される、ケレンは確かにそう言っていたのだ。

「どうしたの? 顔色がとても悪いわ。お城へ行く前にどこかで少し休みましょう」

「それどころじゃないよ。クロナさんは、ケルベロスと戦ったことはありますか?」

「戦ったことは無いけど……。確か、ケルベロスには火の魔法が有効だって聞いたことがあるわ。私は火の魔法が得意なの」

「火の魔法か……。クロナさんの魔法は凄いと思うけど、奴らはズル賢いところがあるんです。仲間がやられて、相手が油断したところを背後から襲ってくる……」

「随分と詳しいのね。タケルの忠告は感謝するわ。小さな油断が命を落とすこともある。そういうことよね」

「僕は、クロナさんに死んで欲しくないんです」

 未来を変えるのは難しい。ましてや、人の死を回避させることであれば尚更だ。それは、タイムリープもののライトノベルをいくつも読んでいるタケルには分かっていることだった。
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