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第2章 星屑のビキニアーマー
レナスの鍛冶屋
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異世界転移したタケルは、水色の髪の少女クロナと共に森を抜け、レナスの街に来ていた。
レナスは魔法学に特化した国で、隣国ラグラークとは友好関係を築いている。ラグラークにも魔法の学校はあるのだが、教師のほとんどがレナス出身だ。魔法王国レナスと剣術に長けたラグラーク。この二つの巨大国家が、魔物たちの脅威から世界を守っているのだ。
レナスの街はタケルが思い浮かべるファンタジー世界の雰囲気そのままだった。ゲームやアニメで見ていた西洋風の建物が並び、市場には人が賑わい、橋の下には綺麗な川が流れている。唯一、タケルが残念に思ったのは、空模様だ。この世界の空は重い雲に覆われ、昼間でも薄暗く、場所によっては灯りが必要なほどである。
「いつもこんな色の空なんですか?」
タケルはクロナに質問した。
「他にどんな色の空があるの?」
「どんなって……。クロナさんの髪の色みたいに、綺麗な水色とか。そんなの僕の世界では普通に見れますよ」
「水色の空って、まるで絵本の中の空と一緒だね。タケルの国はどこ? ラグラークより向こうのことは、私よく知らないのよ」
クロナの世界には、スマホも地図アプリも無い。小屋で見た地図も手書きで、正確性に欠けているようにも見えた。
「僕はこの世界の人間じゃないんです。こことは全く違う世界から、転移してきたんですよ」
「変なの。だって私たち、普通にお喋りしてるじゃない。海の向こうの人とは、使っている言語自体が違うと聞いているわ」
「それは確かに不思議ではあるんだよな……」
タケルは初めてケレンと会った日のことを思い出していた。今の自分はまさに、あの日のケレンと同じように見られているのだろう。言葉が通じるのは不思議だが、少なくともタケルには、小屋に貼られていた地図の文字は読めなかった。
「僕を異世界に飛ばしたガーランドなら、もしや……」
「ガーランドがどうしたの?」
「知ってるんですか? ガーランドを」
「知ってるも何も、ガーランドは有名な大賢者よ。知らない人なんていないわ」
タケルは元の世界へ帰る希望が見えてきた。ガーランドならば、二つの世界を自由に行き来できると思ったのだ。
「ガーランドに会わせてよ」
「そうね。普通ならそう滅多に会えるような人ではないんだけど。タケルはとても運が良いわ。私はラグラーク王に呼ばれているの」
クロナは誇り高く胸を張り、タケルにウインクしてみせた。
「でも出発は今じゃないわ。一ヶ月後よ。それまで待てるなら、会わせてあげることもできるけど、どうする?」
「一ヶ月後か。確か、ガーランドは王を守っている人ってケレンさんは言ってたよな。そんな位の高い人に、僕だけで行って会わせてもらえるとも思えない……。分かったよ。一ヶ月後、僕も一緒に連れて行ってください」
「そうと決まれば、まずは宿を探さないとね。私はレナスの魔法学校で特別訓練を受けなきゃいけないから。少しの間、タケルとは離れ離れになっちゃうわ。この付近に知り合いの鍛冶屋があるんだけど、あそこのオヤジさんならタケルを置いてくれるかも!」
二人はクロナの知り合いの鍛冶屋へ向かった。鍛冶屋には武器や防具がわずかに飾られていたが、どれも埃をかぶっている。代わりに鍋やスプーンが所狭しと陳列してあった。
タケルは本物の鎧を間近で見て感激していた。しかし、店主である鍛冶屋のオヤジはそんなタケルを不審がっている。
「なぁクロナの嬢ちゃんよ。この風変わりな格好をした兄ちゃんは誰なのさ?」
「昨晩、森で魔物に襲われていたのよ。名前はタケル。オヤジさんのところでしばらく面倒を見てくれないかな。お二階の部屋、物置になってるって、ぼやいてたじゃない」
「そりゃ構わねぇが……。掃除してねぇぞ」
「掃除なら、タケルがやってくれるわ」
クロナは硬貨を二枚、オヤジに渡そうとしたが、タケルはすぐにそれを阻止した。
「ダメだよクロナさん。宿代は僕が働いて払います。オヤジさん、雑用でも何でもしますから、少しの間、僕をここに置いてください」
「雑用って言われてもなぁ……。お前、スプーンでも作ってみるか? やり方なら俺が教えてやるよ」
「はい! ところで、あそこに飾ってあるような鎧は作ってないんですか?」
「ははは。あの鎧は売りもんじゃないぜ。第一、あんな重いもんを装備できる奴なんかこの世にいねぇだろ。ありゃ、俺が趣味で作っただけさ。何だお前、防具作りに興味あるのか?」
「防具と言うか、衣装作り全般に興味があります」
「そっかぁ。まぁ、年に一、二回は、俺のとこにも皮の鎧の注文ならくるがよ。武器や防具なら、ラグラークの鍛冶屋が優秀だぜ」
ケレンもそんなことを言っていたとタケルは思った。しかし、魔物たちの強襲で死んだとも聞いている。ケレンの鎧を作った人の他にも、腕の良い鍛冶屋がいるのだろうかとタケルは思った。
「どうしても鎧が作りてぇってんなら、空いた時間に好きなだけ作りゃ良いさ。材料だけなら山ほどあるからな」
「ありがとうございます!」
こうして、タケルは少しの間、鍛冶屋に住み込みで働くことになった。
レナスは魔法学に特化した国で、隣国ラグラークとは友好関係を築いている。ラグラークにも魔法の学校はあるのだが、教師のほとんどがレナス出身だ。魔法王国レナスと剣術に長けたラグラーク。この二つの巨大国家が、魔物たちの脅威から世界を守っているのだ。
レナスの街はタケルが思い浮かべるファンタジー世界の雰囲気そのままだった。ゲームやアニメで見ていた西洋風の建物が並び、市場には人が賑わい、橋の下には綺麗な川が流れている。唯一、タケルが残念に思ったのは、空模様だ。この世界の空は重い雲に覆われ、昼間でも薄暗く、場所によっては灯りが必要なほどである。
「いつもこんな色の空なんですか?」
タケルはクロナに質問した。
「他にどんな色の空があるの?」
「どんなって……。クロナさんの髪の色みたいに、綺麗な水色とか。そんなの僕の世界では普通に見れますよ」
「水色の空って、まるで絵本の中の空と一緒だね。タケルの国はどこ? ラグラークより向こうのことは、私よく知らないのよ」
クロナの世界には、スマホも地図アプリも無い。小屋で見た地図も手書きで、正確性に欠けているようにも見えた。
「僕はこの世界の人間じゃないんです。こことは全く違う世界から、転移してきたんですよ」
「変なの。だって私たち、普通にお喋りしてるじゃない。海の向こうの人とは、使っている言語自体が違うと聞いているわ」
「それは確かに不思議ではあるんだよな……」
タケルは初めてケレンと会った日のことを思い出していた。今の自分はまさに、あの日のケレンと同じように見られているのだろう。言葉が通じるのは不思議だが、少なくともタケルには、小屋に貼られていた地図の文字は読めなかった。
「僕を異世界に飛ばしたガーランドなら、もしや……」
「ガーランドがどうしたの?」
「知ってるんですか? ガーランドを」
「知ってるも何も、ガーランドは有名な大賢者よ。知らない人なんていないわ」
タケルは元の世界へ帰る希望が見えてきた。ガーランドならば、二つの世界を自由に行き来できると思ったのだ。
「ガーランドに会わせてよ」
「そうね。普通ならそう滅多に会えるような人ではないんだけど。タケルはとても運が良いわ。私はラグラーク王に呼ばれているの」
クロナは誇り高く胸を張り、タケルにウインクしてみせた。
「でも出発は今じゃないわ。一ヶ月後よ。それまで待てるなら、会わせてあげることもできるけど、どうする?」
「一ヶ月後か。確か、ガーランドは王を守っている人ってケレンさんは言ってたよな。そんな位の高い人に、僕だけで行って会わせてもらえるとも思えない……。分かったよ。一ヶ月後、僕も一緒に連れて行ってください」
「そうと決まれば、まずは宿を探さないとね。私はレナスの魔法学校で特別訓練を受けなきゃいけないから。少しの間、タケルとは離れ離れになっちゃうわ。この付近に知り合いの鍛冶屋があるんだけど、あそこのオヤジさんならタケルを置いてくれるかも!」
二人はクロナの知り合いの鍛冶屋へ向かった。鍛冶屋には武器や防具がわずかに飾られていたが、どれも埃をかぶっている。代わりに鍋やスプーンが所狭しと陳列してあった。
タケルは本物の鎧を間近で見て感激していた。しかし、店主である鍛冶屋のオヤジはそんなタケルを不審がっている。
「なぁクロナの嬢ちゃんよ。この風変わりな格好をした兄ちゃんは誰なのさ?」
「昨晩、森で魔物に襲われていたのよ。名前はタケル。オヤジさんのところでしばらく面倒を見てくれないかな。お二階の部屋、物置になってるって、ぼやいてたじゃない」
「そりゃ構わねぇが……。掃除してねぇぞ」
「掃除なら、タケルがやってくれるわ」
クロナは硬貨を二枚、オヤジに渡そうとしたが、タケルはすぐにそれを阻止した。
「ダメだよクロナさん。宿代は僕が働いて払います。オヤジさん、雑用でも何でもしますから、少しの間、僕をここに置いてください」
「雑用って言われてもなぁ……。お前、スプーンでも作ってみるか? やり方なら俺が教えてやるよ」
「はい! ところで、あそこに飾ってあるような鎧は作ってないんですか?」
「ははは。あの鎧は売りもんじゃないぜ。第一、あんな重いもんを装備できる奴なんかこの世にいねぇだろ。ありゃ、俺が趣味で作っただけさ。何だお前、防具作りに興味あるのか?」
「防具と言うか、衣装作り全般に興味があります」
「そっかぁ。まぁ、年に一、二回は、俺のとこにも皮の鎧の注文ならくるがよ。武器や防具なら、ラグラークの鍛冶屋が優秀だぜ」
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