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第1章 ビキニアーマーができるまで
転移、転生?
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暗雲立ち込める空。魔物が現れてからというもの、この世界から青空と星空は姿を消していた。
草木が生い茂った森の泉の近くで、タケルは目を覚ました。自分の身に何が起きたのか、それはタケル自身にも分からない。ここが死後の世界なのか、それとも夢の中なのか。ただ目の前には、タケルを食わんとする魔物が数匹いるだけだ。夢であっても食われるのは嫌だと思ったタケルは、無我夢中になって、魔物たちから逃げ出した。
「何なんだよ! 何でオオカミみたいなのが僕を襲ってくるんだ?」
タケルは偶然見つけた小屋の中に身を潜めた。魔物たちは小屋の周りを行ったり来たりしながら、さらに多くの仲間を呼ぼうと鳴き始める。木造の小屋は所々壁に隙間ができており、外の魔物の動きを何となくだが知ることができた。
「殺される。このままじゃ絶対やばい。だけど、あんな数を一体どうすれば……」
タケルが喚き散らしていると、地下階段から髪の長い裸の女が姿を現した。
「まさかの地下階段! ……じゃなくて、人がいることに気付かず入っちゃって、ごめんなさい! しかも裸だし!」
タケルが土下座をして謝ると、女はクスクスと笑った。
「大丈夫よ。気にしないで」
「だけど、何か小屋の周りを囲まれちゃって……。裸を見た上に、トラブルに巻き込んじゃって、すいません!」
「それも気にしなくて良いのに。この辺りに魔物が出るのは承知のことだし、私は裸を見られたくらいで怒ったりしないもの」
「今、魔物って言ったんですか……?」
顔を上げると、目の前にはタケルが成人雑誌でしか見たことのないような、女性の裸がはっきり目に入った。
「うわぁ!」
「ほんと、おかしな人ね。私はクロナ。クロナ・トゥエルティ。レナス出身の魔法使いよ。あなたは?」
「僕はタケルです。小須藤タケル。高校二年生の男子です」
クロナは部屋に灯りを灯し、肌着を身につけ、その上に真っ白な衣服を纏った。それまで暗くてよく分からなかったが、年齢はタケルとさほど変わらないように見えた。髪の毛は透き通った水色で、瞳の色も青い。何よりタケルが一番驚いたのは、クロナの顔が雪見にそっくりなことだ。
「僕の知ってる人にそっくりだ……。って、そんなことより、外の魔物たちをどうにかしなきゃ!」
「それなら心配いらないって。私の魔法にかかれば、あの程度の魔物くらい……」
クロナは小屋の外に出て魔物たちを火炎魔法で一掃してきた。
「ほらね?」
「……あの、ここってもしかして異世界なんですか?」
「ん?」
「勇者ケレン・アルヴァロークって、知ってたりします?」
「知らないよ」
クロナはパンを半分にちぎり、タケルの口に押し込んだ。
「夕飯まだでしょ? 一緒に食べよう!」
タケルはここが夢の中なのだと確信した。雪見にそっくりな顔の少女に、魔物や魔法が存在する世界。それに、こうやってパンを食べていても、ちっとも味がしないのだ。
「タケルは何故泣いてるの?」
「え……。僕、泣いてる?」
目からポロポロと涙がこぼれるタケルを、クロナは心配そうに見つめていた。
「全部分かってるんだ……。僕はガーランドって人に魔法で殺された。ここは異世界でもなければ、夢の中でもない。死後の世界なんだよ。あぁ……せめて、ビキニアーマーを着た雪見ちゃんを、死ぬ前に見てみたかった……」
「可哀想。きっとどこかで頭を打って、おかしくなってしまったのね」
クロナはタケルをベッドに連れて行き、寝かせてやった。
「明日、レナスに戻る予定なの。レナスには優秀な医者がいるわ。一度診てもらいましょう」
「雪見ちゃん……僕は……キミの……」
「まだ私を誰かと勘違いしてる。そんなに似ているのかしら」
「キミの……ビキニ……アーマー 」
タケルは眠くなり、目を閉じた。そのまま小屋のベッドで一夜を過ごし、そして、朝になって目を覚ました。
タケルの横にはクロナが寝息を立てている。薄布一枚の服は胸の谷間を露わにし、その肌の温もりは、直接タケルに伝わってきた。
「こ、これは現実のおっぱいだ……! ここは夢の中でも死後の世界でもない。パラダイスか!」
「……うるさいなぁ。私、朝は弱いんだから静かにしてよね」
タケルはベッドから飛び降りた。そして、壁に貼られている地図を見つけて、それをじっくり眺めていた。
「見たことのない地形だ……。ねぇ、クロナさん。レナスってどこにあるんですか?」
「んー。レナスはラグラークの隣だよー」
「……ラグラーク! そうか、ここはやっぱりケレンさんの世界なんだ」
タケルはガーランドの魔法によって転移させられていたのだ。しかし、亜空間を通らずに来たことで、友依や剛田たちとは違う時代に降りてしまったのである。ここは、ケレンとクロナが出会うより前の時代。ケレンが賢者の腕輪でタケルの世界に行くのは、この二年後だ。
「戻らなきゃ。僕の世界に。戻って雪見ちゃんのビキニアーマー姿を見るんだ!」
決意新たに、タケルの異世界生活が始まった。
草木が生い茂った森の泉の近くで、タケルは目を覚ました。自分の身に何が起きたのか、それはタケル自身にも分からない。ここが死後の世界なのか、それとも夢の中なのか。ただ目の前には、タケルを食わんとする魔物が数匹いるだけだ。夢であっても食われるのは嫌だと思ったタケルは、無我夢中になって、魔物たちから逃げ出した。
「何なんだよ! 何でオオカミみたいなのが僕を襲ってくるんだ?」
タケルは偶然見つけた小屋の中に身を潜めた。魔物たちは小屋の周りを行ったり来たりしながら、さらに多くの仲間を呼ぼうと鳴き始める。木造の小屋は所々壁に隙間ができており、外の魔物の動きを何となくだが知ることができた。
「殺される。このままじゃ絶対やばい。だけど、あんな数を一体どうすれば……」
タケルが喚き散らしていると、地下階段から髪の長い裸の女が姿を現した。
「まさかの地下階段! ……じゃなくて、人がいることに気付かず入っちゃって、ごめんなさい! しかも裸だし!」
タケルが土下座をして謝ると、女はクスクスと笑った。
「大丈夫よ。気にしないで」
「だけど、何か小屋の周りを囲まれちゃって……。裸を見た上に、トラブルに巻き込んじゃって、すいません!」
「それも気にしなくて良いのに。この辺りに魔物が出るのは承知のことだし、私は裸を見られたくらいで怒ったりしないもの」
「今、魔物って言ったんですか……?」
顔を上げると、目の前にはタケルが成人雑誌でしか見たことのないような、女性の裸がはっきり目に入った。
「うわぁ!」
「ほんと、おかしな人ね。私はクロナ。クロナ・トゥエルティ。レナス出身の魔法使いよ。あなたは?」
「僕はタケルです。小須藤タケル。高校二年生の男子です」
クロナは部屋に灯りを灯し、肌着を身につけ、その上に真っ白な衣服を纏った。それまで暗くてよく分からなかったが、年齢はタケルとさほど変わらないように見えた。髪の毛は透き通った水色で、瞳の色も青い。何よりタケルが一番驚いたのは、クロナの顔が雪見にそっくりなことだ。
「僕の知ってる人にそっくりだ……。って、そんなことより、外の魔物たちをどうにかしなきゃ!」
「それなら心配いらないって。私の魔法にかかれば、あの程度の魔物くらい……」
クロナは小屋の外に出て魔物たちを火炎魔法で一掃してきた。
「ほらね?」
「……あの、ここってもしかして異世界なんですか?」
「ん?」
「勇者ケレン・アルヴァロークって、知ってたりします?」
「知らないよ」
クロナはパンを半分にちぎり、タケルの口に押し込んだ。
「夕飯まだでしょ? 一緒に食べよう!」
タケルはここが夢の中なのだと確信した。雪見にそっくりな顔の少女に、魔物や魔法が存在する世界。それに、こうやってパンを食べていても、ちっとも味がしないのだ。
「タケルは何故泣いてるの?」
「え……。僕、泣いてる?」
目からポロポロと涙がこぼれるタケルを、クロナは心配そうに見つめていた。
「全部分かってるんだ……。僕はガーランドって人に魔法で殺された。ここは異世界でもなければ、夢の中でもない。死後の世界なんだよ。あぁ……せめて、ビキニアーマーを着た雪見ちゃんを、死ぬ前に見てみたかった……」
「可哀想。きっとどこかで頭を打って、おかしくなってしまったのね」
クロナはタケルをベッドに連れて行き、寝かせてやった。
「明日、レナスに戻る予定なの。レナスには優秀な医者がいるわ。一度診てもらいましょう」
「雪見ちゃん……僕は……キミの……」
「まだ私を誰かと勘違いしてる。そんなに似ているのかしら」
「キミの……ビキニ……アーマー 」
タケルは眠くなり、目を閉じた。そのまま小屋のベッドで一夜を過ごし、そして、朝になって目を覚ました。
タケルの横にはクロナが寝息を立てている。薄布一枚の服は胸の谷間を露わにし、その肌の温もりは、直接タケルに伝わってきた。
「こ、これは現実のおっぱいだ……! ここは夢の中でも死後の世界でもない。パラダイスか!」
「……うるさいなぁ。私、朝は弱いんだから静かにしてよね」
タケルはベッドから飛び降りた。そして、壁に貼られている地図を見つけて、それをじっくり眺めていた。
「見たことのない地形だ……。ねぇ、クロナさん。レナスってどこにあるんですか?」
「んー。レナスはラグラークの隣だよー」
「……ラグラーク! そうか、ここはやっぱりケレンさんの世界なんだ」
タケルはガーランドの魔法によって転移させられていたのだ。しかし、亜空間を通らずに来たことで、友依や剛田たちとは違う時代に降りてしまったのである。ここは、ケレンとクロナが出会うより前の時代。ケレンが賢者の腕輪でタケルの世界に行くのは、この二年後だ。
「戻らなきゃ。僕の世界に。戻って雪見ちゃんのビキニアーマー姿を見るんだ!」
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