28 / 64
第1章 ビキニアーマーができるまで
先手を打つ
しおりを挟む
「屋上に連れてくるなんて、随分とベタなことしてくれるじゃないですかー」
友依は苛立っていた。何故自分が、ここまでタケルに翻弄されなければいけないのか。その気になれば無視することも出来たはずなのだ。しかし今、友依は自分の意思で屋上に来ている。
「で、あなたの思う黒幕とは?」
「雪見ちゃんだよ。笠原雪見が、裏でケルベロスを召喚している」
あまりにあっけらかんとしたタケルの態度に、友依は怒りを通り越して呆れていた。
「雪ちゃんが黒幕ですか……。本人がそれを聞いたら、さぞ悲しむことでしょうね。あなた、それでも本当に友達なんですか?」
「雪見ちゃんが黒幕なのと、僕と雪見ちゃんが友達でいることは、何も関係ないさ。キミは、雪見ちゃんが黒幕だったら友達をやめるのか?」
「……それ、答える必要あります?」
友依は敵意を剥き出しにして、タケルを睨みつけた。雪見と仲良くなってまだ間も無いが、それでも友依には特別な思い入れがあった。それが一体何なのかは、友依自身にも分からない。だが、理屈ではなく感情が彼女の心を動かすのだ。
「雪ちゃんを黒幕だと思う理由を聞かせてもらいましょうか」
「理由か……」
タケルは全てを語るつもりはなかった。魔法のことを口にするのは逆効果であり、立ち入り禁止の廃校舎に侵入したことも、タケルの口から言うことはできない。何故なら、これがバレたら停学処分になってしまうかもしれないからだ。
「言えることは一つだけ。雪見ちゃんの見ている神山先生は、僕らの知ってる神山先生とは別人ってことだよ」
「別人? それが本当なら、雪ちゃんは誰からプール掃除を命じられたんです?」
友依が食いついたのには理由があった。もしもタケルの言葉が真実なら、これまで疑問だったことにも説明がつく。一つは、神山が雪見に指示を出したことを頑なに否定し続けていること。そしてもう一つは、神山がいない日に雪見が会っていたという矛盾の証言。
「仮にですよ。雪ちゃんが別の人間を神山先生だと思っていたとして、どうしてあなたは雪ちゃんを黒幕だと思うんですか?」
雪見の勘違いをケルベロス召喚に結びつけるには無理がある。神山への疑いを晴らすことがタケルの目的なら話は通るが、そうではない。友人であるはずの雪見を黒幕だと主張するタケルに、友依は違和感を覚えていた。
「中村さん。ここから先は、キミ自身の力だけで真実に辿り着いて欲しい。そうじゃないと意味がないんだ」
「せっかく時間を作ってあげたんですから、全て話せば良いものを……」
友依にはモヤモヤが残るだけだった。しかし、このモヤモヤを残すことがタケルの狙いでもある。
「キミが真実に辿り着くのは時間の問題だと思ってる。僕の助言がなくとも、中村さんなら雪見ちゃんの発言や行動に疑問を持ち、自ら謎を解きに行動していたはずさ」
「そう思うなら何故、わざわざ私に話を?」
「先手を打ったんだ」
「先手ですか。そのアホヅラで言われると、何かムカつきますねー。グーで殴ってやりたい気分です」
タケルがしていることは、数学で言うところの証明に近い。結果を先に出し、そこに行く着く過程を示せと言っているのだ。
「これは憶測だけど、雪見ちゃんにケルベロスを召喚している自覚は無いと思う。だけど、彼女が黒幕であることは確かなんだ。この事実に直面したとき、中村さんはどう動く?」
「どうって……。会長の指示に従うまでですよ」
「自衛団に雪見ちゃんをマークさせると言われても、キミはそれに従うのか? そんなことをしてみろ。悪い噂はたちまち学校中に広まり、雪見ちゃんは居場所を失うぞ」
「でもそれは……仕方のないことです」
口ではそう言っているが、これが友依の本心ではないことを、タケルは気づいていた。
「必ず最善の策があるはずさ。書記の中村さんには、生徒会の視点からそれを考えて欲しい」
「……お気持ちだけは、分かりました。ですが、あなたから聞いた話には何の確証もありません。私は神山先生が黒幕だと思っていますし、生徒会はその方向で動いています」
「今はまだ、それでも構わないよ」
「……アホヅラのくせに、やたらとカッコつけるんですね」
「それは、どっこいどっこいだろ」
「はぁ?」
話が終わると、タケルは友依の前から去って行った。屋上に一人残された友依は、改めて決意する。いつかタケルをグーで殴ってやろうと。
✳︎ ✳︎ ✳︎
タケルが友依と会っている頃、雪見はケレンと話をしていた。
「ケルベロスの狙いは私です。私のせいでみんなが傷つくのは、もう嫌なんです。私は強くなりたい。ケルベロスを倒せる力が欲しい。だから、お願いです。私にケレンさんの──」
「俺の鎧が欲しいのだな」
雪見は慌てて首を横に振った。
「何だ。違うのか?」
「私はケレンさんの剣術を学びたいんです。どうか、私に稽古をつけて下さい」
「それは構わんが、風の剣術を学ぶには、これと同じ剣が無いと話にならんぞ」
ケレンは腰にぶら下げている剣を雪見に持たせてみた。
「わっ。とても軽いんですね。それに、薄くて平べったい」
「この地方の武器屋に同じものがあるか分からんが、まずは自分の足で探して回ってみると良い。剣とはすなわち、巡り合わせだからな」
「巡り合わせ……ですか」
「雪見が自分に合った剣を入手できたら合格だ。そのときは風の剣術を教えてやろう!」
「は、はい! 頑張ります!」
雪見は思った。こんな剣、どこを探しても売っていないと。そもそも武器屋なんてものが無いのだ。自分で作るしかない、雪見はそう考えた。
「ケレンさん。この剣をスマホで撮影しても良いですか?」
「よく分からんが、好きにしろ」
雪見はケレンの剣をいろいろな角度から写真に収めた。コスプレ衣装作りが得意なタケルからならば、何か良いアドバイスをもらえるかもしれない。
希望に胸を膨らます雪見の想いは、魔法層の最下にまで光を照らしていた。
友依は苛立っていた。何故自分が、ここまでタケルに翻弄されなければいけないのか。その気になれば無視することも出来たはずなのだ。しかし今、友依は自分の意思で屋上に来ている。
「で、あなたの思う黒幕とは?」
「雪見ちゃんだよ。笠原雪見が、裏でケルベロスを召喚している」
あまりにあっけらかんとしたタケルの態度に、友依は怒りを通り越して呆れていた。
「雪ちゃんが黒幕ですか……。本人がそれを聞いたら、さぞ悲しむことでしょうね。あなた、それでも本当に友達なんですか?」
「雪見ちゃんが黒幕なのと、僕と雪見ちゃんが友達でいることは、何も関係ないさ。キミは、雪見ちゃんが黒幕だったら友達をやめるのか?」
「……それ、答える必要あります?」
友依は敵意を剥き出しにして、タケルを睨みつけた。雪見と仲良くなってまだ間も無いが、それでも友依には特別な思い入れがあった。それが一体何なのかは、友依自身にも分からない。だが、理屈ではなく感情が彼女の心を動かすのだ。
「雪ちゃんを黒幕だと思う理由を聞かせてもらいましょうか」
「理由か……」
タケルは全てを語るつもりはなかった。魔法のことを口にするのは逆効果であり、立ち入り禁止の廃校舎に侵入したことも、タケルの口から言うことはできない。何故なら、これがバレたら停学処分になってしまうかもしれないからだ。
「言えることは一つだけ。雪見ちゃんの見ている神山先生は、僕らの知ってる神山先生とは別人ってことだよ」
「別人? それが本当なら、雪ちゃんは誰からプール掃除を命じられたんです?」
友依が食いついたのには理由があった。もしもタケルの言葉が真実なら、これまで疑問だったことにも説明がつく。一つは、神山が雪見に指示を出したことを頑なに否定し続けていること。そしてもう一つは、神山がいない日に雪見が会っていたという矛盾の証言。
「仮にですよ。雪ちゃんが別の人間を神山先生だと思っていたとして、どうしてあなたは雪ちゃんを黒幕だと思うんですか?」
雪見の勘違いをケルベロス召喚に結びつけるには無理がある。神山への疑いを晴らすことがタケルの目的なら話は通るが、そうではない。友人であるはずの雪見を黒幕だと主張するタケルに、友依は違和感を覚えていた。
「中村さん。ここから先は、キミ自身の力だけで真実に辿り着いて欲しい。そうじゃないと意味がないんだ」
「せっかく時間を作ってあげたんですから、全て話せば良いものを……」
友依にはモヤモヤが残るだけだった。しかし、このモヤモヤを残すことがタケルの狙いでもある。
「キミが真実に辿り着くのは時間の問題だと思ってる。僕の助言がなくとも、中村さんなら雪見ちゃんの発言や行動に疑問を持ち、自ら謎を解きに行動していたはずさ」
「そう思うなら何故、わざわざ私に話を?」
「先手を打ったんだ」
「先手ですか。そのアホヅラで言われると、何かムカつきますねー。グーで殴ってやりたい気分です」
タケルがしていることは、数学で言うところの証明に近い。結果を先に出し、そこに行く着く過程を示せと言っているのだ。
「これは憶測だけど、雪見ちゃんにケルベロスを召喚している自覚は無いと思う。だけど、彼女が黒幕であることは確かなんだ。この事実に直面したとき、中村さんはどう動く?」
「どうって……。会長の指示に従うまでですよ」
「自衛団に雪見ちゃんをマークさせると言われても、キミはそれに従うのか? そんなことをしてみろ。悪い噂はたちまち学校中に広まり、雪見ちゃんは居場所を失うぞ」
「でもそれは……仕方のないことです」
口ではそう言っているが、これが友依の本心ではないことを、タケルは気づいていた。
「必ず最善の策があるはずさ。書記の中村さんには、生徒会の視点からそれを考えて欲しい」
「……お気持ちだけは、分かりました。ですが、あなたから聞いた話には何の確証もありません。私は神山先生が黒幕だと思っていますし、生徒会はその方向で動いています」
「今はまだ、それでも構わないよ」
「……アホヅラのくせに、やたらとカッコつけるんですね」
「それは、どっこいどっこいだろ」
「はぁ?」
話が終わると、タケルは友依の前から去って行った。屋上に一人残された友依は、改めて決意する。いつかタケルをグーで殴ってやろうと。
✳︎ ✳︎ ✳︎
タケルが友依と会っている頃、雪見はケレンと話をしていた。
「ケルベロスの狙いは私です。私のせいでみんなが傷つくのは、もう嫌なんです。私は強くなりたい。ケルベロスを倒せる力が欲しい。だから、お願いです。私にケレンさんの──」
「俺の鎧が欲しいのだな」
雪見は慌てて首を横に振った。
「何だ。違うのか?」
「私はケレンさんの剣術を学びたいんです。どうか、私に稽古をつけて下さい」
「それは構わんが、風の剣術を学ぶには、これと同じ剣が無いと話にならんぞ」
ケレンは腰にぶら下げている剣を雪見に持たせてみた。
「わっ。とても軽いんですね。それに、薄くて平べったい」
「この地方の武器屋に同じものがあるか分からんが、まずは自分の足で探して回ってみると良い。剣とはすなわち、巡り合わせだからな」
「巡り合わせ……ですか」
「雪見が自分に合った剣を入手できたら合格だ。そのときは風の剣術を教えてやろう!」
「は、はい! 頑張ります!」
雪見は思った。こんな剣、どこを探しても売っていないと。そもそも武器屋なんてものが無いのだ。自分で作るしかない、雪見はそう考えた。
「ケレンさん。この剣をスマホで撮影しても良いですか?」
「よく分からんが、好きにしろ」
雪見はケレンの剣をいろいろな角度から写真に収めた。コスプレ衣装作りが得意なタケルからならば、何か良いアドバイスをもらえるかもしれない。
希望に胸を膨らます雪見の想いは、魔法層の最下にまで光を照らしていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる