星屑のビキニアーマー

ぺんらば

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第1章 ビキニアーマーができるまで

先手を打つ

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「屋上に連れてくるなんて、随分とベタなことしてくれるじゃないですかー」

 友依は苛立っていた。何故自分が、ここまでタケルに翻弄されなければいけないのか。その気になれば無視することも出来たはずなのだ。しかし今、友依は自分の意思で屋上に来ている。

「で、あなたの思う黒幕とは?」

「雪見ちゃんだよ。笠原雪見が、裏でケルベロスを召喚している」

 あまりにあっけらかんとしたタケルの態度に、友依は怒りを通り越して呆れていた。

「雪ちゃんが黒幕ですか……。本人がそれを聞いたら、さぞ悲しむことでしょうね。あなた、それでも本当に友達なんですか?」

「雪見ちゃんが黒幕なのと、僕と雪見ちゃんが友達でいることは、何も関係ないさ。キミは、雪見ちゃんが黒幕だったら友達をやめるのか?」

「……それ、答える必要あります?」

 友依は敵意を剥き出しにして、タケルを睨みつけた。雪見と仲良くなってまだ間も無いが、それでも友依には特別な思い入れがあった。それが一体何なのかは、友依自身にも分からない。だが、理屈ではなく感情が彼女の心を動かすのだ。

「雪ちゃんを黒幕だと思う理由を聞かせてもらいましょうか」

「理由か……」

 タケルは全てを語るつもりはなかった。魔法のことを口にするのは逆効果であり、立ち入り禁止の廃校舎に侵入したことも、タケルの口から言うことはできない。何故なら、これがバレたら停学処分になってしまうかもしれないからだ。

「言えることは一つだけ。雪見ちゃんの見ている神山先生は、僕らの知ってる神山先生とは別人ってことだよ」

「別人? それが本当なら、雪ちゃんは誰からプール掃除を命じられたんです?」

 友依が食いついたのには理由があった。もしもタケルの言葉が真実なら、これまで疑問だったことにも説明がつく。一つは、神山が雪見に指示を出したことを頑なに否定し続けていること。そしてもう一つは、神山がいない日に雪見が会っていたという矛盾の証言。

「仮にですよ。雪ちゃんが別の人間を神山先生だと思っていたとして、どうしてあなたは雪ちゃんを黒幕だと思うんですか?」

 雪見の勘違いをケルベロス召喚に結びつけるには無理がある。神山への疑いを晴らすことがタケルの目的なら話は通るが、そうではない。友人であるはずの雪見を黒幕だと主張するタケルに、友依は違和感を覚えていた。

「中村さん。ここから先は、キミ自身の力だけで真実に辿り着いて欲しい。そうじゃないと意味がないんだ」

「せっかく時間を作ってあげたんですから、全て話せば良いものを……」

 友依にはモヤモヤが残るだけだった。しかし、このモヤモヤを残すことがタケルの狙いでもある。

「キミが真実に辿り着くのは時間の問題だと思ってる。僕の助言がなくとも、中村さんなら雪見ちゃんの発言や行動に疑問を持ち、自ら謎を解きに行動していたはずさ」

「そう思うなら何故、わざわざ私に話を?」

「先手を打ったんだ」

「先手ですか。そのアホヅラで言われると、何かムカつきますねー。グーで殴ってやりたい気分です」

 タケルがしていることは、数学で言うところの証明に近い。結果を先に出し、そこに行く着く過程を示せと言っているのだ。

「これは憶測だけど、雪見ちゃんにケルベロスを召喚している自覚は無いと思う。だけど、彼女が黒幕であることは確かなんだ。この事実に直面したとき、中村さんはどう動く?」

「どうって……。会長の指示に従うまでですよ」

「自衛団に雪見ちゃんをマークさせると言われても、キミはそれに従うのか? そんなことをしてみろ。悪い噂はたちまち学校中に広まり、雪見ちゃんは居場所を失うぞ」

「でもそれは……仕方のないことです」

 口ではそう言っているが、これが友依の本心ではないことを、タケルは気づいていた。

「必ず最善の策があるはずさ。書記の中村さんには、生徒会の視点からそれを考えて欲しい」

「……お気持ちだけは、分かりました。ですが、あなたから聞いた話には何の確証もありません。私は神山先生が黒幕だと思っていますし、生徒会はその方向で動いています」

「今はまだ、それでも構わないよ」

「……アホヅラのくせに、やたらとカッコつけるんですね」

「それは、どっこいどっこいだろ」

「はぁ?」

 話が終わると、タケルは友依の前から去って行った。屋上に一人残された友依は、改めて決意する。いつかタケルをグーで殴ってやろうと。


 ✳︎  ✳︎  ✳︎


 タケルが友依と会っている頃、雪見はケレンと話をしていた。

「ケルベロスの狙いは私です。私のせいでみんなが傷つくのは、もう嫌なんです。私は強くなりたい。ケルベロスを倒せる力が欲しい。だから、お願いです。私にケレンさんの──」

「俺の鎧が欲しいのだな」

 雪見は慌てて首を横に振った。

「何だ。違うのか?」

「私はケレンさんの剣術を学びたいんです。どうか、私に稽古をつけて下さい」

「それは構わんが、風の剣術を学ぶには、これと同じ剣が無いと話にならんぞ」

 ケレンは腰にぶら下げている剣を雪見に持たせてみた。

「わっ。とても軽いんですね。それに、薄くて平べったい」

「この地方の武器屋に同じものがあるか分からんが、まずは自分の足で探して回ってみると良い。剣とはすなわち、巡り合わせだからな」

「巡り合わせ……ですか」

「雪見が自分に合った剣を入手できたら合格だ。そのときは風の剣術を教えてやろう!」

「は、はい! 頑張ります!」

 雪見は思った。こんな剣、どこを探しても売っていないと。そもそも武器屋なんてものが無いのだ。自分で作るしかない、雪見はそう考えた。

「ケレンさん。この剣をスマホで撮影しても良いですか?」

「よく分からんが、好きにしろ」

 雪見はケレンの剣をいろいろな角度から写真に収めた。コスプレ衣装作りが得意なタケルからならば、何か良いアドバイスをもらえるかもしれない。

 希望に胸を膨らます雪見の想いは、魔法層の最下にまで光を照らしていた。
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