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第1章 ビキニアーマーができるまで
秘めごと
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登校時間。
正門に向かう生徒たち。その真逆の方向へ歩いていく雪見を、タケルは発見した。
「おーい。雪見ちゃーん!」
タケルの声かけに、雪見は振り向くことなく通り過ぎていく。いきなりちゃん付けで呼んだのがマズかったのか。しかし、雪見がそんなことくらいで無視するはずがないと思い、タケルはもう一度声をかけてみようと後を追った。
高いコンクリート壁に挟まれた細い道を、雪見は歩いている。その道は緩い上り坂になっており、体力の無いタケルには厳しかった。雪見との距離はどんどん離れていく。
ようやく坂道を抜けると、今度は砂利で敷き詰められた駐車場に出た。長い間手入れがされてないのだろう。ところどころ雑草が生い茂っている。停めてあるのは白い軽トラが一台。あとは廃車が放置してあるだけだ。
駐車場の横には、立ち入り禁止の廃校舎が見える。雪見はここに入って行ったのだ。
「冗談じゃないぞ。旧校舎にはお化けが出るって噂もあるんだ。僕は怖いのがダメなのに……」
旧校舎の玄関には鍵がかけられていた。タケルは他に侵入できるところがないか探してみることにした。
「あった! あそこからなら、簡単に中へ入れそうだ」
旧保健室のガラス窓が、丸々一枚、枠ごと地面に落ちて割れていた。
「雪見ちゃんもここから入ったはずだ。ガラスの破片で怪我しないように気をつけなきゃ」
床板は腐って柔らかくなっており、湿った泥が一面に広がっている。タケルは何度も泥に足を取られそうになりながら、ゆっくり慎重に、奥へと進んでいった。
雨風の入り込んでいない廊下は、埃こそあれど状態は良い方だった。タケルが気になったのは、たくさんの足跡だ。中にはまだ新しいものもあり、動物の足跡も含まれていた。
「まさか、ケルベロスのじゃないよな……」
そのまさかであるが、この足跡をつけたケルベロスは、すでにケレンによって討伐されている。
「よし、雪見ちゃんの足跡を追っていこう」
タケルは一番新しい足跡を辿って進んで行った。その足跡は、二階の廊下の、一番奥の教室の前で終わっていた。
「この中に雪見ちゃんが……」
わずかに開いている引き戸から、タケルは教室の中を覗いてみた。そこには、雪見が一人で立っていた。
雪見は黒板の方を見ながら何かを喋っている。その声はとても聞き取りづらかったが、ケルベロスについて話しているようだった。タケルは教室に入り、雪見に近づいていった。
雪見はタケルに気付かず、尚も一人で喋っている。ときに怒ったり、困ったような表情を浮かべながら。一人二役で会話を続けていた。
タケルはその不思議な光景をぼんやりと眺めていた。
突然、雪見は自分の胸に手を当てた。唇をぎゅっと噛み締め、その表情は怒りを抑えているようにも見える。そして、ゆっくりと片方の乳房を揉み始めたのだ。
恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、雪見はただ一点を見続けている。まるで何かに屈しない、そんな意志すら感じられた。しかし、その表情は一変する。
雪見はいきなり口元を歪ませ、静かに笑い始めた。そして、胸元のボタンを上から順に外していく。
タケルは咄嗟に雪見の腕を掴んだ。
「ダメだ! 目を覚ませ!」
雪見はタケルを睨み付けると、次の瞬間には意識を無くし、その場に倒れ込んでしまった。
「雪見ちゃん!」
タケルは雪見を抱き起こし、その焦燥しきった顔を見て、事態の深刻さを感じた。
「雪見ちゃん。キミは一体、誰と話をしていたんだ……」
正門に向かう生徒たち。その真逆の方向へ歩いていく雪見を、タケルは発見した。
「おーい。雪見ちゃーん!」
タケルの声かけに、雪見は振り向くことなく通り過ぎていく。いきなりちゃん付けで呼んだのがマズかったのか。しかし、雪見がそんなことくらいで無視するはずがないと思い、タケルはもう一度声をかけてみようと後を追った。
高いコンクリート壁に挟まれた細い道を、雪見は歩いている。その道は緩い上り坂になっており、体力の無いタケルには厳しかった。雪見との距離はどんどん離れていく。
ようやく坂道を抜けると、今度は砂利で敷き詰められた駐車場に出た。長い間手入れがされてないのだろう。ところどころ雑草が生い茂っている。停めてあるのは白い軽トラが一台。あとは廃車が放置してあるだけだ。
駐車場の横には、立ち入り禁止の廃校舎が見える。雪見はここに入って行ったのだ。
「冗談じゃないぞ。旧校舎にはお化けが出るって噂もあるんだ。僕は怖いのがダメなのに……」
旧校舎の玄関には鍵がかけられていた。タケルは他に侵入できるところがないか探してみることにした。
「あった! あそこからなら、簡単に中へ入れそうだ」
旧保健室のガラス窓が、丸々一枚、枠ごと地面に落ちて割れていた。
「雪見ちゃんもここから入ったはずだ。ガラスの破片で怪我しないように気をつけなきゃ」
床板は腐って柔らかくなっており、湿った泥が一面に広がっている。タケルは何度も泥に足を取られそうになりながら、ゆっくり慎重に、奥へと進んでいった。
雨風の入り込んでいない廊下は、埃こそあれど状態は良い方だった。タケルが気になったのは、たくさんの足跡だ。中にはまだ新しいものもあり、動物の足跡も含まれていた。
「まさか、ケルベロスのじゃないよな……」
そのまさかであるが、この足跡をつけたケルベロスは、すでにケレンによって討伐されている。
「よし、雪見ちゃんの足跡を追っていこう」
タケルは一番新しい足跡を辿って進んで行った。その足跡は、二階の廊下の、一番奥の教室の前で終わっていた。
「この中に雪見ちゃんが……」
わずかに開いている引き戸から、タケルは教室の中を覗いてみた。そこには、雪見が一人で立っていた。
雪見は黒板の方を見ながら何かを喋っている。その声はとても聞き取りづらかったが、ケルベロスについて話しているようだった。タケルは教室に入り、雪見に近づいていった。
雪見はタケルに気付かず、尚も一人で喋っている。ときに怒ったり、困ったような表情を浮かべながら。一人二役で会話を続けていた。
タケルはその不思議な光景をぼんやりと眺めていた。
突然、雪見は自分の胸に手を当てた。唇をぎゅっと噛み締め、その表情は怒りを抑えているようにも見える。そして、ゆっくりと片方の乳房を揉み始めたのだ。
恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、雪見はただ一点を見続けている。まるで何かに屈しない、そんな意志すら感じられた。しかし、その表情は一変する。
雪見はいきなり口元を歪ませ、静かに笑い始めた。そして、胸元のボタンを上から順に外していく。
タケルは咄嗟に雪見の腕を掴んだ。
「ダメだ! 目を覚ませ!」
雪見はタケルを睨み付けると、次の瞬間には意識を無くし、その場に倒れ込んでしまった。
「雪見ちゃん!」
タケルは雪見を抱き起こし、その焦燥しきった顔を見て、事態の深刻さを感じた。
「雪見ちゃん。キミは一体、誰と話をしていたんだ……」
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