上 下
2 / 12

2.

しおりを挟む
「うまい。」

相当お腹が空いていたのか出した食事を一瞬で平らげてしまった。

「あっ、すみません。」

我に帰ったのか申し訳なさそうな顔をした。

「いえいえ、お口にあったのならよかったです。お代わりもまだあるよ。」

「なら、もう少しだけ、もらおうかな‥。」


そして2人で、作った分の料理を全て空にした。


「そういえばあなたの名前を伺っていませんでした。」

「あー、僕はアサヒ ユアと言います。見ての通り装備屋です。」

それから何でもない話をして少し仲良くなった。



「それにしてもさっきあなたが扱っていたエンチャント、みたことのないものでした。あの技術はどこで。」

「ははっ、独学だよ。」

えっ、とシュウメイは驚いた声を上げた。

「誰からも教わることなくあれだけの魔術を扱うことができるとは驚きました。」

「そうかな、照れるな。」

「だけど君もどうやって王国に呼ばれるほどの騎士になったの?」

「独学です。」

「何だそれ。」

2人で笑った。



「決めました。僕、しばらくここにいようと思います。」



「王国の騎士団は?」

「やめます。」

入ってもないじゃん。

「なんか、あなたに興味が湧きました。」

「えっ?僕に‥。」

固まっていると。

「あっ、すみません。言葉足らずで変な感じになってしまいました。正確にはあなたのその魔法にです。」

「あ、あー。だよね。うん。わかってる。」

落ち着け。

「で、ここに住むってことかな?」


「えっ、いいんですか。ぜひっ。住まわせてください。」

質問だったんだけどなー。

「まあ、部屋も余ってるし。しばらくの間ここにいてもいいよ。」

その日はいつもより早めに眠った。



朝、目が覚めて窓から外を見ると、嵐は過ぎ去っていた。昨夜までが嘘のようにとても静かな朝だった。

外に出てみると。

「おはようございます。ユアさん。」

シュウメイが起きていた。

「朝、早いんだね。」

「ぐっすり眠れました。ありがとうございます。ところで、何かお手伝いできることはありますか?」

「そうだな~。薪をとってきてくれるとありがたいかな。」

「わっかりましたー。」

シュウメイは返事をすると森の中に走っていった。

本当にこれで良かったのだろうか。王国の騎士団に呼ばれるほどの実力者が僕なんかのところにいて。

まあ、いいか。そんなことより仕事だ。昨日の分も頑張って働かなきゃ。

嵐の次の日ということもあって客はいつもより少なかったが来てくれた冒険者には満足してもらえている。

余談だが、とある冒険者パーティーの女性陣がここから立ち去る際、あの騎士様かっこよかったねー、でも何でこんなところで薪拾いなんかしてんだろ、って言っていたのが聞こえて、なんか申し訳なく思ってきた。

店を開けて数時間。

‥‥昼になった。

シュウメイは帰ってこない。

遅いなー。どこかで迷子にでもなっているのだろうか。それとも嫌になってどこかにいってしまったんだろうか。

‥‥そりゃそうだよな。王国に行ったのかもしれない。
そう。いち早く王国の騎士として働くことが彼にとって最善の選択だ。そうだ。


‥‥夕方になった。


「ふー。今日も1日頑張ったぞー。」

日中は接客業をひたすら頑張る。

1人でやってるから少しでも客を逃さないようにしないとね。
店の外に出て後片付けを始める。
そしてふとシュウメイのことを考える。
本当になにも言わずに行ってしまったのだろうか。昨夜の彼の笑顔を思い出す。

「ちょっとだけ‥‥探しに行くか。」










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった

パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】 陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け 社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。 太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め 明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。 【あらすじ】  晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。  それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl 制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/ メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

悩ましき騎士団長のひとりごと

きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。 ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。 『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。 ムーンライト様にも掲載しております。 よろしくお願いします。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...