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第61話 寂しい気持ちと幸せな気持ち

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 十八年過ごしたこの愛情溢れる屋敷から巣立つ日。
 荷物を馬車に積み込み、家族に別れの挨拶を交わす。

「お父さま。お母さま。十八年間育てて頂きありがとうございました。私の全てを受け入れてくれて本当に感謝しております。マーカス。もう少し一緒に居たかったけど、ごめんね。お父さまとお母さまのこと、お願いね。立派な当主になってね」

「はい。姉上。父上の補佐をちゃんと出来るよう精進します。だから姉上も安心してください」

 マーカスはこの日のためにわざわざ学園を休んで、見送りに駆けつけてくれた。

「ミリー。あなたは今まで頑張ってきたから、もう少し肩の力を抜いて誰かに甘えていいのよ。ディラン様という婚約者がいるのだから甘えなさい。それから手紙、待っているわね」

 母は穏やかな笑みを浮かべて抱きしめた。
 その温もりに涙が滲む。

「道中気を付けて行きなさい。この領地から出るのは初めてだろう。ディラン殿がついているから危険な目に遭うことはないと思うが、それでも用心に越したことはない。我が家の心配はしなくていいから、安心して嫁ぎなさい」

 そう言われて領地の外に出たことがなかったことを今更ながら気付いた。

「…私、領地の外に出るの初めてなんだけど、大丈夫かな」

 ポソッと呟いた言葉にディラン様が安心させるように答えた。

「ミリアーナ嬢を危ない目に合わせることは絶対にありません。それに道中の行程もきちんと計画を立てています。私にお任せください」

 ディラン様の心強い言葉に、父と母、弟は安堵の表情を浮かべた。
 最後に見送りに来ていたソフィアさん達に別れの挨拶をする。

「ミリアーナお嬢様。ご婚約おめでとうございます。どうかお幸せになってください」

「ありがとう。ソフィアも体を大事にしてね。屋敷のことお願いね」

「お任せください。母もアリスもこのお屋敷で働けることに生きがいを感じています。ご安心くださいませ」

「うん。メリダもありがとう。しっかり者のメリダなら安心して任せられるよ」

「お嬢様ぁ。寂しいですけど、お嬢様の幸せを願っていますぅ。どうかお幸せに」

「ふふ。アリスもカールさんと幸せにね」

「っ!!」

 ばれていないと思っていたのか、手で口を覆い視線が彷徨うアリス。

「二人はお似合いだよ。応援しているからね」

 アリスの耳元で囁くと、真っ赤に顔を染めた。

 挨拶を済ませた私はディラン様に手をとられて馬車に乗り込んだ。
 家族に見送られて彼等の姿が見えなくなるまで、馬車から見続けていた。
 
 途中、工場に寄り従業員の皆と挨拶を交わし、リオーレスト王国へ向かった。
 寂しい気持ちと幸せな気持ちを胸に、景色が移り変わりゆくのを馬車から眺めていた。
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