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第60話 父と母の愛

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 ディラン様の強い希望で、私が十八歳の誕生日を迎えたら結婚式を挙げることとなり、残すところ後一年となった。
 結婚式の準備のため、私は近々生まれ育ったこの屋敷を巣立つ。

「ミリー。引き継ぎは進んでいるか?」

 研究室でハーブに関する資料作りをしていた私に父が声を掛けた。

「…お父さま。引き継ぎはほとんど終わっています。でも、香水の方ですが、精油は私しか出来ないのでどうしたものかと悩んでいます」

 抽出と精油は専用の道具がないため、私以外作ることが出来ない。
 資金に余裕が持てた時に作ろうと思っていたのだが、すっかり忘れていた。
 一応、父には図面を描いて渡しているが、どこまで進んでいるのか把握していない。

「香水の方は心配いらない。ミリーが描いた絵を基にガラス職人に作ってもらっている。まだ試行錯誤は必要だが、問題ないだろう」

 いつの間にか事を進めていた父に驚きはしたものの、私は安堵の表情を浮かべた。

「良かった。でも念の為、作り置きしておきますね」

「ああ。助かる。でも、くれぐれも無理はするな。分かったな」

 そう言うと頭をポンポンと優しく撫でた。

「ミリーには随分と助けられたな。お陰でこの領地は活気が戻り、領民には笑顔が増えた。借金も返済出来た。不甲斐ない父親ですまない」

「そんな!お父さまのこと、そのように思ったことなど一度もありません!愛情を沢山もらいました。真面目で領民のことをきちんと考えているお父さまは、自慢のお父さまです!そのようなこと言わないでください!」

 私には前世の記憶があったし、偶々ハーブの知識があったから役立てることが出来ただけで、それ以外は平凡な人間だ。
 そんな私を疎むこともなく愛情を注いでくれた父と母には感謝しかない。

「ミリー。私の可愛いミリー。ディラン殿と幸せな家庭を築いてくれ。お前の幸せが私の、いや、私達の幸せだ。いつでも帰って来なさい。ここはお前の家でもあるのだから」

「えぇ、そうよ。私達はあなたの幸せを願っています。だからあなたはあなた自身のことをもっと大事にしなさい。これはディラン様も思っていることだと思うわ」

 いつの間にか母が父の隣に立っていた。

「…お母さま。そうですね。今でも十分幸せですが、もっと幸せになります」

 少し照れくさくてはにかんだ。
 母はふふ、と笑うとそっと抱き寄せて髪を優しく撫でてくれた。

 十五歳になったマーカスは、無事王都の貴族学園に入学した。
 王都にはバート叔父さん達が居るから、大丈夫だろう。
 私がリオーレスト王国へ旅立つ前に、会いに来ると手紙を寄こしてくれた。
 一年ぶりの再会に、嬉しさがこみ上げる。

 父も母も弟の帰省に笑みを浮かべていた。
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