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第30話 十四歳の誕生日

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 今日は朝から屋敷が騒がしい。
 それもそのはず、今日は私の十四歳の誕生日なのだから。
 何だか気恥ずかしくて落ち着かないが、ものすっごく嬉しい。
 前世では、早くに亡くした両親に代わり、祖父母と三人でお祝いをした。
 別に寂しい訳ではなかったが、今世では大勢の人が誕生日を祝ってくれるのが、私の気持ちを高揚させた。

「ミリーは部屋で大人しくしていてね」

 母に半ば強制的に部屋に押し込まれるような形となったので、読書をして時間を潰していた。
 扉の向こうではバタバタと廊下を駆けていく音が聞こえる。
 手伝わなくていいのか気になりながら、ひたすら部屋で待機していた。




 コンコンコン

 扉を叩く音がして返事をする。

「どうぞ」

「失礼いたします。ミリアーナお嬢様、お迎えに上がりました」

 迎えに来たのはジークさん。
 今日は真面目モードだ。

「今行きます」

 開いていただけの本を閉じて部屋を出る。
 扉を出て歩き出したが、気が逸っていたのだろう、少し早足になっていた。




 ダイニングでは、家族とカルラさんが笑顔で迎えてくれた。

「ミリー、誕生日おめでとう。今まで苦労をかけたな。本当にありがとう」

 父は私に席に座るように促し、労いと感謝の言葉をかけた。

「ミリー、お誕生日おめでとう。お母さまも感謝しているわ」

「ミリー姉さま。お誕生日おめでとうございます!」

「ミリーさん、誕生日おめでとうございます。貴女にとって良い一年になりますように」

 皆の温かい言葉に胸が熱くなる。

「っ、ありがとう、ございます」

 感極まった私は、涙を堪えてつかえながらも感謝の言葉を伝えた。
 私は良い家族、良い人達に出会えて本当に良かった。

「さあ、ミリー、今日はミリーの好きな物を沢山用意したから、好きなだけ食べていいぞ」

 湿っぽくなりかけた雰囲気を変えるように、父の明るい声が室内に響く。

「ええ、そうよ。でも、食べ過ぎには気を付けてね」

 母は優しい瞳で穏やかに語りかける。

「姉さま、早く食べようっ!僕お腹空いた」

 マーカスは早く早くと急かしてくる。



 室内には、執事のウィリアムとソフィアさん達親子、従者兼護衛のアッシュさん、ジークさん、カールさんそしてヘルドさんが揃っていた。
 ランドさんは門番の仕事があるため、後でお祝いに来てくれた。
 今年の誕生日は大所帯となった。
 ダイニングテーブルの上には日頃お目に掛ることがない豪勢な料理が並べてある。
 去年より明らかに料理の質が違う。
 お父さま、奮発したのね。
 大丈夫かしら、と一瞬過ったが考えるのを放棄した。
 今日くらい贅沢してもいいよね。

 毎年皆でこうして楽しく過ごせるといいな。
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