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第19話 三年ぶりの神殿
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先日、弟が十歳の誕生日を迎えたので、家族四人で教会に訪れた。
事前に連絡がされていたのか、教会入り口でヴォルド神官長が出迎えてくれた。
「ハーベスト伯爵様、お待ちしておりました。本日はご子息のマーカス様が魔力鑑定の儀を行うと伺っております」
私の魔力鑑定の儀からもうすぐ三年が経つのか。
月日が流れるのは早いなぁ。
ヴォルド神官長は目尻に皺がちょっと増えたような気がする。
「ああ、一月ぶりだな。腰を悪くしたと聞いたが、大丈夫なのか?」
父はこの二年程、月一の頻度で教会に足を運んで寄付をしているらしい。
所謂慈善事業みたいなもので、貴族の義務に近い。
今までは寄付をする余裕がなかったから、神官長は金策に苦労したのかもしれない。
迷惑をかけてごめんなさい。
「はい、大したことはございません。まだまだ若い者には負けていられませんから。お気遣い痛み入ります」
皺は増えたようだけど、背筋はピンと伸びているし顔色は悪いようには見えない。
元気なようで安心した。
マーカスくんは私の斜め後ろに立ち、緊張した面持ちで大人しく様子を窺っている。
神官長に促され、神殿内を進む。
綺麗に掃除はされているのだが、所々壁や床が傷んでいる。
王都には立派な石造りの神殿が建っているそうだ。
家の領は辺境にあるし貧乏だから、そこまで手が回らないんだよね。
何とかして上げられればいいんだけど。
もう少し我慢してください。
そんな訳で、三年前と同様、私達は魔力鑑定の儀の間に到着した。
「それでは魔力鑑定の儀を行います。マーカス様、こちらへお越しください」
腕をスッと動かし玉の前に行くように促す。
父に背中をそっと押された弟は、緊張した面持ちで玉の前に向かう。
「マーカス様、玉に手を置いてください」
「……」
チラッと私達を振り返って向き直ると手を置いた。
玉は淡く光りすぐ元に戻った。
「お疲れ様です。もう手を離して構いませんよ」
「はい」
そう一言返事をすると小走りで母の元に戻る。
「さすが、伯爵家のご子息です。魔力量は十分にございます。私から説明する必要はないでしょう。伯爵様の教えをきちんと聞いてくださいね」
「はい」
神官長は弟に視線を合わせて優しく伝え、弟の返事を聞くと穏やかに微笑んだ。
魔力鑑定の儀を終えた弟は、先ほどまでとは違い、緊張は解けて笑みを浮かべていた。
私の時とは違い、特に深刻な事態ではないと理解したのだろう。
私も気になったけど、父に聞いても教えてもらえなかったし、神官長も何も言わないから今の今まですっかり忘れていた。
まぁ、気にしても仕方ないか。
単純な私は、マーカスくんが無事魔力鑑定の儀を終えたことにホッと胸を撫で下ろした。
事前に連絡がされていたのか、教会入り口でヴォルド神官長が出迎えてくれた。
「ハーベスト伯爵様、お待ちしておりました。本日はご子息のマーカス様が魔力鑑定の儀を行うと伺っております」
私の魔力鑑定の儀からもうすぐ三年が経つのか。
月日が流れるのは早いなぁ。
ヴォルド神官長は目尻に皺がちょっと増えたような気がする。
「ああ、一月ぶりだな。腰を悪くしたと聞いたが、大丈夫なのか?」
父はこの二年程、月一の頻度で教会に足を運んで寄付をしているらしい。
所謂慈善事業みたいなもので、貴族の義務に近い。
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迷惑をかけてごめんなさい。
「はい、大したことはございません。まだまだ若い者には負けていられませんから。お気遣い痛み入ります」
皺は増えたようだけど、背筋はピンと伸びているし顔色は悪いようには見えない。
元気なようで安心した。
マーカスくんは私の斜め後ろに立ち、緊張した面持ちで大人しく様子を窺っている。
神官長に促され、神殿内を進む。
綺麗に掃除はされているのだが、所々壁や床が傷んでいる。
王都には立派な石造りの神殿が建っているそうだ。
家の領は辺境にあるし貧乏だから、そこまで手が回らないんだよね。
何とかして上げられればいいんだけど。
もう少し我慢してください。
そんな訳で、三年前と同様、私達は魔力鑑定の儀の間に到着した。
「それでは魔力鑑定の儀を行います。マーカス様、こちらへお越しください」
腕をスッと動かし玉の前に行くように促す。
父に背中をそっと押された弟は、緊張した面持ちで玉の前に向かう。
「マーカス様、玉に手を置いてください」
「……」
チラッと私達を振り返って向き直ると手を置いた。
玉は淡く光りすぐ元に戻った。
「お疲れ様です。もう手を離して構いませんよ」
「はい」
そう一言返事をすると小走りで母の元に戻る。
「さすが、伯爵家のご子息です。魔力量は十分にございます。私から説明する必要はないでしょう。伯爵様の教えをきちんと聞いてくださいね」
「はい」
神官長は弟に視線を合わせて優しく伝え、弟の返事を聞くと穏やかに微笑んだ。
魔力鑑定の儀を終えた弟は、先ほどまでとは違い、緊張は解けて笑みを浮かべていた。
私の時とは違い、特に深刻な事態ではないと理解したのだろう。
私も気になったけど、父に聞いても教えてもらえなかったし、神官長も何も言わないから今の今まですっかり忘れていた。
まぁ、気にしても仕方ないか。
単純な私は、マーカスくんが無事魔力鑑定の儀を終えたことにホッと胸を撫で下ろした。
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