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第13話 新商品追加

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「ミリーお嬢様、お疲れのようですが、何処かお加減が?」

 今日はエイダさんが調理担当のようだ。
 彼女はベラさんの次に頼れる女性で、明るく朗らかで料理上手だ。
 少しふっくらとした体は抱き心地が良い。

「ううん、大丈夫。アルベルトさんと話しただけだから」

 新商品を開発するたび、アルベルトさんにあの瞳で質問されるのはキツイ。
 なるべくアルベルトさんと会わないように気をつけていたのに…。
 思わずため息が零れた。

「ふ、ふふふ。あのお方は商人ですからねぇ。ミリーお嬢様、また何かやらかしましたね」

 ため息を吐いた私を慰めるように話すエイダ。

「……たぶん?」

「あっははは!」

 腹を抱えて盛大に笑うエイダに、私も釣られて笑う。
 エイダさんの陽気で朗らかな性格は、どこか懐かしさを覚えて居心地が良い。
 一頻り笑った後、昼食の準備に取り掛かった彼女は手際よく調理していく。
 今日はパンとシチューのようだ。
 シチューの香りが食欲をそそる。
 手伝いは必要なさそうなので暇を持て余した私は、工場内をぶらぶらと歩いていた。




 従業員とすれ違う度、皆笑顔で挨拶をしてくる。
 虚ろだった瞳には光りが宿り、身体もだいぶ肉付きが良くなっている。
 そんな彼等を見ていると、私も嬉しくなり自然と笑顔になる。




「ミリー。ここに居たのか」

 いつの間にか商談を終えた父が、背後に立って声をかけてきた。

「はい。…お腹空いた」

「ははは。そうだな。早く屋敷に帰ろう」

 廊下にシチューの香りが漂い、私の腹の虫が遠慮なく鳴り、その音を聞いた父が笑う。
 待機させていた馬車に乗ると、父が遠慮がちに問いかける。

「……ミリー、アルベルトがあのハーブティーを扱いたいと言ってきた。良いだろうか?」

 申し訳なさそうに私の顔を窺いながら話し掛けてきた。
 家族なんですから遠慮は要りませんよ。

「はい、構いませんよ。ブレンドティーの件ですよね?」

「ブレンドティーか。商品名はブレンドティーでいこう!ありがとう!ミリー!」

「ぶっ!!」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられて苦しくなった私は、父の腕を叩いて解くように促す。
 しょんぼりとした父は捨てられた仔犬のようで可愛かった。

 屋敷で遅めの昼食を取った私は、裏庭で魔法の訓練と野草畑の世話をして過ごした。




 夜、ベッドに潜り考えていた。
 少しずつ領地は活気を取り戻していっているが、インパクトに欠ける。
 何か観光名所があれば領地は栄え雇用が生まれるのに。
 私はうんうんと唸り知恵を振り絞る……が、如何せん私はまだ十歳の子供。
 いつの間にか夢の中へ旅立っていた。
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