上 下
9 / 66

第9話 洗礼

しおりを挟む
 魔力切れで倒れて更に数ヶ月が経った。

 十歳を迎えた私は、洗礼を受けるために家族四人で神殿に訪れた。
 神殿と言っても木造の教会みたいな建物だが。

 父も母も魔力はそこそこあるそうで、貴族であれば多少でもあるのが当たり前らしい。

「ん?でも、貴族じゃない子も来てるよ?」

 私が疑問を口にすると、この国では十歳になったら洗礼を必ず受けなければならないことと、正式に国民として登録されるためには必要なことだと説明された。
 医療が発達していないから十歳を迎える前に亡くなる子供が多いらしい。悲しいね。
 そう言えば子供が少ないなと思っていると、父が悲しそうにうちの領は特に若い領民が少ないからねと呟いた。
 お父さま!私、頑張るからそんな顔しないで!



 私自身、屋敷と工場以外の外出に胸が高鳴っていた。
 マーカスくんも嬉しそうな表情を浮かべて、隣を歩く。
 目の前には優し気な目をした白いローブのような物を身に纏ったおじいちゃんが立っていた。

「ハーベスト伯爵様、お久しぶりでございます。本日はご令嬢の魔力鑑定の儀でございますね」

 穏やかだけど、しっかりした口調で話しかける。

「ああ、久しいな。ヴォルド神官長。娘のミリアーナだ。よろしく頼む」

 そう言いながら、私の背中をそっと押して前に行くよう促す。

「初めまして。ハーベスト伯爵家、長女のミリアーナと申します。よろしくお願いします。ヴォルド神官長様」

 一歩進み出て挨拶をした後、深々と頭を下げた。
 その様子に神官長は目尻に皺を作り、笑みを浮かべた。

「なんと、そのお年でしっかりしていらっしゃる。流石、ハーベスト伯爵様のご息女であられますね」

 神官長の言葉に父は曖昧に返事をして、続きを促した。

「では、皆様、魔力鑑定の儀の間にご案内いたします」

 神官長の後を四人はついて行く。
 魔力鑑定の儀の間は以外と小じんまりとしていて、落ち着くというか癒されるような空間だった。
 台座の上に水晶のような玉がクッションのような布に置かれていた。

「ミリアーナ様、こちらに来てこの玉に手を触れてください」

「はい」

 私は緊張と好奇心で、神官長に言われるまま玉に手を触れた。
 瞬間玉が光り、部屋中を照らした。

「もう手を放して大丈夫ですよ。魔力量は多いですね。そのお年でこれだけの魔力量とはー」

 神官長の言葉を遮り父は、少し話しがあると言い、先に馬車に乗るように告げた。
 私達が完全に部屋から出たのを確認すると、神官長に向き直り静かに話しを切り出した。

「ヴォルド神官長、すまないが娘のことは他言無用で頼む。あの娘は自由に育てたい。娘には心から好いた相手と一緒にさせてやりたいんだ。頼む」

 深々と頭を下げて懇願するマリウスに、神官長は優しく目を細めて口を開く。

「何か深い事情があるのでしょう。魔力量が多いと知られれば高位貴族は黙っていないはずです。伯爵様はお嬢様を大切にされておられるのですね。…かしこまりました。こちらで上手く報告を上げておきますので、ご心配はいりません」

「…感謝する」




 馬車で待っていた私達は、父と神官長の姿を見つけて手を振る。

「お父さま。お腹空いちゃった。早く帰ろう」

「ふ、そうだな。早く帰ろう」

 私を優しく見つめると、少し笑いながら答える。



 ゆっくりと動き出した馬車を、神官長は穏やかに微笑んで見送っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

処理中です...