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第1話 追われています
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ハア、ハア、ハアと荒い息を吐きながら学園の馬車乗り場を目指して駆けて行く一人の令嬢。
白金の髪は乱れ、淡い水色の瞳には薄っすらと涙が滲んでいた。
華奢な体の何処にそんな体力があるのか、もの凄い勢いで駆けていた。
「お願いっ!早く出して!」
馭者に手短に告げると素早く馬車に乗り込んだ。
馭者は声も出さず頷くと手綱を握り馬車を走らせた。
その間令嬢は席に深く腰掛け息を整えていた。
馬車が動き出したことで安堵の息が漏れた。
「ハア、ハア、ほ、本当、に、しつ、こいんだ、から!」
息が上がって詰まりながら真っ先に出たのは誰かに対する非難めいた言葉だった。
彼女は高位貴族の令嬢だが、その儚い容貌とは裏腹に気が強くお転婆な性格の持ち主である。
そのため未だに婚約者がいない上、本人も結婚願望はかなり薄い。
政略結婚なんてクソ食らえ!という考えだ。
実に残念な美少女である。
両親は高位貴族では珍しく恋愛結婚だった。
そういった経緯があるため、両親も強く言えず今に至る。
嫡男の兄には結婚間近の婚約者がおり二つ上の姉は去年結婚したので、別に慌てる必要はない。
何なら一生独身でも構わないと思っていたのだ。
彼女の平穏な学園生活はある男の登場により突然崩れ去った。
男はマクシミリアン.エル.アリスター。隣国の公爵家の令息である。
キラキラと輝く金色の髪は緩く波を打っており、翠色の瞳は美しく、彫像のように整った容貌は同性、異性問わず見惚れるほどだ。
分かり易く言うと、絶世の美男子ということだ。
その男が一月前、急に隣国から転入して来たから周りは大騒ぎになった。
令息は行動が早かった。
翌日からある令嬢に事あるごとに話し掛けていったのだ。
それがレティーナ嬢である。
初めのうちは当たり障りのない会話で逃げていたのだが、五日前、とうとう告白されてしまった。
「レティーナ嬢、私は貴女のことが好きです。ずっと前から大好きです。あ、愛しています。どうか私と結婚してください!」
そう告げながら右手をスッと差し出してきた。
その動作はどんな意味があるのか聞きたくて好奇心が湧いたが、彼女は即答した。
「申し訳ございません」
男の瞳を真っ直ぐ捉え断ったが、それでも男は諦めない。
「では、お友達からお付き合い願えませんか?」
食い下がってくる令息。
「……申し訳ございません」
大きなため息が出そうになり、一拍おいて答えた。
「……そうですか。只のお友達でも、その、ダメ……でしょうか」
そう言うとしょんぼりと俯いた。
その姿が何故か可愛く見えた。
「……ハア、只のお友達で良いなら……構いません」
小さく息が漏れたが仕方がない。
そう返事するだけで精一杯だった。
途端に顔を上げ男から満面の笑みがこれでもかとばかりに溢れた。
そして彼女の手をギュッと両手で握り締めると、嬉しそうにブンブンと上下に振った。
まるで子供のようだ。
以来、彼女は男からしつこく付き纏われることとなる。
「お友達にも限度があるでしょっ!」
男を撒いた彼女は帰りの馬車の中で叫んでいた。
白金の髪は乱れ、淡い水色の瞳には薄っすらと涙が滲んでいた。
華奢な体の何処にそんな体力があるのか、もの凄い勢いで駆けていた。
「お願いっ!早く出して!」
馭者に手短に告げると素早く馬車に乗り込んだ。
馭者は声も出さず頷くと手綱を握り馬車を走らせた。
その間令嬢は席に深く腰掛け息を整えていた。
馬車が動き出したことで安堵の息が漏れた。
「ハア、ハア、ほ、本当、に、しつ、こいんだ、から!」
息が上がって詰まりながら真っ先に出たのは誰かに対する非難めいた言葉だった。
彼女は高位貴族の令嬢だが、その儚い容貌とは裏腹に気が強くお転婆な性格の持ち主である。
そのため未だに婚約者がいない上、本人も結婚願望はかなり薄い。
政略結婚なんてクソ食らえ!という考えだ。
実に残念な美少女である。
両親は高位貴族では珍しく恋愛結婚だった。
そういった経緯があるため、両親も強く言えず今に至る。
嫡男の兄には結婚間近の婚約者がおり二つ上の姉は去年結婚したので、別に慌てる必要はない。
何なら一生独身でも構わないと思っていたのだ。
彼女の平穏な学園生活はある男の登場により突然崩れ去った。
男はマクシミリアン.エル.アリスター。隣国の公爵家の令息である。
キラキラと輝く金色の髪は緩く波を打っており、翠色の瞳は美しく、彫像のように整った容貌は同性、異性問わず見惚れるほどだ。
分かり易く言うと、絶世の美男子ということだ。
その男が一月前、急に隣国から転入して来たから周りは大騒ぎになった。
令息は行動が早かった。
翌日からある令嬢に事あるごとに話し掛けていったのだ。
それがレティーナ嬢である。
初めのうちは当たり障りのない会話で逃げていたのだが、五日前、とうとう告白されてしまった。
「レティーナ嬢、私は貴女のことが好きです。ずっと前から大好きです。あ、愛しています。どうか私と結婚してください!」
そう告げながら右手をスッと差し出してきた。
その動作はどんな意味があるのか聞きたくて好奇心が湧いたが、彼女は即答した。
「申し訳ございません」
男の瞳を真っ直ぐ捉え断ったが、それでも男は諦めない。
「では、お友達からお付き合い願えませんか?」
食い下がってくる令息。
「……申し訳ございません」
大きなため息が出そうになり、一拍おいて答えた。
「……そうですか。只のお友達でも、その、ダメ……でしょうか」
そう言うとしょんぼりと俯いた。
その姿が何故か可愛く見えた。
「……ハア、只のお友達で良いなら……構いません」
小さく息が漏れたが仕方がない。
そう返事するだけで精一杯だった。
途端に顔を上げ男から満面の笑みがこれでもかとばかりに溢れた。
そして彼女の手をギュッと両手で握り締めると、嬉しそうにブンブンと上下に振った。
まるで子供のようだ。
以来、彼女は男からしつこく付き纏われることとなる。
「お友達にも限度があるでしょっ!」
男を撒いた彼女は帰りの馬車の中で叫んでいた。
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