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【番外編】

ティトの魔法学園の一日 8

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 もう、もうっ、もぉおおおおおおお!!!!

 俺はバタバタと足を踏み鳴らしながら廊下を走っていた。

 午後一番の授業は移動教室。
 補助魔法のテストがあるので、遅れるわけにはいかないのだ!

 それをわかっているのか、いないのか、あの二人は昼休み中、さんざん俺の身体を弄んで……。

 ――腹が立つのに、あの二人の悩ましい息遣いを思い出すと、また身体の奥が疼いてしまう……。


「おい、ティト!」

 後ろから突然声をかけられて俺はビクッと肩を震わせた。

 振り向くと、グラート君が腕組みして立っていた。


「どこに行くつもりだ? 授業は変更になったんだ。テストは明日に延期。
自習になったからクラスに戻れ」

「あ、そ、う、なんだ……」

 俺は足を止め、ホッと息をつく。

 グラート君はムッとした顏で、俺を見上げた。


「お前、首に赤い痣がついてるぞ。あと、顔も赤いし、髪も乱れてる……」

「えっ、あ、あれ、あ、あっ、そうっ、ど、どうしたのかなっ、さっき虫にでも刺されたのかもっ……!」

 俺は慌てて首元を手で覆った。


 ――もうっ! 見えるところにキスマークつけるなって、あれほど言ってたのに!!!!



 慌てる俺に、グラート君は綺麗にプレスされた白いハンカチを差し出した。


「汗、出てる。これで拭けよ」

「え、あ、でも、俺も、ハンカチ、持って……」

「いいから!」

 怒ったように言うと、グラート君は背伸びして、俺の額に自分のハンカチを押し付けてきた。

「あ、ありがとう……」



「ティト、お前さ……、あの二人に囲われてる、のか?」

 二人して教室に戻りがてら、グラート君がぼそりと言った。



「は? はぁーっ!? か、かこ、囲うっ!?」

 10歳の少年とは思えないセリフに、思わず俺の脚が止まる。

「父上と、兄上たちが言ってた。ティトは、あの剣聖と大魔導士に囲われてるんだって……。
お前、もし本当は、嫌なんだったら、俺に言えよ! 俺が父上に頼んで、なんとかしてやる!」

 グラート君の緑色の瞳は真剣な光を宿している。

 俺は慌てて、かぶりを振った。

「そんなはず、あるわけないよ! グラート君のお父さんとお兄さんは何か誤解してる!
俺は、あの二人の、生涯のパートナー? っていうのかな、その、……つまり、
俺はあの二人が大好きで一緒にいるわけであって、決して囲われているとか、そういうわけでは……」

「……大好き?」

 グラート君の眉間に深いしわが寄る。


「うん、俺、あの二人のことが、すごくすごく、好きなんだ、だから……」

 俺が大きくうなずくと、グラート君はぷいっとそっぽを向いた。


「チッ、なんだよっ……、人が、せっかく……、もういいっ、勝手にしろっ!」

「あっ、グラート君っ!」


 俺が声をかけてもグラート君は振り向くことなく、一人でその場から走り去ってしまった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ただいまぁ~! はあ、今日もなんかよくわかんないけど疲れた……」


 ーーそんなこんなで放課後。

 教頭先生に転移魔法をかけてもらった俺は、まだ二人の戻っていない我が家のドアの前に立っていた。



 と、その時俺は、ドアの前にうずくまっている黒く大きな物体に気がついた。


「ポチ!!!!」

 俺は駆け寄ると、そのフサフサの黒い毛並みに抱きついた。 


「久しぶりだね! わあっ、今日もどこかで喧嘩してきたの? すごい怪我してるじゃないか!」

 見るとポチを触った俺の手には、べっとりと血がついている。

 

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