上 下
36 / 63

召喚

しおりを挟む
「クソッ、転移ができない! 貴様っ、人間の分際で、僕の魔法を封じたのかっ!?」

 オルランドに壁側に追い詰められたオベロンは、忌々し気に舌打ちする。


「ここはすでに、私の結界内、だよ。妖精王」

 オルランドは忍び笑いを漏らすと、すっと右手をあげた。


「何をする気だよっ? 言っただろう? もうお前らと戦うつもりなんてない!
僕は逃げるっていっただろ! こんなことしてないで、さっさと3人で寝室にしけこめよっ!
……ティトのことも、勝手にすればいいだろっ!
でもどうせ、新しい魔王様は処女厨なんかじゃないから、僕は絶対にあきらめないけどねっ!!」

 この期に及んでなおも悪態をつくオベロンに、オルランドは目を細めた。


「まあまあ、せっかくこんなところまでわざわざ来てくれたんだ。そんなに急いで帰ることもないだろう?
妖精王のあなたに、ぜひとも会わせたい方がいるんだよ」

「は? 会わせたい、方……だって?」

 眉を顰めるオベロン。今この瞬間も、逃げ出せそうな場所を必死で探している。


「ああ、契約したはいいが、危険すぎていままで一度も呼び出したことはなかったが……、
きっと『彼女』もあなたに会いたがっているはずだ……」


 言い終えないうちに、オルランドはすでに召喚魔法の体勢に入っていた。



「ちょ、ちょっと、待てっ! お前っ、何を……っ!! ちょっ、ちょっと本当に、や、やめろ、」

 オベロンが慌てふためく。


 オルランドはその両の手を、天に掲げた。

「深潭の闇より生まれしものよ……、
今、その永き眠りより目覚めよ。
封印されし禁断の帳より今ここに一時の顕現をーー召喚・ベリアル!!」



「な、なんで、なんで、お前が、お前ごときが、ベリアル様を……、嫌だああああああああ!!!!」

 オベロンの叫び声とともに、あたりには黒い煙が立ち込めて、俺はしばらく何も見えなくなった。




『……久しいのう、オベロンよ』

 腹の底から響いてくるような、冷え冷えとした重い声音。


「ひょええええええっ、ま、魔王様っ、おひさしゅうございますっ……」

 オベロンは、額を床にこすりつけんばかりに這いつくばった。


 オベロンの目の前には、大きな二本の角をはやした女性形の悪魔がいた。
 波打つ長い黒髪は、床まで垂れており、黒く艶のある装束がその肉感的な身体を包んでいる。
 息を呑むほど美しい顔はしかし、ひどく残忍な表情をしていた。
 
 見てはいけないものだとわかっているのに、思わず目を向けてしまうーー、この悪魔にはそんな危うい魅力が漂っていた。


 しかし……、

 ――魔王、様??



『相変わらずしょうもない悪さをしておるのか? どうせ当代ともうまくいっておらんのであろ?』

 鋭くとがった真っ黒い爪を、オベロンに向ける悪魔。その言葉で俺は気づいた。


 ――この悪魔『ベリアル』は、先代の魔王なのだ。

 代替わりしたという先代の魔王が、しかしなぜオルランドによって呼び出されたのか……。


「魔王様ぁ! お願いですぅ! 僕ってば今、この人間たちにいじめられてるんですぅ!
可愛い部下だった僕のために、どうか魔王様のお力を貸してくださいぃ!!」

 泣き顔を作ったオベロンは、ベリアルに懇願する。


『できぬ』

 身もふたもない返答に、オベロンの顔に絶望の色が広がる……。


「そんなあ、そんなあ……!」


『愚か者が! 見てわからぬのか? 妾はいま、この人間に召喚されたのじゃ。悪魔の契約は絶対じゃ。
何であろうと逆らうことはできぬ。……さて』

 ベリアルはゆっくりとオルランドを振り返った。


『望みはなんじゃ? このおしゃべりな妖精を一瞬で灰にすればよいのか?
それとも、妾のこの爪で、一枚ずつ皮を剥いでゆっくり楽しむか……?』


 ククッとベリアルは喉の奥で笑う。
 その表情は、かつての部下であろうと、自分にとってはまるで虫けらのごとき存在だと語っている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【完結済•Dom/sub】だからきっと、この恋は誰も知らないままでいい【首輪が〜スピンオフ】

雪国培養まいたけ
BL
『首輪が嫌いな君にRewardを。』スピンオフ 命令するのが怖いDom×嘘つきな男前Sub 歪な二人が力を合わせて過去を清算していくお話です。 BL未満、Dom/Sub未満、刑事もの未満。 ※暴力、児童虐待、レイプ、自死、自殺未遂、あるいはそれらを暗示させるシーンがあります。これらのシーンが苦手な方、あるいはトラウマのある方は閲覧にご注意ください。 ※致しているシーンは今回ありません。この二人に関しては今後も書かないと思います。 ※元小説はこちらから。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/430100114/416552413

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

ひねくれもののプレイボーイと、十月十日で結ばれるまで

野中にんぎょ
BL
※獣人×獣人のBLです。受けの妊娠・出産表現を含みます。※  獣とヒトのハイブリットである獣人が存在する世界。幼い頃から「自分と血のつながった家族を持つこと」を夢見ていたラル(25歳・雑種のネコの獣人)は獣人街一のプレイボーイであるミメイ(23歳・純血種のロシアンブルーの獣人)から「ミメイに迷惑をかけない」ことを条件に子種を分けてもらうことに成功する。  無事受胎し喜ぶラルだったが今度は妊娠にまつわるマイナートラブルに悩まされるように。つわりで蹲っていたところをミメイに助けられるラルだったが、ミメイは家族というものに嫌気が差していて――。  いじっぱりで少しひねくれた二匹と、ラルのお腹に宿る小さないのち。十月十日ののち、三匹が選ぶ未来とは? 確かにここにある、ありふれた、この世界にたった一つの愛。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

生意気ユカちゃん♂わからせ調教

おさかな
BL
大学デビューした元陰キャの湯川晶は、女装写真を使ってマッチングアプリで女性のふりをして悪戯をしていた。そんなことを繰り返しているうち、騙していた男たちに身バレしてとあるヤリ部屋に強制連行されてしまう…… +++++ 凌○モノなのでひどい言葉や表現が多数あります。暴力はスパンキング程度。無理やり/おくすりプレイ/快楽堕ち/羞恥 などなど

処理中です...