上 下
28 / 63

ティトの記憶

しおりを挟む
「お、お、落ち着いてくださいっ! オルランド様っ!」

 こんなところで暗黒魔法を発動させられたら、宿屋まるごと吹っ飛んでしまうに違いない!


「そうだぞオルランド! いつも冷静なお前らしくもないぞ!」

 事の元凶だというのに、ファビオはこの状況を楽しんでいるようだ!


「うるさいっ! お前に私の気持ちがわかるかっ!?
母上に、あれを聞かれたんだぞっ!!」

 オルランドの目は赤く充血していた。涙がにじんでいるようにも見える……。


「まあ、確かに、死にたくなる気持ちもわかるさ、オルランド。
でも俺だって、あの何百の詩編を大講堂で朗読されるんだぜ? どっちもどっちだろ?」


「お前のファンの間で大声で朗読されたところで、どれほどの打撃にもなるまい!?
……私はあの母上だぞっ!!」

 オルランドはぎりぎりと歯ぎしりする。

 ファビオはピュウっと口笛を吹いた。


「しかし、お前のママは俺にすごく感謝してくれたんだぜ!
『まあ、私のかわいいオルランドちゃんが、こんなドン引き必至なプレゼントを好きな子に渡すのを阻止してくれてありがとう!
こんな妙ちきりんなトンデモプレゼントのせいで、オルランドちゃんが振られたりでもしたら、グリマルディ家末代までの恥だったわぁ。ありがとうね、ファビオちゃん♡』ってな!!
……お前も、俺に感謝するだろう? な、オルランド」


「死ね!!!!」

 ついにオルランドの怒りは頂点に達した!
 見境のなくなったオルランドは、そのまま腕を振り下ろした。


「わああああっ、俺のせいでごめんなさいっ、ファビオ様、オルランド様っ!!」



 ――今まさに暗黒魔法がさく裂し、今際の際となろうとしているこの時、愚かにも俺ははっきりと思い出していた。


 そうだ、確かにファビオは、何度も「俺が贈ったアレ、読んでくれた?」と俺にしつこく聞いてきていた。
 俺は、剣術を教えてもらってすぐに、ファビオからもらった手書きの「指南書」のことだと勝手に勘違いし、
「はい、内容がすごく素晴らしいです。俺、何度も何度も繰り返し読んでいます!」と、毎回判を押したように同じ返事を繰り返していた。
 何度も繰り返ししつこく感想を聞かれるのは、それだけファビオの自信作だったからなのだろうと、勝手に納得して……。

 だって、だって、あの指南書は剣の握り方から、振り下ろし方まで、すごくわかりやすく絵で書いてあって、剣術を習ったことのない俺にとってすごくありがたいものだったんだ!

 だから俺は……、ファビオが俺に毎日のように詩を送ってくれていたなんて、思いもしなかったんだ!


 そして、オルランドの贈り物に関しても然り……。
 俺は、オルランドが毎回聞いてくる「私が贈ったものは役立っているかい?」という質問に、「はい、朝晩かかさず使っています! あんな素晴らしいものをいただき、すごくうれしいです。ありがとうございます!」とこれもまた毎回同じような答えを返していた。

 そう、俺は、オルランドに文字を教えてもらってすぐにもらった魔道具「文字ボード」のことだとすっかり勘違いしていたのだ! だってあれは、文字を押すとそれが音声で流れる仕組みで、ちょっとした楽しいミニゲームなんかも組み込まれており、あの魔道具のおかげで、俺はあんなにも早く文字を覚えることができたんだ!
 だから……。


「ごめんなさい、ごめんなさいっ! 全部、俺のせいなんです! 俺があんまりにもトロくて鈍いから、お二人をこんなにも怒らせてしまうことに……!!」



 俺はぎゅっと目をつぶり、衝撃に耐える。

 だが……、

 オルランドの暗黒魔法は、いつまでたっても発動する気配はなかった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

捕虜のはずなのに 敵国の将軍が溺愛してくる

ユユ
BL
“お前のような出来損ないを 使ってやるのだから有難いと思え!” “それでも男か! 男なら剣を持て!” “女みたいに泣くな!気持ち悪い!” 兄王子達からずっと蔑まされて生きてきた。 父王は無関心、母は幼い娘に夢中。 雑用でもやっていろと 戦争に引っ張り出された。 戦乱にのまれて敵国の将軍に拾われた。 捕虜のはずなのに何故 僕を守ってくれるの? * 作り話です * 掲載更新は月・木・土曜日 * 短編予定のつもりです

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

獣人カフェで捕まりました

サクラギ
BL
獣人カフェの2階には添い寝部屋がある。30分5000円で可愛い獣人を抱きしめてお昼寝できる。 紘伊(ヒロイ)は30歳の塾講師。もうおじさんの年齢だけど夢がある。この国とは違う場所に獣人国があるらしい。獣人カフェがあるのだから真実だ。いつか獣人の国に行ってみたい。対等な立場の獣人と付き合ってみたい。 ——とても幸せな夢だったのに。 ※18禁 暴力描写あり えっち描写あり 久しぶりに書きました。いつまで経っても拙いですがよろしくお願いします。 112話完結です。

嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい

りまり
BL
 僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。  この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。  僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。  本当に僕にはもったいない人なんだ。  どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。  彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。  答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。  後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。

処理中です...