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ティトの記憶
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「お、お、落ち着いてくださいっ! オルランド様っ!」
こんなところで暗黒魔法を発動させられたら、宿屋まるごと吹っ飛んでしまうに違いない!
「そうだぞオルランド! いつも冷静なお前らしくもないぞ!」
事の元凶だというのに、ファビオはこの状況を楽しんでいるようだ!
「うるさいっ! お前に私の気持ちがわかるかっ!?
母上に、あれを聞かれたんだぞっ!!」
オルランドの目は赤く充血していた。涙がにじんでいるようにも見える……。
「まあ、確かに、死にたくなる気持ちもわかるさ、オルランド。
でも俺だって、あの何百の詩編を大講堂で朗読されるんだぜ? どっちもどっちだろ?」
「お前のファンの間で大声で朗読されたところで、どれほどの打撃にもなるまい!?
……私はあの母上だぞっ!!」
オルランドはぎりぎりと歯ぎしりする。
ファビオはピュウっと口笛を吹いた。
「しかし、お前のママは俺にすごく感謝してくれたんだぜ!
『まあ、私のかわいいオルランドちゃんが、こんなドン引き必至なプレゼントを好きな子に渡すのを阻止してくれてありがとう!
こんな妙ちきりんなトンデモプレゼントのせいで、オルランドちゃんが振られたりでもしたら、グリマルディ家末代までの恥だったわぁ。ありがとうね、ファビオちゃん♡』ってな!!
……お前も、俺に感謝するだろう? な、オルランド」
「死ね!!!!」
ついにオルランドの怒りは頂点に達した!
見境のなくなったオルランドは、そのまま腕を振り下ろした。
「わああああっ、俺のせいでごめんなさいっ、ファビオ様、オルランド様っ!!」
――今まさに暗黒魔法がさく裂し、今際の際となろうとしているこの時、愚かにも俺ははっきりと思い出していた。
そうだ、確かにファビオは、何度も「俺が贈ったアレ、読んでくれた?」と俺にしつこく聞いてきていた。
俺は、剣術を教えてもらってすぐに、ファビオからもらった手書きの「指南書」のことだと勝手に勘違いし、
「はい、内容がすごく素晴らしいです。俺、何度も何度も繰り返し読んでいます!」と、毎回判を押したように同じ返事を繰り返していた。
何度も繰り返ししつこく感想を聞かれるのは、それだけファビオの自信作だったからなのだろうと、勝手に納得して……。
だって、だって、あの指南書は剣の握り方から、振り下ろし方まで、すごくわかりやすく絵で書いてあって、剣術を習ったことのない俺にとってすごくありがたいものだったんだ!
だから俺は……、ファビオが俺に毎日のように詩を送ってくれていたなんて、思いもしなかったんだ!
そして、オルランドの贈り物に関しても然り……。
俺は、オルランドが毎回聞いてくる「私が贈ったものは役立っているかい?」という質問に、「はい、朝晩かかさず使っています! あんな素晴らしいものをいただき、すごくうれしいです。ありがとうございます!」とこれもまた毎回同じような答えを返していた。
そう、俺は、オルランドに文字を教えてもらってすぐにもらった魔道具「文字ボード」のことだとすっかり勘違いしていたのだ! だってあれは、文字を押すとそれが音声で流れる仕組みで、ちょっとした楽しいミニゲームなんかも組み込まれており、あの魔道具のおかげで、俺はあんなにも早く文字を覚えることができたんだ!
だから……。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ! 全部、俺のせいなんです! 俺があんまりにもトロくて鈍いから、お二人をこんなにも怒らせてしまうことに……!!」
俺はぎゅっと目をつぶり、衝撃に耐える。
だが……、
オルランドの暗黒魔法は、いつまでたっても発動する気配はなかった。
こんなところで暗黒魔法を発動させられたら、宿屋まるごと吹っ飛んでしまうに違いない!
「そうだぞオルランド! いつも冷静なお前らしくもないぞ!」
事の元凶だというのに、ファビオはこの状況を楽しんでいるようだ!
「うるさいっ! お前に私の気持ちがわかるかっ!?
母上に、あれを聞かれたんだぞっ!!」
オルランドの目は赤く充血していた。涙がにじんでいるようにも見える……。
「まあ、確かに、死にたくなる気持ちもわかるさ、オルランド。
でも俺だって、あの何百の詩編を大講堂で朗読されるんだぜ? どっちもどっちだろ?」
「お前のファンの間で大声で朗読されたところで、どれほどの打撃にもなるまい!?
……私はあの母上だぞっ!!」
オルランドはぎりぎりと歯ぎしりする。
ファビオはピュウっと口笛を吹いた。
「しかし、お前のママは俺にすごく感謝してくれたんだぜ!
『まあ、私のかわいいオルランドちゃんが、こんなドン引き必至なプレゼントを好きな子に渡すのを阻止してくれてありがとう!
こんな妙ちきりんなトンデモプレゼントのせいで、オルランドちゃんが振られたりでもしたら、グリマルディ家末代までの恥だったわぁ。ありがとうね、ファビオちゃん♡』ってな!!
……お前も、俺に感謝するだろう? な、オルランド」
「死ね!!!!」
ついにオルランドの怒りは頂点に達した!
見境のなくなったオルランドは、そのまま腕を振り下ろした。
「わああああっ、俺のせいでごめんなさいっ、ファビオ様、オルランド様っ!!」
――今まさに暗黒魔法がさく裂し、今際の際となろうとしているこの時、愚かにも俺ははっきりと思い出していた。
そうだ、確かにファビオは、何度も「俺が贈ったアレ、読んでくれた?」と俺にしつこく聞いてきていた。
俺は、剣術を教えてもらってすぐに、ファビオからもらった手書きの「指南書」のことだと勝手に勘違いし、
「はい、内容がすごく素晴らしいです。俺、何度も何度も繰り返し読んでいます!」と、毎回判を押したように同じ返事を繰り返していた。
何度も繰り返ししつこく感想を聞かれるのは、それだけファビオの自信作だったからなのだろうと、勝手に納得して……。
だって、だって、あの指南書は剣の握り方から、振り下ろし方まで、すごくわかりやすく絵で書いてあって、剣術を習ったことのない俺にとってすごくありがたいものだったんだ!
だから俺は……、ファビオが俺に毎日のように詩を送ってくれていたなんて、思いもしなかったんだ!
そして、オルランドの贈り物に関しても然り……。
俺は、オルランドが毎回聞いてくる「私が贈ったものは役立っているかい?」という質問に、「はい、朝晩かかさず使っています! あんな素晴らしいものをいただき、すごくうれしいです。ありがとうございます!」とこれもまた毎回同じような答えを返していた。
そう、俺は、オルランドに文字を教えてもらってすぐにもらった魔道具「文字ボード」のことだとすっかり勘違いしていたのだ! だってあれは、文字を押すとそれが音声で流れる仕組みで、ちょっとした楽しいミニゲームなんかも組み込まれており、あの魔道具のおかげで、俺はあんなにも早く文字を覚えることができたんだ!
だから……。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ! 全部、俺のせいなんです! 俺があんまりにもトロくて鈍いから、お二人をこんなにも怒らせてしまうことに……!!」
俺はぎゅっと目をつぶり、衝撃に耐える。
だが……、
オルランドの暗黒魔法は、いつまでたっても発動する気配はなかった。
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