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冒険の始まり
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「君、君、そこの君だよ! 君!」
よく通る声が魔法学園の大講堂に響き渡った。
でもその「君」が、「俺」だなんてあるはずないと思うだろ?
だから俺は、そのまま背もたれの布地が破けた椅子を持って、倉庫へ続く通用口へ向かおうとしたんだ。
「おいっ、ティト! 止まれ! ファビオ様がこっちを見てるぞ!」
俺と同じように修繕が必要な椅子をかかえたパオロさんが、横から俺をどやした。
「へ? …‥え!?」
振り向くと、何百という目が一斉に俺を見ていた。
この国の平民として生まれ、この魔法学園で雑用係の下男として働いている俺。
――こんなに注目を浴びたことなんて、生まれてこのかた一回もない!
「なんでアイツなんだ!?」
「何かの間違いだろ? ファビオ様も冗談が過ぎるぞ!」
「あんな、平民……、ありえないだろ!」
「見ろよ、あのみすぼらしいなり!」
大講堂に集まっていた学園の生徒たちがざわつく。
やんごとない血筋の良家の子女たちの険しい視線が、俺に容赦なく突き刺さる。
どうすればいいかわからず、凍り付いたように固まってしまった俺に、壇上のその人ーーファビオ・サヴォイアは、その澄み切った空色の瞳を満足気に細めた。
「そう、君だよ。ティト!
君は今日から俺たちの仲間だ!」
そしてファビオの隣に悠然と立つ長い黒髪の男は、小首をかしげると俺に優しく微笑みかけた。
「これは楽しみだな。いい旅になりそうだね。ティト」
そして俺は、この国史上最強といわれるとんでもないチートパーティに強制的に参加させられることになったんだ。
ーー奇しくも、その日は俺の18歳の誕生日だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ティト、そっちを頼む!」
前衛のファビオの鋭い声とともに、俺の目の前にはマミーが現れた。
包帯でぐるぐる巻きになったミイラのアンデッドのモンスター。それなりにHPが高い。
だが、このダンジョン第3層では最弱の類だ。
『ちょっとアンタっ! 何へっぴり腰になってんの!? せっかくファビオ様が弱っちいアンタでも倒せる雑魚を回してくださったのよっ! さっさと振り上げなさいよっ!』
そして俺が手にした魔剣『イラーリア』から激しい叱責が飛ぶ。
魔剣とは、魔法を繰り出すことができる特別な剣で、その剣自体に人格が宿っている。
もちろんこの魔剣『イラーリア』は、そもそも俺のようなヘボい人間が手にできるような代物ではないわけで、ファビオの命令で無理やり俺に使役されている『彼女』はいつも不満たらたらだ。
俺が魔剣を振り上げると、その剣身が赤い光を帯びた。魔法が発動する合図だ。
『はぁーっ、ったく、一体いつになったらこの私がタイミングを合わせなくてもよくなるのかしらね!?』
嫌味たっぷりな声とともに、その切っ先からは雷撃が放たれた。
そして、あっという間にマミーは灰と散った。
「……」
「やったな、ティト!」
前衛で、俺が倒したマミーよりもずっと強いヒュドラ3体を瞬殺したファビオが、キラキラとした瞳で俺を振り返る。
「よくやったね。偉いよ、ティト」
そしてファビオのとなりで、やすやすと翼竜・ワイバーン3体を呪い殺したオルランドが手放しで俺を褒める。
「……」
『はっ、何が偉いのよ。バッカじゃないの!? マミーたった一体倒しただけじゃない! それでアンタは、ファビオ様とあの下種の稼いだ高ポイントをもらってレベル上げってわけ? アンタねえ、恥ずかしくないの? ファビオ様に寄生するのもいい加減に……、ちょっとぉ、聞いてるのっ!?』
ーーチン。
無言で魔剣『イラーリア』を、優美な装飾に彩られた鞘に収めた俺は改めて思った。
ーーこのパーティに俺がいる意味って、ある!?
よく通る声が魔法学園の大講堂に響き渡った。
でもその「君」が、「俺」だなんてあるはずないと思うだろ?
だから俺は、そのまま背もたれの布地が破けた椅子を持って、倉庫へ続く通用口へ向かおうとしたんだ。
「おいっ、ティト! 止まれ! ファビオ様がこっちを見てるぞ!」
俺と同じように修繕が必要な椅子をかかえたパオロさんが、横から俺をどやした。
「へ? …‥え!?」
振り向くと、何百という目が一斉に俺を見ていた。
この国の平民として生まれ、この魔法学園で雑用係の下男として働いている俺。
――こんなに注目を浴びたことなんて、生まれてこのかた一回もない!
「なんでアイツなんだ!?」
「何かの間違いだろ? ファビオ様も冗談が過ぎるぞ!」
「あんな、平民……、ありえないだろ!」
「見ろよ、あのみすぼらしいなり!」
大講堂に集まっていた学園の生徒たちがざわつく。
やんごとない血筋の良家の子女たちの険しい視線が、俺に容赦なく突き刺さる。
どうすればいいかわからず、凍り付いたように固まってしまった俺に、壇上のその人ーーファビオ・サヴォイアは、その澄み切った空色の瞳を満足気に細めた。
「そう、君だよ。ティト!
君は今日から俺たちの仲間だ!」
そしてファビオの隣に悠然と立つ長い黒髪の男は、小首をかしげると俺に優しく微笑みかけた。
「これは楽しみだな。いい旅になりそうだね。ティト」
そして俺は、この国史上最強といわれるとんでもないチートパーティに強制的に参加させられることになったんだ。
ーー奇しくも、その日は俺の18歳の誕生日だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ティト、そっちを頼む!」
前衛のファビオの鋭い声とともに、俺の目の前にはマミーが現れた。
包帯でぐるぐる巻きになったミイラのアンデッドのモンスター。それなりにHPが高い。
だが、このダンジョン第3層では最弱の類だ。
『ちょっとアンタっ! 何へっぴり腰になってんの!? せっかくファビオ様が弱っちいアンタでも倒せる雑魚を回してくださったのよっ! さっさと振り上げなさいよっ!』
そして俺が手にした魔剣『イラーリア』から激しい叱責が飛ぶ。
魔剣とは、魔法を繰り出すことができる特別な剣で、その剣自体に人格が宿っている。
もちろんこの魔剣『イラーリア』は、そもそも俺のようなヘボい人間が手にできるような代物ではないわけで、ファビオの命令で無理やり俺に使役されている『彼女』はいつも不満たらたらだ。
俺が魔剣を振り上げると、その剣身が赤い光を帯びた。魔法が発動する合図だ。
『はぁーっ、ったく、一体いつになったらこの私がタイミングを合わせなくてもよくなるのかしらね!?』
嫌味たっぷりな声とともに、その切っ先からは雷撃が放たれた。
そして、あっという間にマミーは灰と散った。
「……」
「やったな、ティト!」
前衛で、俺が倒したマミーよりもずっと強いヒュドラ3体を瞬殺したファビオが、キラキラとした瞳で俺を振り返る。
「よくやったね。偉いよ、ティト」
そしてファビオのとなりで、やすやすと翼竜・ワイバーン3体を呪い殺したオルランドが手放しで俺を褒める。
「……」
『はっ、何が偉いのよ。バッカじゃないの!? マミーたった一体倒しただけじゃない! それでアンタは、ファビオ様とあの下種の稼いだ高ポイントをもらってレベル上げってわけ? アンタねえ、恥ずかしくないの? ファビオ様に寄生するのもいい加減に……、ちょっとぉ、聞いてるのっ!?』
ーーチン。
無言で魔剣『イラーリア』を、優美な装飾に彩られた鞘に収めた俺は改めて思った。
ーーこのパーティに俺がいる意味って、ある!?
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