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第137話 罪と罰
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その七色の光は、やがて人型へと姿を変えた。
「聖騎士に復讐という文字は似合いません……」
「……シャルロット殿下っ!?」
ーー現れたのはシャルロット王女だった。
「王女……?」
マリユスは呆けたような表情で、しりもちをついた体勢のまま、美しいシャルロット王女を見つめていた。
「いままでのいきさつ、すべて拝見させていただきました。
黒の聖騎士、この男には貴方が手を下す必要はありません。
王族として、私がふさわしい裁きを与えましょう」
シャルロット殿下の波打つ金髪が、きらきらと光っている。
水色のドレスに身を包んだ王女は、まるで夢の中に現れた女神のようで、まったく現実味がない。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
俺は大声をあげた。
「はい。何でしょう? ジュール卿」
まるで天使の微笑み……。
「あの……、すべてご覧になったって、どういうことですか? ここは帳を下ろされた結界の中、ですよね?
どうして殿下が、ここに……」
「これしきの結界ですと、私にとっては大した障害にはなりません。すこし靄がかかった程度のことですわ。
ほかの方はよくわかりませんが、私にはずっと、特に問題なくジュール卿のお姿も見えておりましたし、お話されていた内容もすべて聞き取ることができました。
ちなみに、私のお友達のみなさまも同様に、最前列から今までの経緯をすべて見守られておりますわ。どうぞご安心くださいませ!」
ーーなんてこった!!
俺はいっそここで消えてしまいたかった。
俺の小っ恥ずかしいあの愛の告白を、シャルロット殿下とそのお友達のうら若き乙女たち総勢4人に聞かれていたなんて!!
ーーし、か、も!!
俺はさあーっと全身の血の気が引いていくのがわかった。
――たしか俺、さっきめちゃくちゃ不敬なこと、言ってたよね!? 本当は、シャルロット王女がずっと邪魔だった、とか、なんとか……。
「で、殿下っ、俺が、さっき言ったことは、決して本意ではなく……っ!」
「叔父様っ、やはり俺を愛しているといったのは、その場限りの嘘だったのですかっ!?」
変なところに反応してくるテオドール。もうっ、どうしてこんなときにかき回してくるんだっ!!
「違うっ、そうじゃなくて!」
「まあ、お気になさらず。私はなんということもありません。私は黒の聖騎士とジュール卿が愛し合っている姿を見ていられればそれで満足なのです。
私がとても邪魔な存在だったとかそんなことは、私はまったく気にしておりませんので、どうか気に病まないでください」
――いやこれ、絶対めちゃくちゃ気にしてるやつだよね!?
「申し訳っ、ありませんっ!」
片膝をつき、打ちひしがれる俺に、シャルロット王女はにっこりとほほ笑みかけた。
「でも……、もし、どうしても、ジュール卿が何かを心配されている、ということでしたら、今度ちょっとした私のお願いを聞いていただけると大変うれしいことですわ!」
「はいっ、何なりと!」
――この時の約束をものすごく後悔することになるのは、もう少し後の話。
「では、マリユス・ロルジュ。あなたは国外逃亡の罪、またこの度の剣術大会をかき乱した罪、そして今までの多くの人間の心を弄んだ罪をその身をもって償うため、
もう一度人生をやり直すことを命じます!」
「は?」
――やり直す?
シャルロット王女の両の手のひらから、まぶしい白い光があふれ出してくる。
その光に包まれたマリユスは……、徐々に小さくなっていって……。
「マリユスっ!! ああっ、マリユスっ、ごめんなさい!」
まだ光に包まれたままのマリユスに駆け寄る一人の女性……。
その女性はほとんど白髪の髪を無造作に後ろでまとめている。着ているドレスもあちこちが擦り切れており、決して良い身なりとはいえなかった。
「ああ、マリユス。私のマリユス……。全部私が悪かったのよ! 私が、幼いあなたを捨てて一人ぼっちにしたから、あなたは今までずっと人を信じられずに……」
白髪の女性はマリユスを抱き上げると、その胸に抱いた。
マリユスの木の葉ほどの小さな手のひらが、その女性の頬に触れた。
ーーマリユスは、小さな赤ん坊にその姿を変えられていた。
「聖騎士に復讐という文字は似合いません……」
「……シャルロット殿下っ!?」
ーー現れたのはシャルロット王女だった。
「王女……?」
マリユスは呆けたような表情で、しりもちをついた体勢のまま、美しいシャルロット王女を見つめていた。
「いままでのいきさつ、すべて拝見させていただきました。
黒の聖騎士、この男には貴方が手を下す必要はありません。
王族として、私がふさわしい裁きを与えましょう」
シャルロット殿下の波打つ金髪が、きらきらと光っている。
水色のドレスに身を包んだ王女は、まるで夢の中に現れた女神のようで、まったく現実味がない。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
俺は大声をあげた。
「はい。何でしょう? ジュール卿」
まるで天使の微笑み……。
「あの……、すべてご覧になったって、どういうことですか? ここは帳を下ろされた結界の中、ですよね?
どうして殿下が、ここに……」
「これしきの結界ですと、私にとっては大した障害にはなりません。すこし靄がかかった程度のことですわ。
ほかの方はよくわかりませんが、私にはずっと、特に問題なくジュール卿のお姿も見えておりましたし、お話されていた内容もすべて聞き取ることができました。
ちなみに、私のお友達のみなさまも同様に、最前列から今までの経緯をすべて見守られておりますわ。どうぞご安心くださいませ!」
ーーなんてこった!!
俺はいっそここで消えてしまいたかった。
俺の小っ恥ずかしいあの愛の告白を、シャルロット殿下とそのお友達のうら若き乙女たち総勢4人に聞かれていたなんて!!
ーーし、か、も!!
俺はさあーっと全身の血の気が引いていくのがわかった。
――たしか俺、さっきめちゃくちゃ不敬なこと、言ってたよね!? 本当は、シャルロット王女がずっと邪魔だった、とか、なんとか……。
「で、殿下っ、俺が、さっき言ったことは、決して本意ではなく……っ!」
「叔父様っ、やはり俺を愛しているといったのは、その場限りの嘘だったのですかっ!?」
変なところに反応してくるテオドール。もうっ、どうしてこんなときにかき回してくるんだっ!!
「違うっ、そうじゃなくて!」
「まあ、お気になさらず。私はなんということもありません。私は黒の聖騎士とジュール卿が愛し合っている姿を見ていられればそれで満足なのです。
私がとても邪魔な存在だったとかそんなことは、私はまったく気にしておりませんので、どうか気に病まないでください」
――いやこれ、絶対めちゃくちゃ気にしてるやつだよね!?
「申し訳っ、ありませんっ!」
片膝をつき、打ちひしがれる俺に、シャルロット王女はにっこりとほほ笑みかけた。
「でも……、もし、どうしても、ジュール卿が何かを心配されている、ということでしたら、今度ちょっとした私のお願いを聞いていただけると大変うれしいことですわ!」
「はいっ、何なりと!」
――この時の約束をものすごく後悔することになるのは、もう少し後の話。
「では、マリユス・ロルジュ。あなたは国外逃亡の罪、またこの度の剣術大会をかき乱した罪、そして今までの多くの人間の心を弄んだ罪をその身をもって償うため、
もう一度人生をやり直すことを命じます!」
「は?」
――やり直す?
シャルロット王女の両の手のひらから、まぶしい白い光があふれ出してくる。
その光に包まれたマリユスは……、徐々に小さくなっていって……。
「マリユスっ!! ああっ、マリユスっ、ごめんなさい!」
まだ光に包まれたままのマリユスに駆け寄る一人の女性……。
その女性はほとんど白髪の髪を無造作に後ろでまとめている。着ているドレスもあちこちが擦り切れており、決して良い身なりとはいえなかった。
「ああ、マリユス。私のマリユス……。全部私が悪かったのよ! 私が、幼いあなたを捨てて一人ぼっちにしたから、あなたは今までずっと人を信じられずに……」
白髪の女性はマリユスを抱き上げると、その胸に抱いた。
マリユスの木の葉ほどの小さな手のひらが、その女性の頬に触れた。
ーーマリユスは、小さな赤ん坊にその姿を変えられていた。
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