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第135話 負け犬
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「叔父様っ!」
「ジュールっ!」
テオドールとマリユスが同時に声を張り上げた。
「ははっ、おかしいだろ。軽蔑しろよ、二人とも!
マリユス、びっくりした? そうだよ。俺は、お前の息子を愛してしまったんだ! 心の底から!
テオドール、ずっと黙っててごめん。俺は、本当はずっと君の気持に応えたかった。
でも……、怖かったんだ。俺なんかじゃ、素晴らしい君にはふさわしくない。そう自分にそう言い聞かせてた……、でも」
俺は、自嘲した。
「そんなの、所詮綺麗ごとだ。本当は、俺はわかってたんだ。
君の気持ちに応えたところで、若くて有望な君はあっという間に俺に飽きてしまうだろう……、
だから、君の気持ちにあえて応えないことで、俺はずっと君の気を引き続けようという汚い選択をした……」
「叔父様……っ、そんな!」
「笑えるだろ! どれほど俺は自分勝手なんだろうな? しかも、ずっとなんでもないふうを装ってたけど、君がシャルロット殿下と親しくしてるって話を聞くたびに、身体中が焦げそうなほど嫉妬してた! シャルロット殿下のことは尊敬してるけど、ずっと、ずっと邪魔だと思ってた!
君が黒の聖騎士になって、周りからちやほやされているのを見るのも、すごく嫌だ!
国中の女の子たちがみんなテオドールに夢中になってるのを目の当たりにして、俺は……、俺はっ、君が聖騎士なんかにならなければ良かったとさえ思ってた!!」
「ジュール、嘘だろう……、まさか、そんな……」
あの自信満々だったマリユスが、初めてうろたえた表情をした。
「どうだい? 最低だろう? 俺も自分がここまで虫唾が走るような酷い人間だって思いもしなかったよ!
真実の愛なんて、本当に最低の感情の塊だった! 本当の愛とやらを知って、俺はますます自分のことが嫌いになったよ! だから……、俺はずっと今まで、自分の本当の気持ちを隠してきたんだ。
でも……、もっと早く君に伝えていればよかったね。そうすれば、テオ……、君もそれだけ早く俺への執着が消えたはずなのに……。
ごめんね。君に好かれていたいばかりに、こんなことになってしまった。全部、俺のせいだ……。
マリユスも……、ごめん。俺が不甲斐ないばかりに、大事な一人息子を、こんな目に……」
「やめろっ、そんな話、聞きたくないっ!」
マリユスが頭を振って、俺につかみかかろうとした。
だが……、
「叔父様、今の話は、全部、本当ですか?」
「え!?」
突然、目の前にテオドールの顔があった。
どうして? テオドールはマリユスに拘束されていたはずなのに!
「叔父様、俺を愛しているというのは、本当ですか?」
テオドールにかけられていた魔力の拘束はなぜかすっかり外れており、俺はテオドールに両肩をつかまれて揺すぶられていた。
「は? え? テオ、どうして?」
「答えてください! 本当の、本当ですかっ!? この場をうまく逃れるための叔父様のウソなどではありませんかっ!?」
「ち、違う! ほ、本当だよ! 俺は、テオのことを、愛してる……んっ!」
テオドールは強引に俺に唇を重ねてきた。
「俺も、愛していますっ! しかも、今の叔父様の告白を聞いて、ますます叔父様への愛が深まりましたっ!
俺は、今まで生きてきて、これまでにない感動に打ち震えていますっ!」
テオドールの漆黒の瞳は、キラキラと輝いている。
「は!?」
――テオ、人の話、ちゃんと聞いてた……?
「叔父様っ、叔父様が嫌なら俺はいますぐ聖騎士を辞めます! もともと、聖騎士になんて、何の未練もありませんのでお気になさらず!
シャルロット殿下とは、今後一切の交流を断ちますのでご安心を!
また、俺がほかの人間と話したりするのが気に入らないのであれば、俺は叔父様と二人、どこか誰もいないところで暮らしたいと思っておりますが、叔父様はそれでよろしいでしょうかっ!?」
「……え!?」
――全然、よろしくない、気が、する……。
「叔父様っ、危ないっ!」
テオドールが俺を抱きしめ、そのまま飛び上がった。
マリユスが風魔法で、切り裂くような攻撃を繰り出したのだ。
見ると闘技場の床は、斬撃で切り裂かれたようになっていた。
「おいおい、どうやって魔法の使えないお前がこの拘束を解いたんだ?
説明してもらおうか、……ナイム!」
マリユスが憎悪に満ちた瞳をこちらに向けている。
「ナイム……?」
俺はテオドールを見上げた。
――なぜ、テオドールがその名で呼ばれているのだ?
テオドールは少し離れた場所に着地して俺をおろすと、マリユスに向かって微笑んで見せた。
「ああ、申し訳ありません。叔父様からの愛の告白を受けて、すっかり舞い上がってしまって忘れてしまっていました。
ーーもはや負け犬でいらっしゃるお父様のことなど……」
「ジュールっ!」
テオドールとマリユスが同時に声を張り上げた。
「ははっ、おかしいだろ。軽蔑しろよ、二人とも!
マリユス、びっくりした? そうだよ。俺は、お前の息子を愛してしまったんだ! 心の底から!
テオドール、ずっと黙っててごめん。俺は、本当はずっと君の気持に応えたかった。
でも……、怖かったんだ。俺なんかじゃ、素晴らしい君にはふさわしくない。そう自分にそう言い聞かせてた……、でも」
俺は、自嘲した。
「そんなの、所詮綺麗ごとだ。本当は、俺はわかってたんだ。
君の気持ちに応えたところで、若くて有望な君はあっという間に俺に飽きてしまうだろう……、
だから、君の気持ちにあえて応えないことで、俺はずっと君の気を引き続けようという汚い選択をした……」
「叔父様……っ、そんな!」
「笑えるだろ! どれほど俺は自分勝手なんだろうな? しかも、ずっとなんでもないふうを装ってたけど、君がシャルロット殿下と親しくしてるって話を聞くたびに、身体中が焦げそうなほど嫉妬してた! シャルロット殿下のことは尊敬してるけど、ずっと、ずっと邪魔だと思ってた!
君が黒の聖騎士になって、周りからちやほやされているのを見るのも、すごく嫌だ!
国中の女の子たちがみんなテオドールに夢中になってるのを目の当たりにして、俺は……、俺はっ、君が聖騎士なんかにならなければ良かったとさえ思ってた!!」
「ジュール、嘘だろう……、まさか、そんな……」
あの自信満々だったマリユスが、初めてうろたえた表情をした。
「どうだい? 最低だろう? 俺も自分がここまで虫唾が走るような酷い人間だって思いもしなかったよ!
真実の愛なんて、本当に最低の感情の塊だった! 本当の愛とやらを知って、俺はますます自分のことが嫌いになったよ! だから……、俺はずっと今まで、自分の本当の気持ちを隠してきたんだ。
でも……、もっと早く君に伝えていればよかったね。そうすれば、テオ……、君もそれだけ早く俺への執着が消えたはずなのに……。
ごめんね。君に好かれていたいばかりに、こんなことになってしまった。全部、俺のせいだ……。
マリユスも……、ごめん。俺が不甲斐ないばかりに、大事な一人息子を、こんな目に……」
「やめろっ、そんな話、聞きたくないっ!」
マリユスが頭を振って、俺につかみかかろうとした。
だが……、
「叔父様、今の話は、全部、本当ですか?」
「え!?」
突然、目の前にテオドールの顔があった。
どうして? テオドールはマリユスに拘束されていたはずなのに!
「叔父様、俺を愛しているというのは、本当ですか?」
テオドールにかけられていた魔力の拘束はなぜかすっかり外れており、俺はテオドールに両肩をつかまれて揺すぶられていた。
「は? え? テオ、どうして?」
「答えてください! 本当の、本当ですかっ!? この場をうまく逃れるための叔父様のウソなどではありませんかっ!?」
「ち、違う! ほ、本当だよ! 俺は、テオのことを、愛してる……んっ!」
テオドールは強引に俺に唇を重ねてきた。
「俺も、愛していますっ! しかも、今の叔父様の告白を聞いて、ますます叔父様への愛が深まりましたっ!
俺は、今まで生きてきて、これまでにない感動に打ち震えていますっ!」
テオドールの漆黒の瞳は、キラキラと輝いている。
「は!?」
――テオ、人の話、ちゃんと聞いてた……?
「叔父様っ、叔父様が嫌なら俺はいますぐ聖騎士を辞めます! もともと、聖騎士になんて、何の未練もありませんのでお気になさらず!
シャルロット殿下とは、今後一切の交流を断ちますのでご安心を!
また、俺がほかの人間と話したりするのが気に入らないのであれば、俺は叔父様と二人、どこか誰もいないところで暮らしたいと思っておりますが、叔父様はそれでよろしいでしょうかっ!?」
「……え!?」
――全然、よろしくない、気が、する……。
「叔父様っ、危ないっ!」
テオドールが俺を抱きしめ、そのまま飛び上がった。
マリユスが風魔法で、切り裂くような攻撃を繰り出したのだ。
見ると闘技場の床は、斬撃で切り裂かれたようになっていた。
「おいおい、どうやって魔法の使えないお前がこの拘束を解いたんだ?
説明してもらおうか、……ナイム!」
マリユスが憎悪に満ちた瞳をこちらに向けている。
「ナイム……?」
俺はテオドールを見上げた。
――なぜ、テオドールがその名で呼ばれているのだ?
テオドールは少し離れた場所に着地して俺をおろすと、マリユスに向かって微笑んで見せた。
「ああ、申し訳ありません。叔父様からの愛の告白を受けて、すっかり舞い上がってしまって忘れてしまっていました。
ーーもはや負け犬でいらっしゃるお父様のことなど……」
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