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第70話 禁断の口づけ

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 深いキス、深いキス、深いキスといったら、アレだ!

 舌と舌を絡ませ、時には吸い合い、上あごや歯列をねっとりと舐め合って、お互いの唾液を……。


「うわあああああ!」


 俺は叫び声をあげ、頭を抱えてうずくまった。

 無理無理無理無理! 絶対に無理!!


 そんな性的欲求に直結するような行為を、テオドールとなんて!

 保護者の風上にも置けん!


「叔父様っ、大丈夫ですか?」

 テオドールがそんな俺の背中に、優しく手を置いてくれる。


 ――純粋無垢なテオドールに深いキスが何かなんて、絶対言えないよおおお!


 そんな俺の葛藤をよそに、扉の向こうではオーバンとシャルロット王女が言い合っていた。

「シャルロット……、お前、どこまで頭がおかしくなったんだ!? なんでジュールとテオドールにディープキスなんて」

「ホホホ、オーバンったら、何も知らない子供でもあるまいし! こんな絶好のチャンスに、ただの唇のふれあいだけで終わらすなんて、もったいなくてできませんわ」

「お前も立派な子供だろ! それに、何がチャンスだ、そもそもお前は……」

「ああああ! 滾る、滾りますわ……! 一体この状況をテオドールさんはどうやって……」


「やはりここは、年上であるジュール卿がテオドール様を導かれて……」

「きっと一度火がついてしまったら、堰を切ったように今までの感情が暴走して……!」

「まあ、まあ、まああっ! なんて罪作りな方なんでしょう、シャルロット殿下はっ!」

「さあ、皆さま! 我々も微力ながらここからお二人を応援いたしましょう!」

「「「はいっ!!」」」


 訳の分からない固い絆で結ばれたシャルロット王女とその取り巻きのご令嬢たち。

 ……助けてくれる気は、さらさらないらしい。



「おい、聞いたか、ジュール、もう他に手はない。諦めてテオドールとディープキスしろ!」

「そんなっ、なにか別の方法は……?」

「ない! シャルロットの魔力に勝てるやつなんて、この国にはいないんだ! あきらめろ、ジュール。男だろ!?」

 ――男とかそんなの、絶対関係ない!


「叔父様……、俺、叔父様のためならなんだってします」

 健気すぎるテオドールの視線が痛い。

「テオ、駄目だよ……、だって……」


「おーい、テオドール、聞いてるか? 意気地なしの叔父様に代わって俺が教えてやるよ。
この部屋を出るためには、いまからお前の大好きな叔父様をベッドに押し倒して、
無理やりキスして、舌で唇をこじ開けたあとに、お前の舌で叔父様の口の中を舐めまわしてやるしかないんだ!
これしかこの部屋を出る方法はない。いいな、テオドール、できるか?」

 キャ――! オーバンさまっ、ナイスアシスト! とご令嬢たちの声がそろう。


「なっ!?」


 ――押し倒す……っ!? 無理矢理っ!? 舐めまわすッ……!?

 ――オーバンのディープキスの概念って一体……!?


「う、嘘だよ、テオ、信じないで!」

 だが、振り返った俺が見たものは……。


「はい、できます! 俺は叔父様のためなら、なんだって!」

 なぜか使命感に燃えたテオドールの凛々しい姿。


 なんだか知らないうちに、状況がどんどん悪くなっている気がするのだがっ!?




「叔父様、失礼します……」

「わあっ……!」

 俺はあっという間にテオドールに横抱きにされて、ベッドの上にそっと落とされた。


 そして、俺を見下ろすのは、壮絶な色気をまとった漆黒の瞳……。


「テオ……、駄目だよ……、違うんだ……」


 俺はテオドールの胸を自分の両手で押し返した。だが、意外にも硬いその胸板はびくともせず……。

「叔父様、大丈夫です。優しくします……」

 ――こんなセリフ、テオドールから聞きたくなかった!


「駄目、テオ、駄目……っ」

「抗わないで、俺に、すべて任せて……」


 あっという間に、真剣な表情のテオドールの顔が近づいてきて……、

「んっ、む、っ……」

 唇が重なった。
 先ほどとは違って、しっかりと、強く。

「はあっ……、叔父様っ、叔父様っ!」

 テオドールは唇だけでなく、頬や顎、額や目元にもたくさんキスを落としてくる。

「駄目ッ、テオ…‥、やめっ、あっ……」


 ベッドの上できつく抱きしめられたところで、もう一度唇が重なり、テオドールの舌が俺の唇を舐めた。

「んっ……」

 俺は唇を固く結んでテオドールの舌の侵入を拒む。



「叔父様、口を開けてください」

 テオドールの言葉に、俺はいやいやと首を振る。

 だが……、


「叔父様……、好きです。誰よりも……」

 唇を舌でノックされ、テオドールの熱い手のひらが俺の胸のあたりを撫でたとき、俺は思わず吐息を漏らしてしまった。

「ああっ……」


 テオドールはその隙を逃さず、すかさず舌を差し入れてきた。

「む、うっ、んんっ……!」

 熱い舌が俺の咥内を蹂躙していく。


「はあっ……、くっ……、たまらない……、叔父様っ、ジュール叔父様っ!」

「むっ、んっ、あっ、ああ! 駄目っ、テオっ、……っ!」


 まるで獣に食われているような感覚だった。

 すべての歯列をなぞられ、強く舌を吸われ、唾液すらすすられた。


 苦し気に呻くと、テオドールは俺の手を握り、指を絡ませてきた。


「叔父様……、俺のっ、ジュール叔父様……っ」

「テオっ、あっ、こんなの駄目っ、もうっ……」


 拒絶の言葉を口にしながらも、俺もしっかりとテオドールの手を握り返していた。


「叔父様……、はあっ、もうっ……、我慢できないっ……!」


 貪るように口づけていたテオドールが、俺のシャツのボタンに手を伸ばしたその時……、



「キャアアアアアアアアア!!!!」

 少女たちの悲鳴と共に、荒々しく部屋の扉が開かれた。


「あ……」

 ベッドでもつれ合っていた俺たちが振り返ると、そこにいたのは……、


「乾杯もせずに、私をほうっておいて、こちらでみんなでお楽しみとは、いい度胸ね、ジュール!!
そもそも、私がどれだけのこのパーティの準備に情熱をかけてきたかわかってるの?
それを、あなたはテオドールと二人でふざけて、こんなところで王女様たちとかくれんぼとは……!
このパーティが何のためのものかわかっているのっ!? 一体どういうつもりなのっ!?
説明しなさいっ、ジュールっ!!!!」

 燃えるような赤い髪のお姉様が、仁王立ちで俺たちを睨みつけていた。


 ――お姉様に怒られて始まり、お姉様に怒られて終わる……。


 テオドールの16歳の誕生日会は、こうして無事?幕を閉じた。

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