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第48話 王女とその仲間たち

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 俺は気を取り直して、冷めてしまったホットチョコレートを一口飲んだ。

 ーー甘い。

「オーバン君、自暴自棄になるのはよくないよ! いくら好きな人と結婚できないからって、目の前にいるだけの人間を捕まえて……」

 オーバンは俺の手を取ると、チュッと口づけてきた。

「ヒッ……!」

「テオドールは俺から大切なものを奪うんだ。だから俺も、アイツの一番大切なものを奪ってやる……!」

 オーバンの瞳に、なにか底しれぬ闇を感じ、俺は慌てて手を引き抜いた。


「ははっ、でもまだ15歳なんだし、結婚のことはまだまだ早いんじゃないかなっ? これから先、もっと素敵なご令嬢にも出会えるかもしれないし……」

「もし俺がシャルロットと婚約破棄したら、新しい婚約者として、あのシャルロットの取り巻きの変態女の一人をあてがわれるだけだ。それなら、アンタのほうがよっぽどいい。性格も好きだし、声も顔もまあまあ可愛いしな」

 ーーそれは褒められているのか!?


 オーバンは、また俺にその美しい顔を近づけてくる。


「で、どうするの? 叔父様。条件を飲むの? 飲まないの? 俺を味方につければ、テオドールとシャルロットの結婚はほぼ確実だよ。ダンデス家も安泰だよね?」

「……っ、でも!」

 俺がオーバンと結婚? そこに愛はあるのか!?


「大丈夫だよ。ジュール。今はまだ子どもだけど、大人になったらあなたを必ず満足させてあげるから……っ!」

「ヒッ……」

 耳に息を吹き込まれ、俺は硬直する。


「じゃ、交渉成立ってことで、いいよね? これからよろしく、俺の秘密の婚約者様っ!」

 チュと音を立てて、頬にキスをされたその時、


「きゃあああああああああああ!!!!!!」


 のどかなカフェテラスに絶叫が響き渡った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「はわわ、はわわ、情緒が、情緒がヤバいですわ~! まさかのオーバンがそっち側っ!? しかも意外に男らしい……、私としたことが、とんだ、とんだ解釈違いでしたわっ!!」

 白いレースのハンカチを握りしめ、ふるふると生まれたての子鹿のように震えている美少女。

 金色の髪を縦ロールにして、自分の瞳の色と同じ青いリボンで結んでいる。


「シャルロット、お前、またそんなところで……」

 オーバンはげんなりした顔をする。


「シャルロット? シャルロットって!!」

 もしかして、シャルロット王女様が今、ここに!?


「アイツはよくわからないんだが、いつも俺達の近くにいて、俺達を見張ってるんだ。一体何が楽しいんだか……」

 吐き捨てるように言うと、オーバンはスタスタとシャルロットに近づいていった。


「おいっ、この変態女っ!」


 ーーシャルロット殿下に対して、なんたる不敬っ!!

 しかしシャルロット王女は、そんなオーバンの暴言を気にするでもなく、ふらふらとした足取りで俺に近づいてきた。


「あの……、あの……、不躾な質問をお許しくださいませっ。貴方様のお名前を教えていただけませんかっ?」

 潤んだ瞳が俺を見つめている。

 ーー可愛いっ!!!!


「わ、私は、ジュール・ダンデスと申します。シャルロット殿下、お目にかかれて光栄で……」

 ドキドキしながら、俺は答える。と……、


「ひゃああああああっ!!!!」

 初対面の王女に、目の前で絶叫される俺の気持ちにもなってほしい!!


「シャルロット殿下っ、大丈夫ですのっ!?」

「一体何がありましたのっ!?」

 そして、どこからともなく、シャルロット王女の取り巻きと思われる少女たちがわらわらと集まってくる。


 ーーお、俺は自己紹介をしただけだっ! 何も悪いことはしていない!!


「ジュール卿っ、ジュール・ダンデスっ! ……ダンデスっ! あのダンデス伯爵の……っ、つまりはっ、つまりは、テオドールさんの、かの『叔父様』であられますのねっ!」

 シャルロットはハンカチをギュッと握りしめる。

「はあ、そうです、けど……」

 俺の返事に、周りのご令嬢たちからも「きゃあっ!」と黄色い悲鳴が上がった。



「まさかまさか、こんなにお若くて、可愛らしい叔父様でしたのっ!?」

「勝手にひげのイケオジを想像しておりましたわっ!」

「我々としたことが、下調べもせずに、なんと浅はかなっ!!」

「これは由々しき事態ですわよっ、ということは、つまりはテオドール様はっ!」

「きゃあっ、何ということでしょう! 間違いありませんわ。あの叔父様愛はすべて、このジュール卿のために……!」

「すべてふりだしに戻ったといっても過言ではありませんわ! もう一度、今後のことを話し合いましょう、シャルロット殿下っ!」

「ええっ、そうですわね、皆様! しかも、私、とんでもないところを見てしまいましたの。さきほど、なんとこのオーバンが、ジュール卿に強引に口づけをっ!!」


「「「ひゃああああああっ!!!!」」」


「まさかまさか、ということは、これからジュール卿を巡っての因縁の三角関係がっ!?」

「しかも真性の受け様であるはずのオーバン様が、そんなに男らしく強引にっ!?」

「私もついさきほどまで誤解していました。オーバンの潜在能力を見くびっていたとは……、婚約者として、非常に情けないことですわ!」


「……」

 俺は呆然と立ち尽くしていた。


 ーーこのご令嬢たちの言っていること、さっぱり意味がわからないんですけど……!!



「ジュール、気にするな。コイツラはいつもこうなんだ。所詮変態たちだ。変態にしかわからない言語で話している」

 オーバンが俺の横でぼそりとつぶやく。


「わからない、言語……?」

 年頃の少女たち……。もはやおじさんである俺にはわからない世界なのか……。


「……?」

 きゃいきゃいと話を続けている王女たちに脱力していた俺だったが、なにか禍々しいオーラを感じ、後ろを振り向いた。


 そこには……、


「テオっ!?」



 剣術部のユニフォームである群青色の騎士服に身を包んだテオドールが、俺に向かって不穏な笑みを浮かべていた。




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