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第16話 大罪

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~7年前~


 目を覚ますと、アムルは天蓋付きの豪華な寝台に寝かされていた。
 見たこともない場所だった。

 起き上がってあちこち確かめていると、部屋の扉が開き、白髪の男が入っていた。


「お目覚めですか、アムル様」

 執事の恰好をしたその男は、アムルの名前を知っている。だが、アムルはその男に見覚えがなかった。

「あの、ここは…‥」

 男はアムルに水の入ったコップを手渡す。
 アムルが一息で水を飲みほしたのを見届けると、執事の男はアムルを促した。


「事態は急を要しております、大変申し訳ありませんが、今すぐ私についてきてください」

 アムルが寝台から下りる。靴も、服装も、湖で倒れたあの時のままだった。


「あの、ここはどこですか? マーリク殿下と、アミードは…‥」

「ついてきてください。もう時間がありません」

 説明するつもりがないのか、執事は歩みを早めた。


 どうやらここは、王宮内のようだった。建物や調度品に見覚えがある。
 
 だが、アムルが今いるこの場所は、おそらく王族のみが立ち入ることのできる私的な空間だ。


 ――なぜ自分はこんな場所にいるのか。それに、渦に飲まれたアミードとマーリクはどうなったのか……?


 誰ともすれ違うことなく、執事の男とアムルは長い通路を抜け、石造りの別の建物に入る。
 ひんやりとした空気が、アムルの周りに漂う。

 執事は迷うことなく、その地下へと足を進める。

 コツコツと、二人の足音が響く。


「あの、ここは……」

「地下牢です」

 執事の言葉に、アムルは息を呑む。

 やがて、二人は鉄格子の扉の前についた。

 執事の男は鍵を取り出すと、扉を開けてアムルに中に入るように促した。


「ここから先はおひとりでお願いいたします。マーリク殿下がお待ちでございます」

「……!!」


 アムルは駆け出していた。後ろで、執事が鍵を閉める音がした。



 ――間違いない。ここに捕らえられているのは……。



「アミードっ!!!」



 ――アミードは、牢の中で鎖につながれていた。

 両手を天井から伸びている鎖で固定され、首、手首、足首それぞれに、鉛でできた拘束具が付けられている。おそらくこれは魔法を封じるためのものだ。

 アミードには、あちこち鞭で打たれたような痕があり、白かったシャツは血で染まっていた。顏は何度も殴られたのか、腫れあがり赤くなっている。
 気を失っているのか、アムルの声に反応する様子はなかった。

「アミードっ、どうしてっ!?」

 アムルは牢の柵に手をかけ、ガシャガシャと揺さぶった。


「来たか、アムル……」

 振り返るとマーリクと、その隣に二人の近衛兵がいた。


「……マーリク」

 マーリクは金色の肩章がついた、白い軍服を身に纏っていた。


「似ていないと思っていたが、お前たちはやはり双子だな……。湖に沈められた時は驚いたぞ。アムル、お前にそんな魔力があったとは今まで知らなかった。
それに、アミードも……」

 マーリクが合図すると、近衛兵の一人がバケツに入った水をアミードに浴びせかけた。

「……っ!」

 アミードが咳き込み、目を覚ました。

 金色の髪から水滴がしたたり落ちている。

 アミードの金色の瞳が、マーリクを睨みつけた。



「マーリク、どういう、つもりだっ……、なぜ、アムルをここに呼んだっ!」

 マーリクは唇をゆがめると、近衛兵に向き直った。


「お前たちはもう下がれ」

「しかし殿下っ!」

「大丈夫だ。魔力は封じられ、身体の自由も奪われている。もはや危険はない。
それに、この者は私の側室になるものだ」

 マーリクに突然腕をひかれ、つんのめったアムルはマーリクの胸の中に倒れこんだ。


「これ以上なにか、不都合でも?」

「いえ……、かしこまりました」

 しぶしぶといった体ではあったが、近衛兵二人はこの場から立ち去った。


「マーリクっ、アムルから手を離せっ!」

 マーリクに牙をむくアミードは、手負いの獣そのものだった。


 マーリクはそんなアミードを鼻で笑うと、アムルの背中に手をまわしぎゅっと抱きしめた。

「マーリクっ! やめろ」

 アムルはマーリクの腕の中から逃れようとするが、力では到底かなわない。


「アミード、アムルには知る権利がある。説明してやれ、こうなったいきさつを。
なぜ、アムルが側室に内定して以降、私がアムルを忘れて、ああしてお前にかまけていたのかを」


「……誰が、言うもんかっ」

 アミードがあざ笑う。


「なら、私から説明してやろう」

 最初からアミードが素直に応じるとは思っていなかったのだろう。マーリクはアムルを解放し、傷ついたアミードへ身体を向けさせた。


「アムル、お前は罪を犯した。お前は、王太子である私を、殺そうとした。このことに間違いはないな」

「……」


「アミードもまた、大罪を犯した。こいつは、私に『魅了』の術をかけていたのだ」





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