16 / 29
第16話 大罪
しおりを挟む
~7年前~
目を覚ますと、アムルは天蓋付きの豪華な寝台に寝かされていた。
見たこともない場所だった。
起き上がってあちこち確かめていると、部屋の扉が開き、白髪の男が入っていた。
「お目覚めですか、アムル様」
執事の恰好をしたその男は、アムルの名前を知っている。だが、アムルはその男に見覚えがなかった。
「あの、ここは…‥」
男はアムルに水の入ったコップを手渡す。
アムルが一息で水を飲みほしたのを見届けると、執事の男はアムルを促した。
「事態は急を要しております、大変申し訳ありませんが、今すぐ私についてきてください」
アムルが寝台から下りる。靴も、服装も、湖で倒れたあの時のままだった。
「あの、ここはどこですか? マーリク殿下と、アミードは…‥」
「ついてきてください。もう時間がありません」
説明するつもりがないのか、執事は歩みを早めた。
どうやらここは、王宮内のようだった。建物や調度品に見覚えがある。
だが、アムルが今いるこの場所は、おそらく王族のみが立ち入ることのできる私的な空間だ。
――なぜ自分はこんな場所にいるのか。それに、渦に飲まれたアミードとマーリクはどうなったのか……?
誰ともすれ違うことなく、執事の男とアムルは長い通路を抜け、石造りの別の建物に入る。
ひんやりとした空気が、アムルの周りに漂う。
執事は迷うことなく、その地下へと足を進める。
コツコツと、二人の足音が響く。
「あの、ここは……」
「地下牢です」
執事の言葉に、アムルは息を呑む。
やがて、二人は鉄格子の扉の前についた。
執事の男は鍵を取り出すと、扉を開けてアムルに中に入るように促した。
「ここから先はおひとりでお願いいたします。マーリク殿下がお待ちでございます」
「……!!」
アムルは駆け出していた。後ろで、執事が鍵を閉める音がした。
――間違いない。ここに捕らえられているのは……。
「アミードっ!!!」
――アミードは、牢の中で鎖につながれていた。
両手を天井から伸びている鎖で固定され、首、手首、足首それぞれに、鉛でできた拘束具が付けられている。おそらくこれは魔法を封じるためのものだ。
アミードには、あちこち鞭で打たれたような痕があり、白かったシャツは血で染まっていた。顏は何度も殴られたのか、腫れあがり赤くなっている。
気を失っているのか、アムルの声に反応する様子はなかった。
「アミードっ、どうしてっ!?」
アムルは牢の柵に手をかけ、ガシャガシャと揺さぶった。
「来たか、アムル……」
振り返るとマーリクと、その隣に二人の近衛兵がいた。
「……マーリク」
マーリクは金色の肩章がついた、白い軍服を身に纏っていた。
「似ていないと思っていたが、お前たちはやはり双子だな……。湖に沈められた時は驚いたぞ。アムル、お前にそんな魔力があったとは今まで知らなかった。
それに、アミードも……」
マーリクが合図すると、近衛兵の一人がバケツに入った水をアミードに浴びせかけた。
「……っ!」
アミードが咳き込み、目を覚ました。
金色の髪から水滴がしたたり落ちている。
アミードの金色の瞳が、マーリクを睨みつけた。
「マーリク、どういう、つもりだっ……、なぜ、アムルをここに呼んだっ!」
マーリクは唇をゆがめると、近衛兵に向き直った。
「お前たちはもう下がれ」
「しかし殿下っ!」
「大丈夫だ。魔力は封じられ、身体の自由も奪われている。もはや危険はない。
それに、この者は私の側室になるものだ」
マーリクに突然腕をひかれ、つんのめったアムルはマーリクの胸の中に倒れこんだ。
「これ以上なにか、不都合でも?」
「いえ……、かしこまりました」
しぶしぶといった体ではあったが、近衛兵二人はこの場から立ち去った。
「マーリクっ、アムルから手を離せっ!」
マーリクに牙をむくアミードは、手負いの獣そのものだった。
マーリクはそんなアミードを鼻で笑うと、アムルの背中に手をまわしぎゅっと抱きしめた。
「マーリクっ! やめろ」
アムルはマーリクの腕の中から逃れようとするが、力では到底かなわない。
「アミード、アムルには知る権利がある。説明してやれ、こうなったいきさつを。
なぜ、アムルが側室に内定して以降、私がアムルを忘れて、ああしてお前にかまけていたのかを」
「……誰が、言うもんかっ」
アミードがあざ笑う。
「なら、私から説明してやろう」
最初からアミードが素直に応じるとは思っていなかったのだろう。マーリクはアムルを解放し、傷ついたアミードへ身体を向けさせた。
「アムル、お前は罪を犯した。お前は、王太子である私を、殺そうとした。このことに間違いはないな」
「……」
「アミードもまた、大罪を犯した。こいつは、私に『魅了』の術をかけていたのだ」
目を覚ますと、アムルは天蓋付きの豪華な寝台に寝かされていた。
見たこともない場所だった。
起き上がってあちこち確かめていると、部屋の扉が開き、白髪の男が入っていた。
「お目覚めですか、アムル様」
執事の恰好をしたその男は、アムルの名前を知っている。だが、アムルはその男に見覚えがなかった。
「あの、ここは…‥」
男はアムルに水の入ったコップを手渡す。
アムルが一息で水を飲みほしたのを見届けると、執事の男はアムルを促した。
「事態は急を要しております、大変申し訳ありませんが、今すぐ私についてきてください」
アムルが寝台から下りる。靴も、服装も、湖で倒れたあの時のままだった。
「あの、ここはどこですか? マーリク殿下と、アミードは…‥」
「ついてきてください。もう時間がありません」
説明するつもりがないのか、執事は歩みを早めた。
どうやらここは、王宮内のようだった。建物や調度品に見覚えがある。
だが、アムルが今いるこの場所は、おそらく王族のみが立ち入ることのできる私的な空間だ。
――なぜ自分はこんな場所にいるのか。それに、渦に飲まれたアミードとマーリクはどうなったのか……?
誰ともすれ違うことなく、執事の男とアムルは長い通路を抜け、石造りの別の建物に入る。
ひんやりとした空気が、アムルの周りに漂う。
執事は迷うことなく、その地下へと足を進める。
コツコツと、二人の足音が響く。
「あの、ここは……」
「地下牢です」
執事の言葉に、アムルは息を呑む。
やがて、二人は鉄格子の扉の前についた。
執事の男は鍵を取り出すと、扉を開けてアムルに中に入るように促した。
「ここから先はおひとりでお願いいたします。マーリク殿下がお待ちでございます」
「……!!」
アムルは駆け出していた。後ろで、執事が鍵を閉める音がした。
――間違いない。ここに捕らえられているのは……。
「アミードっ!!!」
――アミードは、牢の中で鎖につながれていた。
両手を天井から伸びている鎖で固定され、首、手首、足首それぞれに、鉛でできた拘束具が付けられている。おそらくこれは魔法を封じるためのものだ。
アミードには、あちこち鞭で打たれたような痕があり、白かったシャツは血で染まっていた。顏は何度も殴られたのか、腫れあがり赤くなっている。
気を失っているのか、アムルの声に反応する様子はなかった。
「アミードっ、どうしてっ!?」
アムルは牢の柵に手をかけ、ガシャガシャと揺さぶった。
「来たか、アムル……」
振り返るとマーリクと、その隣に二人の近衛兵がいた。
「……マーリク」
マーリクは金色の肩章がついた、白い軍服を身に纏っていた。
「似ていないと思っていたが、お前たちはやはり双子だな……。湖に沈められた時は驚いたぞ。アムル、お前にそんな魔力があったとは今まで知らなかった。
それに、アミードも……」
マーリクが合図すると、近衛兵の一人がバケツに入った水をアミードに浴びせかけた。
「……っ!」
アミードが咳き込み、目を覚ました。
金色の髪から水滴がしたたり落ちている。
アミードの金色の瞳が、マーリクを睨みつけた。
「マーリク、どういう、つもりだっ……、なぜ、アムルをここに呼んだっ!」
マーリクは唇をゆがめると、近衛兵に向き直った。
「お前たちはもう下がれ」
「しかし殿下っ!」
「大丈夫だ。魔力は封じられ、身体の自由も奪われている。もはや危険はない。
それに、この者は私の側室になるものだ」
マーリクに突然腕をひかれ、つんのめったアムルはマーリクの胸の中に倒れこんだ。
「これ以上なにか、不都合でも?」
「いえ……、かしこまりました」
しぶしぶといった体ではあったが、近衛兵二人はこの場から立ち去った。
「マーリクっ、アムルから手を離せっ!」
マーリクに牙をむくアミードは、手負いの獣そのものだった。
マーリクはそんなアミードを鼻で笑うと、アムルの背中に手をまわしぎゅっと抱きしめた。
「マーリクっ! やめろ」
アムルはマーリクの腕の中から逃れようとするが、力では到底かなわない。
「アミード、アムルには知る権利がある。説明してやれ、こうなったいきさつを。
なぜ、アムルが側室に内定して以降、私がアムルを忘れて、ああしてお前にかまけていたのかを」
「……誰が、言うもんかっ」
アミードがあざ笑う。
「なら、私から説明してやろう」
最初からアミードが素直に応じるとは思っていなかったのだろう。マーリクはアムルを解放し、傷ついたアミードへ身体を向けさせた。
「アムル、お前は罪を犯した。お前は、王太子である私を、殺そうとした。このことに間違いはないな」
「……」
「アミードもまた、大罪を犯した。こいつは、私に『魅了』の術をかけていたのだ」
50
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【完結】役立たずの僕は王子に婚約破棄され…にゃ。でも猫好きの王子が溺愛してくれたのにゃ
鏑木 うりこ
BL
僕は王宮で能無しの役立たずと全員から疎まれていた。そしてとうとう大失敗をやらかす。
「カイ!お前とは婚約破棄だ!二度と顔を出すんじゃない!」
ビクビクと小さくなる僕に手を差し伸べてくれたのは隣の隣の国の王子様だった。
「では、私がいただいても?」
僕はどうしたら良いんだろう?え?僕は一体?!
役立たずの僕がとても可愛がられています!
BLですが、R指定がありません!
色々緩いです。
1万字程度の短編です。若干のざまぁ要素がありますが、令嬢ものではございせん。
本編は完結済みです。
小話も完結致しました。
土日のお供になれば嬉しいです(*'▽'*)
小話の方もこれで完結となります。お読みいただき誠にありがとうございました!
アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会で小話を書いています。
お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
悪役なので大人しく断罪を受け入れたら何故か主人公に公開プロポーズされた。
柴傘
BL
侯爵令息であるシエル・クリステアは第二王子の婚約者。然し彼は、前世の記憶を持つ転生者だった。
シエルは王立学園の卒業パーティーで自身が断罪される事を知っていた。今生きるこの世界は、前世でプレイしていたBLゲームの世界と瓜二つだったから。
幼い頃からシナリオに足掻き続けていたものの、大した成果は得られない。
然しある日、婚約者である第二王子が主人公へ告白している現場を見てしまった。
その日からシナリオに背く事をやめ、屋敷へと引き篭もる。もうどうにでもなれ、やり投げになりながら。
「シエル・クリステア、貴様との婚約を破棄する!」
そう高らかに告げた第二王子に、シエルは恭しく礼をして婚約破棄を受け入れた。
「じゃあ、俺がシエル様を貰ってもいいですよね」
そう言いだしたのは、この物語の主人公であるノヴァ・サスティア侯爵令息で…。
主人公×悪役令息、腹黒溺愛攻め×無気力不憫受け。
誰でも妊娠できる世界。頭よわよわハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる