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【番外編】

アスランの物語 8

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 それは、魔法騎士団の重要会議が、王都で開かれた日のことだった……。


 俺はその日アナスタシアに、彼女の初デートの練習相手として、通称「恋人たちの湖」に呼び出されていた。

 普段の俺ならこういった頼みは断るところだが、アナスタシアにはいつもククリとの話を聞いてもらっている恩があること、また最近特に抑えがきかなくなっているククリに対する性衝動について彼女に相談したかったことから、会議の昼休憩の時間に転移魔法を使って、湖に出向くこととした。


「ふぅ、アスラン、アンタに頼んでおいてよかったわ。もし練習しておかなかったら、私が一人でボートを漕ぎまくって、テルマン様を唖然とさせるところだったもの!」

 ボートの上で、美しい湖面に手を浸しながら、アナスタシアが言う。

「一般論ではあるけど、男は初デートでは相手にいいところを見せたいと思っているからね。
最初のうちは、ボートを漕ぐのはテルマンに譲ったほうがいいだろうな」


 ――たとえ、アナスタシアの方が、ずっとボートを漕ぐのが上手いとしても……。
 

 テルマンは、いわゆる強い女が大好きな男で、アナスタシアがデートで何をしでかしたとしても、アナスタシアにべた惚れなのは間違いなかったが、アナスタシアも乙女として、事前にデートの作法くらいは学んでおきたかったのだろう。


「忙しいのにわざわざ呼び出して悪かったわね、アスラン。
で、アンタの方は、どうなってるの?
もうすぐ、ククリの20歳の誕生日じゃない!
準備はできてるの、ほら……、あっちのほうの!」

 アナスタシアが好奇心いっぱいの瞳で聞いてくる。


 彼女は本当にあけすけな女性で、男の俺が口に出すのをはばかられるようなことも、ずけずけと発言してしまう。

 そんなところもあるから、誰にも相談できないククリへのこの欲望についても、アナスタシアには話すことができるのだが……。


 
「それが……、いざその時が近づいてくると、急に怖くなって……。
ククリは……、俺のことを嫌いにならないだろうか?
きっとククリは豹変した俺に怯えるだろう……、つらい思いはさせたくない。
でも、きっと痛がるだろうし、もちろん優しくするつもりだが、俺に怖がってしまった場合、どうしていいかわからなくなる。
20歳になったからといって、急に性的に成長できるわけでもないんだし。
だとしたらやはり、そういうことは段階を踏んだ方が……」


「はあっ!? 段階!?
今ここに来て、それを言う?」

 怖気づく俺に、アナスタシアの目が吊り上がる。


「そりゃ誰だって、最初は怖いでしょうよ! それは事前の知識があったとしても同じこと。
それなら、ククリの知識がないことを逆手にとって、先にドロドロのグズグズに溶かしてしまえばいいのよ」

「ドロドロの、グズグズに……」

 アナスタシアは本当に穢れなき乙女なのだろうか……?


「そう! アスラン、アンタがククリをアンタの色に染め上げるのよ!
そのためにはアスラン、アンタのほうに事前の勉強が必要になるわ!」

 言うとアナスタシアは、俺に一冊の本を押し付けてきた。


「これは……?」

「今、巷で大人気のラブロマンスよ。
箱入り娘の何も知らない貴族の令嬢が、5歳年上美男子の家庭教師に、勉強ではなく、いけないことを教え込まれちゃうって話!」

「……なぜ箱入り娘なのに、わざわざ年の近い男の家庭教師をつけるんだ? 間違いが起きてほしいと言っているようなものだろう?」

 俺の言葉に、アナスタシアは怖い顔をして凄んだ。


「だああーっ、そんな細かいことはどうでもいいのよ! これは物語なんだから!
それより、この物語のご令嬢、本当にすごいんだから!
まるでククリみたいに、何もしらない超奥手だったのに、その家庭教師に導かれて、あんなことや、こんなことや、ついには禁断の世界まで……! 最後なんか、すごいんだから!
もう自分からドレスを脱ぎ捨てて、家庭教師のタイで目隠しされて…‥‥その姿はまるで性奴隷……って、とにかく、これを参考に、アンタがククリを導いてあげなさいよ!
目くるめく、快楽の世界へ……」

「目くるめく……」

 俺はゴクリとつばを飲み込んだ……。




 ――その時、ククリとのことで頭がいっぱいだった俺は、全く気づいていなかった。


 その時、湖の遠い岸で当のククリが、小舟に乗る俺たちを見ていたことを!!









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