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第7話

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 そして……、

 まだ短かった髪にはつけ毛をつけて、見た目だけは完璧なレディとなった俺は、慣れないヒールの靴にふらつきながらアスランの前に現れたのだ。


 ーーちなみに、男の娘といっても下着は依然男物のまま、そして言葉遣いや立ち振舞いも女の子らしくするといったことは、俺の頭のなかからはすっかり抜け落ちていた。


 そう、俺は形から入る男だった!(そして中身は伴わない)


 しかし、相手はあのアスランである。



 段差などなにもないところにも関わらず、さっそく躓きそうになった俺に素早く近づくと、そっと手を取り優しくエスコートしてくれた。

 ーーその姿はまるで全世界の女の子憧れの白馬の騎士様そのもの!!



「大丈夫ですか、ククリ様」

「……うん、ありがとう」

 深い紫の瞳に見つめられ、思わずぽーっとなってしまった俺。


「危ないので気をつけてくださいね。……素敵なドレスですね」


 微笑むアスラン。


「!!!!!!!!」


 このとき俺は、アスランへの強烈な恋心をはっきりと自覚した!



 ーーだが、今になって俺は思う。あのときアスランが褒めたのは女装した俺などではなく、お母様が隣国からわざわざ取り寄せたというレースのあしらいが美しいドレスのことだったのだと!


 アスランは賢い男だ。

 あのとき、突然女装して現れた公爵令息の悪ガキに、自分がいったいどう対応すればいいのか、顔色一つ変えることなく、瞬時に悟ったのであろう。


 だが、愚かな俺は、またそこで勘違いした。




『もしかして、アスランも俺のこと……? やっぱりワンチャンイケる!!??』





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 アスランは、常に周りの期待に応えられる男だった。

 「男の娘」となった俺に対してどのようにたち振る舞えばいいのか、はじめから完璧に理解していたのだろう。



 俺の思惑通り、アスランは俺をそれからレディとして扱いはじめた。

 アナスタシアと一緒にいるときだって、もちろん俺が最優先!


 同じレディとしてなら、アナスタシアに比べて俺のほうが貴族として序列が上なのだから、作法として当たり前のことだったのだが、このことは俺の自尊心を大変満足させることとなった。


 そして、勘違いした俺の行動は更にエスカレート!

 勝手にライバル視したアナスタシアに対して、俺はしょっぱい嫌がらせを繰り出しはじめたのだ!!

 
 もちろん誰よりも侠気のあふれるアナスタシアが、俺のそんな陰湿で卑怯なやり口に黙っているはずはなかった。



「ククリ、見損なったわ! アンタとは絶交よっ!!」



 あっという間に俺を見限ったアナスタシアは、こう捨て台詞を残し、俺の前から去っていった。


 ーー永遠の絆を誓った友との別れ……。



 だが、完全に頭がお花畑になっていた俺は、もうアスランのことしか考えられなくなっていた。


 ーーそして……。




「お母様っ!! 俺、結婚したい人がいるんだっ!!!!」


 勢い余った俺は、現国王の愛娘であり、俺の母親であるエルミラにこう切り出していた。





 ーーこのことが、最愛のアスランを不幸のどん底に陥れる結果になるとは、まるで知らずに……。



 


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