上 下
44 / 81

第43話

しおりを挟む
耳を疑った。
 男二人が、ハンターの腕を取る。

「やめろーっ!」

 僕は必死でハンターに抱きついた。

「ハンターは、関係ないっ! 僕が、勝手に逃げた僕が悪かったんだ。折るなら僕の腕を折ればいいだろ!」

 オスカーはあきれたように、小さく息をついた。

「美しい愛情ですね。とても感動しました。ですが、ルイ様の腕を折るわけにはいきません。これは、いわば罰なのですよ。このワード君と、あなたへの……」

「キース、俺なら大丈夫だ。腕や脚の一本や二本、折られたくらいで痛くもかゆくもないぜ」
 ハンターが僕に小さく笑ってみせる。

「駄目だっ、絶対に駄目だっ。そんなのっ、剣が握れなくなるっ」

 自分のせいで、ハンターの身体に傷をつけるのは我慢ならない。
騎士を目指しているハンターの夢を、絶対に奪いたくない。


「ルイ様……、駄々をこねるのはおやめください。元はといえば、ワード君のことをいつまでも忘れられなかったあなたが招いた結果なのですよ」
 オスカーはかがみ込むと、僕の頬を撫でた。

「駄目だ……、絶対……、ハンターを傷つけるなんて、許さない」
 僕はさせまいと、ハンターの身体をしっかりと抱き寄せる。

「困りましたね。でも、このままだと示しがつきません。それに、ここで許してしまうと、あなたはまた、ワード君に会いにこようとするでしょう?」

「もう、会わない!! 絶対、約束する、約束するからっ!」

「困りました……。私も、ルイ様にはつい甘くなってしまう」

 オスカーの言葉に、ほっとしたのもつかの間、次のせりふに、僕は凍り付いた。


「それでは、ルイ様自ら証明していただきましょう。もう、ワード君には何の未練もないということを……」

「え……」

「こいつを縛り付けたら、お前達は表に出ていろ」

「はい」
 オスカーが指示を出すと、男二人はハンターを柱に縛り付け、部屋から出て行った。

「お前……、何をするつもりだ……」
 黒い上着を脱いだオスカーに、ハンターが問いかける。

「簡単なことですよ。さあ、ルイ様。ベッドへ上がってください。
いつも私たちがしていることを、ワード君に見せてあげましょう。
あなたが、誰のものかということを、彼にわからせてあげるのです」


 ――こんなことが、あっていいのか。


「さあ、どうしますか? 嫌なら、ワード君の手足を折るまでのことです。どちらがお好みか、ルイ様が選んでください。
私は、……どちらでも構いませんよ?」
 
 僕がどちらを選ぶかをわかっていて、それをあざ笑うかのような問い。
 その美しい顔には、残酷な微笑みを浮かべている。


逃げられないことをわかっていて、わざとじっくりとなぶり殺していく。
オスカーは、――悪魔だ。


「やめろーっ!」
 ハンターの叫び声。

 でも、僕にはほかに選ぶ道がない。
 僕はオスカーの前に立った。

「自分で、脱いでください……」

 熱を帯びた表情に変わったオスカーが、僕を抱き寄せ、耳元で言う。
 ガウンの帯に手をかけると、涙が頬を伝った。

「なぜ、泣くんです? あなたが選んだことでしょう?
大丈夫、いつもよりずっと、優しく抱いてあげます」

「うっ、ううっ……」

「やめろっ、キースっ、そんなことするな、やめろーっ!」

「ごめんね……、ハンター……」

 僕のせいで、巻き込んでしまった。
 責任をとらなければいけないのは……、僕だ。


 ガウンが床に落ちる。

「あなたは、本当に美しい……」


 僕の身体を見て、オスカーは満足げに微笑んだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うまい話には裏がある~契約結婚サバイバル~

犬飼春野
恋愛
ナタリアは20歳。ダドリー伯爵家の三女、七人兄弟の真ん中だ。 彼女の家はレーニエ王国の西の辺境で度重なる天災により領地経営に行き詰っていた。 貴族令嬢の婚期ラストを迎えたナタリアに、突然縁談が舞い込む。 それは大公の末息子で美形で有名な、ローレンス・ウェズリー侯爵27歳との婚姻。 借金の一括返済と資金援助を行う代わりに、早急に嫁いでほしいと求婚された。 ありえないほどの好条件。 対してナタリアはこってり日焼けした地味顔細マッチョ。 誰が見ても胡散臭すぎる。 「・・・なんか、うますぎる」 断れないまま嫁いでみてようやく知る真実。 「なるほど?」 辺境で育ちは打たれ強かった。 たとえ、命の危険が待ちうけていようとも。 逞しさを武器に突き進むナタリアは、果たしてしあわせにたどり着けるのか? 契約結婚サバイバル。 逆ハーレムで激甘恋愛を目指します。 最初にURL連携にて公開していましたが、直接入力したほうが読みやすいかと思ったのであげなおしました。 『小説家になろう』にて「群乃青」名義で連載中のものを外部URLリンクを利用して公開します。 また、『犬飼ハルノ』名義のエブリスタ、pixiv、HPにも公開中。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

お前が結婚した日、俺も結婚した。

jun
BL
十年付き合った慎吾に、「子供が出来た」と告げられた俺は、翌日同棲していたマンションを出た。 新しい引っ越し先を見つける為に入った不動産屋は、やたらとフレンドリー。 年下の直人、中学の同級生で妻となった志帆、そして別れた恋人の慎吾と妻の美咲、絡まりまくった糸を解すことは出来るのか。そして本田 蓮こと俺が最後に選んだのは・・・。 *現代日本のようでも架空の世界のお話しです。気になる箇所が多々あると思いますが、さら〜っと読んで頂けると有り難いです。 *初回2話、本編書き終わるまでは1日1話、10時投稿となります。

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

処理中です...