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第二章
7-1 リヒトの後悔
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───リヒト視点───
事後処理に追われて寝れていないが、今は眠る気にもなれない。
今日もウィリアムが騎士に無茶な命令をしていたと報告が上がっている。
曲がりなりにも王太子を狙っているのであれば、もう少し言動に気をつけて欲しいものだ。
オレリアが火消しに走り回っているとも聞いたので、多少は溜飲も下がったが…。
───コンコン。
「──失礼致します。シュトラウス様、指定されたものを購入してきました。しかし…本当に大会の賞金で購入して良かったのですか?」
側近は買ってきてくれたアイテムを机に並べてくれる。
名前からはある程度予想はしていてたが…
あまり見た目の良くないものまで混じっているので、正直、そのまま棚に収納してもらいたい。
「あぁ、手間をかけたな。今は身軽に動けないから助かった。いいんだ、もとよりそのつもりでかき集めたものだったからな…」
「いえ、私の仕事ですので。しかし…まさかシュトラウス様がこれらのクエストに行かれる訳ではありませんよね?」
「…この使い道をよく知っていたな」
「いや、クエストに行く人からしてみれば常識ですよ?Sランククエストは報酬がばか高いので事前投資はクリアさえ出来れば十分取り戻せることは分かっていますが…それでもクエスト解放のエサがこの価格では誰も手を出せませんよ。まぁ、それがSランククエストと云われる所以ですよね」
「そうだな…これを使う日が来ればいいが…」
「………?」
側近が退室して、再び執務室に静寂が訪れる。
一人になると、もう何度も繰り返し考えている。
あの時のことを…。
──掴めなかった。
「……クローディア…っ…」
掴めなかった…彼女の手を。
目の前にいたのに。
…直前に見たクライヴの腕の所為だろう。
その一瞬の躊躇いが、彼女を行かせてしまった。
私は最後に見たクローディアの瞳が忘れられずにいた───。
「───さようなら、クライヴ…」
必死に意識を保とうと踏ん張るクライヴのトドメを刺そうと掌をかざすクローディアの姿を見て思わず振り向いた。
「──障壁を最強硬度にしろ!!」
叫んだ直後に、けたたましい爆発音が闘技場に響き渡り…
急いで駆け寄り舞台上の砂埃は晴れた頃には、血まみれで倒れているクライヴを見下ろすクローディアだけが立っていた。
「……クローディア…?」
ピクリと肩を揺らして振り向いたクローディアの瞳は、濁りが薄れ、淡く揺らいでいた。
あの時。
たしかに…クローディアはあそこにいた。
あれほど大切にしていた友人を命の危険に晒し…
あれほど愛していた兄をその手で亡きものにしようとした。
その時のクローディアに意志があったのかは分からないが…
あの瞳は確かに私に助けを求めていたのだ。
「クローディア!っ──行くな……!」
彼女の声なき悲鳴に咄嗟に伸ばした私の手は、クローディアに触れる前に止まってしまった。
チリっと肌を走る刺激に…触れれば焼かれると防衛本能が働いた。
その一瞬の間に、クローディアは私の前からいなくなってしまった。
私だけが、止められたはずなのに…。
すぐに治癒術士を闘技場に招集させた。
驚くべきことに…
同じ舞台上にいたエドワードは爆発の影響を受けていなかった。
そして…
その代わりに発見されたのが、舞台から少し離れたガレキの山に倒れていたマリアンヌ嬢だった。
爆発の熱風で吹き飛ばされたようだ。
彼女がエドワードに障壁を張っているのは気づいていたのに、そこまで気が回らなかった。
私は王族を守ることを優先した。
なんの情も持っていないと長年、腹の中では見下し嘲笑してきたというのに…。
所詮は私も、一臣下としての生き方を変えることはできないということだろう。
私はクローディアが大切にしていたものを何一つ守れず…最後にはあの子をみすみす敵の手へ渡してしまった。
「ただの無能だな…」
ひとりでに嘲笑がこぼれた。
三人が目覚めたという知らせはまだない。
クローディアの居場所も掴めず…
観戦者からは説明を求める声が多くなるばかり。
なんの被害もなかったヤツらがここぞとばかりに付け入ろうとする姿に反吐が出る。
まぁ、説明出来るほど私も把握していないので今のところは無視しているが。
比較的軽傷だったマリアンヌが一刻も早く目覚めてくれることを願うばかりだ。
側近からの報告では、アグニはクライヴの傍から一歩も動いていないらしい。
そんなアグニも心配ではあるが、オーウェン家も各所への対応で追われていると聞いている。
家族が誰も見舞えないのならば、せめてアグニだけはクライヴの傍にいて欲しいと思ってしまう。
私もずっと貼り付くわけにはいかないが、闇の脅威が消えたわけではないのだ。
やるべき事はまだまだある。
これもそのひとつ。
こんなものはあの子たちにとっておもちゃにしかならないだろうが…
それでも、手元に置けばイタズラ好きのあの子たちが喜んで起きてくるのではないかと思えてくる。
そもそも、約束を果たさないまま彼女が戻ってきたら、開口一番に叱られるのは目に見えてる。
──だから、クライヴ。
頼むから、早く目覚めてくれ。
君がいないと、私はクローディアに叱られてしまうのだから…。
事後処理に追われて寝れていないが、今は眠る気にもなれない。
今日もウィリアムが騎士に無茶な命令をしていたと報告が上がっている。
曲がりなりにも王太子を狙っているのであれば、もう少し言動に気をつけて欲しいものだ。
オレリアが火消しに走り回っているとも聞いたので、多少は溜飲も下がったが…。
───コンコン。
「──失礼致します。シュトラウス様、指定されたものを購入してきました。しかし…本当に大会の賞金で購入して良かったのですか?」
側近は買ってきてくれたアイテムを机に並べてくれる。
名前からはある程度予想はしていてたが…
あまり見た目の良くないものまで混じっているので、正直、そのまま棚に収納してもらいたい。
「あぁ、手間をかけたな。今は身軽に動けないから助かった。いいんだ、もとよりそのつもりでかき集めたものだったからな…」
「いえ、私の仕事ですので。しかし…まさかシュトラウス様がこれらのクエストに行かれる訳ではありませんよね?」
「…この使い道をよく知っていたな」
「いや、クエストに行く人からしてみれば常識ですよ?Sランククエストは報酬がばか高いので事前投資はクリアさえ出来れば十分取り戻せることは分かっていますが…それでもクエスト解放のエサがこの価格では誰も手を出せませんよ。まぁ、それがSランククエストと云われる所以ですよね」
「そうだな…これを使う日が来ればいいが…」
「………?」
側近が退室して、再び執務室に静寂が訪れる。
一人になると、もう何度も繰り返し考えている。
あの時のことを…。
──掴めなかった。
「……クローディア…っ…」
掴めなかった…彼女の手を。
目の前にいたのに。
…直前に見たクライヴの腕の所為だろう。
その一瞬の躊躇いが、彼女を行かせてしまった。
私は最後に見たクローディアの瞳が忘れられずにいた───。
「───さようなら、クライヴ…」
必死に意識を保とうと踏ん張るクライヴのトドメを刺そうと掌をかざすクローディアの姿を見て思わず振り向いた。
「──障壁を最強硬度にしろ!!」
叫んだ直後に、けたたましい爆発音が闘技場に響き渡り…
急いで駆け寄り舞台上の砂埃は晴れた頃には、血まみれで倒れているクライヴを見下ろすクローディアだけが立っていた。
「……クローディア…?」
ピクリと肩を揺らして振り向いたクローディアの瞳は、濁りが薄れ、淡く揺らいでいた。
あの時。
たしかに…クローディアはあそこにいた。
あれほど大切にしていた友人を命の危険に晒し…
あれほど愛していた兄をその手で亡きものにしようとした。
その時のクローディアに意志があったのかは分からないが…
あの瞳は確かに私に助けを求めていたのだ。
「クローディア!っ──行くな……!」
彼女の声なき悲鳴に咄嗟に伸ばした私の手は、クローディアに触れる前に止まってしまった。
チリっと肌を走る刺激に…触れれば焼かれると防衛本能が働いた。
その一瞬の間に、クローディアは私の前からいなくなってしまった。
私だけが、止められたはずなのに…。
すぐに治癒術士を闘技場に招集させた。
驚くべきことに…
同じ舞台上にいたエドワードは爆発の影響を受けていなかった。
そして…
その代わりに発見されたのが、舞台から少し離れたガレキの山に倒れていたマリアンヌ嬢だった。
爆発の熱風で吹き飛ばされたようだ。
彼女がエドワードに障壁を張っているのは気づいていたのに、そこまで気が回らなかった。
私は王族を守ることを優先した。
なんの情も持っていないと長年、腹の中では見下し嘲笑してきたというのに…。
所詮は私も、一臣下としての生き方を変えることはできないということだろう。
私はクローディアが大切にしていたものを何一つ守れず…最後にはあの子をみすみす敵の手へ渡してしまった。
「ただの無能だな…」
ひとりでに嘲笑がこぼれた。
三人が目覚めたという知らせはまだない。
クローディアの居場所も掴めず…
観戦者からは説明を求める声が多くなるばかり。
なんの被害もなかったヤツらがここぞとばかりに付け入ろうとする姿に反吐が出る。
まぁ、説明出来るほど私も把握していないので今のところは無視しているが。
比較的軽傷だったマリアンヌが一刻も早く目覚めてくれることを願うばかりだ。
側近からの報告では、アグニはクライヴの傍から一歩も動いていないらしい。
そんなアグニも心配ではあるが、オーウェン家も各所への対応で追われていると聞いている。
家族が誰も見舞えないのならば、せめてアグニだけはクライヴの傍にいて欲しいと思ってしまう。
私もずっと貼り付くわけにはいかないが、闇の脅威が消えたわけではないのだ。
やるべき事はまだまだある。
これもそのひとつ。
こんなものはあの子たちにとっておもちゃにしかならないだろうが…
それでも、手元に置けばイタズラ好きのあの子たちが喜んで起きてくるのではないかと思えてくる。
そもそも、約束を果たさないまま彼女が戻ってきたら、開口一番に叱られるのは目に見えてる。
──だから、クライヴ。
頼むから、早く目覚めてくれ。
君がいないと、私はクローディアに叱られてしまうのだから…。
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