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第二章

9-1 クライヴの目覚めと反撃準備

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「…………」

──全身が痛い…。

目が覚めてまず思ったのはそれだった。

懐かしい起こされ方をされた僕は、ケガのせいでベッドから動くことが出来ないようだった。

得意顔のオファニエル様が見下ろしているし、アグニは号泣しているし、多分エドワードもいる。
…見えないけど。

「ここは…?」
「病院だ。手酷くやられたな。顔も包帯だらけだぞ?」
「……オファニエル様は、どうしてこんな所に?」
「そなたを助けて欲しいとアグニに懇願されてな?…ワガママな娘を持つ父親は大変だな~」
「っ、ぅ───!!」

やれやれといった風に言うオファニエルがおかしくて、僕は笑おうとして激痛に悶えた。

「何しているんだ。さっさと治癒魔法をかければいいではないか?」
「いや…せっかくですから、オファニエル様がしてくれてもいいじゃないですか」

ケガ人が自分で治癒させてはなんだか締まらない気がする。絵面的に。

「はぁ?精霊王の加護というオプションが更に増えるからダメに決まってるだろ?」

真面目な顔で返されてしまった。
決まっていたのか。



それからは大変だった。
僕は自分がどれほどボロボロにされたのかを確認しながら治癒魔法をかけた。

僕が扱う治癒魔法は、前世でよくある《ヒール》とかで切れた手足でさえ生やしたり出来る万能魔法ではない。
術者がどのように治癒をさせたいかが一番重要なのだ。 

なので、僕は自分が正しくどのような状態なのか、アグニにカルテを読み上げてもらい、骨折やら火傷やら確認しながら全身に治癒魔法を施すことになってしまった。

ちなみに一番酷かったのが右手だったようで危うく医師に切断される所だったらしい。
切断されたらもう治せないのだ。
全力で拒否してくれたアグニには感謝しなくては。

「そう言えば、オファニエル様が助けてくれたのは分かりましたが、何故あの起こし方なのですか?6年前も同じことしてませんでした?」
「あ?そなたの頭の中に巣食っている闇を取り除いてやったのが、何が不服なのだ?」

それは初耳だ。

「それは…ありがとうございました。でも、あれ殺されそうなイメージなんですけど…例えばクローディアみたいなカッコイイ魔法とかで出来ないのでしょうか?」

こんな体験は二度とないと思いたいが、精霊王の沽券に関わる重要な案件だ。
他の二人も頷いてくれるのだから、僕の考えは間違っていないだろう。

「何故だ?この魔法が一番面白いではないか」
「「………」」

え?…そんな理由?


それからケガが治ると同時にアグニに泣きつかれ、彼女を宥めるのはめちゃくちゃ大変だった。

ちなみにずっと伸ばしていた髪は爆発で燃えてしまったらしい。
も治せて良かった…。
もう伸ばす必要はないので、髪は肩のところで整えて貰うだけでそのままにするつもりだ。

治癒魔法最高!

次にエドワードを治癒しながら、あれから何があったのかを聞いて情報を整理していたのだが…
最後の爆破に巻き込まれたマリアンヌが重症だと聞かされ慌てて駆けつけたのだ。



「医師の話では、頭を強く打ちつけた時の衝撃で失明しているかもしれないと…」
「なるほど……正直、クローディアなら完璧に治せると思うんだけど…ちょっと自信ないかも…」
「──な!難しいのか?!」
「治癒魔法も回復魔法も使い手の知識だったり、イメージだったりに左右されやすいんだ。僕が下手に見えるようになんてアバウトな治癒魔法をかけるより、クローディアが戻るのを待つのも選択肢の一つだと思うけど…」
「だが、それでは…」

いつになるか分からないではないか…という言葉を必死で飲み込んだ。

「………」
「エドワード様、良いのです。治せるかもしれない、それだけで今は充分ですわ。他の火傷は全て治していただけたのですもの。クライヴ様もひどいケガをされて目覚めたばかりなのですから、あまり無茶をさせてはいけませんよ?」

正直、オファニエル様が治してくれないかな?という願望はある。
だが、先程加護を与えてしまうと言っていたのだから、それをお願いすることは出来ないだろう。

「なんだ、クライヴ。お前知らなかったのか?」
「…なにがでしょう?」
「クローディアの強さだ」
「………身をもって知りましたけど?」

え?嫌味を言われているのだろうか…?

「そうでは無い。クローディアがあれ程魔術に長けている理由はそなたのおかげだと聞いたぞ?」
「…え?僕ですか?」
「そうだ。そなたから聞かされた前世の話は、この世界の固定観念を捨てるいいきっかけになったとかなんとか…?」
「「………あ!!」」

ついマリアンヌと声が被ってしまう。

「そう言われてみればそうですわね!」
「うわぁ、目からウロコって言うんだっけ?!僕とマリアンヌが全く気づいていなかったのもどうかとは思うけど…クローディアの思考の柔軟さはそこだったのかぁ!」
「つまり…魔法は術者のイメージというのは全ての魔法に通じているのですわ!!」

同意するように力強く頷く。
僕が幼い頃、クローディアに前世の話をあれこれしてしまったことが原因だったわけで。

「つまりは治癒魔法はこういうものという固定概念が威力を狭めていた?」
「…重要なのは治せると言う明確なイメージを持つことでしたのね」
「マリアンヌ…僕が、治癒魔法をかけても大丈夫?」
「………」

エドワードの辛そうな顔も、今のマリアンヌには見えない。
でも、エドワードの想いは伝わっているはずだ。

「──よろしくお願い致します!」
「分かった!……ヒール!」

やはり僕の中でヒールは回復魔法の最強だと思っている。
なんてったって、手足が生えるほどの奇跡を起こしてくれるのだから。
つぎは、エリアヒールでも試してみようと心に決めた。



アグニが丁寧にマリアンヌの包帯を外してくれる。
エドワードはマリアンヌの真ん前に陣取って目が開くのを待っていた。

「──エドワード様…!」
「…………マリアンヌ…っ!!」

マリアンヌの目はしっかりとエドワードを捉えていた。
良かった、本当に。
クローディアには感謝しかない。

…早く取り戻さなきゃ。


抱き合う二人を羨ましそうに見ていてるアグニを僕はそっと抱き寄せた。

「っ───?!」
「アグニも…ありがとう。オファニエル様と喧嘩したって聞いた」
「ううん、クライヴが…無事で良かった…」

甘えるようにアグニにぎゅっと抱きつかれる。

初めてアグニを見た時、見窄らしい男の子に見えた。
…まさにゲームのゴードン・アグニの過去の姿だった。

それが今やこんなにも可愛らしい女の子になってしまった。
抱きしめる腕につい力が籠る。

「「………」」

周りの視線に今更気付いて…僕は両手を上げて肩を竦めた。
…いたたまれない!!




結局マリアンヌも寝間着のままなので、僕らはそのまま作戦会議をすることにした。
第一、今は夜中なのだ。

ちなみにここの病室は、オファニエルが結界を張ってくれているのでどんなに騒いでも問題ない。
…ついさっき知ったことだけど。

「思ったんだけど、僕も転移とか使えるんじゃない?これ」
「しかし、転移のイメージは難しいですね。前世でもゲームや物語上にしかないものでしたし…」
「確かに…僕としては、《どこでもドア》とか、とかのがイメージしやすいかも」
「ふふっ、それはそれで面白いのですけどね?」
「クローディアの人を座標にするやつなんて、クローディアに直接指導してもらわないと分からないけどね?」
「まぁ…あれは……」

マリアンヌが苦笑している。

「いや意外と簡単だぞ?俺も教えてもらったしな」
「え…?クローディアがオファニエル様に魔法教えるってどういう状況ですか?!」
「あれは…二年前だったか?クライヴが成長しないようにするにはどうしたらいいかと聞かれたことがあったのだ」

…え?何その話。

「聞けばクライヴが毎日身体を鍛えているというから、回復魔法で切れた筋繊維や、体力を回復して身体をリセットさせてやればいいんじゃないか?と教えてやったのだ。そのお礼がさっきの転移魔法なのだがな?」
「───はあ?!」

そんな話は聞いていない!
え…じゃあ僕のあの地獄の日々って一体…?

ふと、視線を感じて見てみるとエドワードと目が合った。

「………」

…無言で頷かれた。

(嬉しいのは分かるけど、もうちょっと自重して貰えませんかね?!くっつき過ぎで目のやり場に困るんだよ!このバカップルめ!!)

決して口には出せないが、僕は心の中で八つ当たりした。



「…となると、問題は魔力量と属性値だな」

アグニに転移についてのイメージをレクチャーしてもらっていると特大の爆弾が投下された。

「「………」」

オファニエルに言葉に賑やかだった病室がピタリと静かになる。

…確かに。
こればかりは転生チートでもどうにもならない気がする。



「クライヴ様、アシェブレのタイトルで虹の花束を貴方へとなぜついているか知っていらっしゃいますか?」
「…あーうん、だよね?」

虹の花束とは国宝のことだ。
それを課金で買うのかといったらそんな単純なものではない。
何故ならアシェブレが鬼畜仕様だからだ。

Sランクのクエストを攻略することで貰える報酬をかけ合わせて錬成が出来る。
そのクエストの解放の為に課金が必要になるわけだ。
最悪なのはこの錬成…主人公のレベル次第で失敗もある。

恐ろしい…。

「では虹の花束の効果をご存知ですか?」
「確か…攻略対象の恋愛パラメーターをMAXにするか、プレイヤーのレベルとパラメーターをMAXにするか、新ルート解放が選べたんだっけ?…前世の妹にせびられたけど、あれは重課金用だろ…」

思わず苦い顔をしてしまう。
レベルだったりパラメータ次第で全揃えしなくてもクリア出来ることもあるが、全揃えしようとすると軽く10万は越すのだ。

一学生にぽんっと出せる金額ではない。

「そもそも、この世界で課金も無いだろ?」
「あら、売ってますのよ?クエスト解放の必要アイテムならば」
「………え?」
「どこに?」
「ゲームと同じく雑貨屋さんですわ」
「………え?」

…マジか。

「しかし、いくらか分からんが、そんなに大金は用意できないぞ?」

さっきまで黙って話を聞いていたエドワードが突然入ってきてビビってしまう。

(いや、大丈夫だとはわかってはいるんだけど…)

まぁ、そもそもここにはオファニエルとアグニもいるのだ。
今更すぎる。

「お金ならあるじゃないですか?」
「「どこに…?」」

突拍子もないマリアンヌの言葉に僕とエドワードが首を傾げる。
貴族だからといって好きに金が使える訳では無いのだ。
親に頼むにしても金額は限られてくるし、各家の当主が手放しで大金を貸してくれるとは思えない。

「ですから、今ならば…大武闘大会の賞金をリヒト様が管理されているでしょう?エドワード様とクローディア様、クライヴ様は準決勝までは確定しているのですから、優勝賞金とまではいかなくても、かなりの額を貰えると思いますわ?」
「「───!!」」



──リヒト大先生!!


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