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第一章
1-1 ウィリアム殿下
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「…やっぱり、おかしい……絶対…こんなのおかしいよ…」
「ふふ、緊張してるのかい?大丈夫、私の妹は世界一可愛いよ?」
唇は緩やかな弧を描き表情を抑えているが、カレの碧い瞳には、歳に似つかわしくない愉悦の光が灯っている。
藍色のリボンで一つにまとめられた亜麻色の髪をゆるく肩に流し、堂々と隣に立つカレ。
「クローディア、さぁいこうか…?」
侍女が時間をかけて編み込んでくれ、美しく結い上げられた亜麻色の頭をひと撫でしてきたかと思えば、カレは左手をそっと差し出してきた。
(…あぁ、どうしてこうなってしまったんだろう…)
微かに震える手は、それでも差し出されたカレの手を掴み…
カレにそっと持ち上げて、歩くよう促される。
閉じていた瞼を開き、覚悟を決める…。
空いてる左手はフリルをふんだんにあしらわれた薄桃色のスカートを掴み、先を行く右手に引かれるままに一歩踏み出す。
───ギギィ…。
「………っ!!」
ゆっくりと、厳かに開かれる重厚な扉。
途端、開いた隙間からは広いホールを照らす眩いシャンデリアの光が飛び込んできた。
夫人や令嬢が纏う色とりどりのドレス、流れる洗練された合奏団の演奏、賑やかな男女の笑い声も届いてくる。
…あぁ、もう戻れない。
〇〇にとっての正しく『 地獄のパーティ』の始まりだった───。
「あら、可愛らしいこと」
「オーウェン伯爵家のクローディア様とクライヴ様だったかしら」
「まぁ…聞いていた通り、本当によく似てらっしゃるのね」
「でも、やはり男の子ですね、クライヴ様は少し凛々しく見えますもの」
カレとは双子ということもあり、社交界での話題性は抜群なようで…
カレにエスコートされながらパーティ会場を歩けば、周囲の視線を一身に浴びることとなった。
一卵性の双子な為、同じ髪色、同じ容姿に加え、成長途中の今は身長もほぼ変わらない。
衣装の違いがなければ、両親ですら見分けるのは困難だと言っていた。
「ほらね?言った通りだろ?今日のクローディアは本当に可愛らしいって。安心したかい?」
囁くように声をかけてくるのは隣を歩くカレ。
愉しそうに目を細めている。
「……えぇ、お兄様…安心致しましたわ…」
取り繕った笑顔が崩れないよう…
そしてカレと目が合わないよう、必死に視線を逸らす。
「さぁ、クローディア。兄である僕と…ファーストダンスを踊ってくれるかい?」
「…もちろんですわ、お兄様」
唇を釣り上げ微笑むカレに、鼻先を見つめながらも微笑み返した。
幼少より家庭教師に叩き込まれた紳士、淑女の礼からダンスは始まる。
ずっと二人でダンスの練習をしてきた。
最も相手を知っており、それはカレにもそう言える。
カレこそ最良のパートナーといえるだろう。
でも…
気心知れているはずなのに、今日のダンスはちっとも楽しくない。
合わせようとしなくても勝手に身体が覚えているので、ほかの誰と踊るより気楽なはずなのに…。
理由はわかってる。
「疲れたかい?ディアは少し休んでいるといい。僕は少し挨拶をしてこないといけないからね」
当初の予定通り…カレは自分一人残して行く腹づもりらしい。
たった一曲ワルツを踊っただけで疲れるはずがない。
でもここでカレを引き止めてはいけない。
もちろん分かってる。
「ふふっ…そうね、お兄様は楽しんできて」
「あぁ、くれぐれも…変な虫が付かないよう注意するんだよ?ディア」
軽やなウィンクと意地悪な笑みを浮かべたかと思えば、さっさと人混みを避けながら移動し、カレの姿はあっという間に見えなくなってしまった。
「はぁ…」
思わず肩から力が抜けてしまう。
飲み物をもらったらテーブルの方にでも移動するかな…。
身体は疲れていないが、精神的な疲労なら邸を出る前から感じている。
第一希望としてならこのまま、邸まで…いや、むしろ領地までとって帰りたいくらいだ。
その時だった。
会場が一気にざわめく。
みんなの視線はパーティ会場入口。
…螺旋階段の上にある扉だ。
王族のみが出入りを許される扉。
そこから現れた人物は、この国の第二王子『ウィリアム・ルイ・アレキサンダー』だった。
「見て!ウィリアム殿下だわ!」
「素敵!!…でも、今日は婚約者のスカーレット様としか踊られないのでしょうねぇ」
「わたくしだって、もう少し位が高ければ…」
近くの令嬢たちから聞こえる嘆息。
彼女たちが噂しているのは、ウィリアム王子が今まさにエスコートしている『スカーレット・マナ・ハーヴェスト』公爵令嬢だ。
国政には無慈悲なあの冷血宰相が盲目的に溺愛しているらしく、唯一の愛娘であるスカーレットが望んだ為、この婚約が決まったという噂まである。
様々な羨望の眼差しを一身に受けながら階段を降りてきた二人が、メインホールの中心に着いたタイミングで、演奏が終わる。
そして、二人の為の演奏…
主賓二人のダンスの時間が始まった。
そう、この夜会はウィリアム王子の婚約発表の為に開催された、王家主催のパーティなのだ。
「見たところ、お互いを尊重し合う素敵なカップルなのよねぇ…」
ホールの中心で踊る二人を眺めながら小さく零す。
幼いながらも高位の貴族らしく、文句のつけようのない品格のある素晴らしいダンスだ。
当然ながら、ここには公爵から男爵まで年季の入ったたぬき爺も含めて揃い踏みしている。
その全ての視線を一身に浴びながらのダンスなど、自分に置き換えて考えても悪夢でしかない。
とはいえ、普段は口さがない周りの貴族たちも愛らしい二人の姿に微笑んでおり、比較的空気は柔らかいと思う。
このフロアのどこかで見ているであろうカレは、二人のダンスをどう思っているのだろうか。
「……はぁ…」
今更考えても無駄なことだ…。
丁度通りがかったウェイターからシャンパンが注がれたグラスを一つ受け取ると、当初の予定どおり、王宮の美しい庭園が一望できる2階のバルコニーへと向かうことにした。
「ふふ、緊張してるのかい?大丈夫、私の妹は世界一可愛いよ?」
唇は緩やかな弧を描き表情を抑えているが、カレの碧い瞳には、歳に似つかわしくない愉悦の光が灯っている。
藍色のリボンで一つにまとめられた亜麻色の髪をゆるく肩に流し、堂々と隣に立つカレ。
「クローディア、さぁいこうか…?」
侍女が時間をかけて編み込んでくれ、美しく結い上げられた亜麻色の頭をひと撫でしてきたかと思えば、カレは左手をそっと差し出してきた。
(…あぁ、どうしてこうなってしまったんだろう…)
微かに震える手は、それでも差し出されたカレの手を掴み…
カレにそっと持ち上げて、歩くよう促される。
閉じていた瞼を開き、覚悟を決める…。
空いてる左手はフリルをふんだんにあしらわれた薄桃色のスカートを掴み、先を行く右手に引かれるままに一歩踏み出す。
───ギギィ…。
「………っ!!」
ゆっくりと、厳かに開かれる重厚な扉。
途端、開いた隙間からは広いホールを照らす眩いシャンデリアの光が飛び込んできた。
夫人や令嬢が纏う色とりどりのドレス、流れる洗練された合奏団の演奏、賑やかな男女の笑い声も届いてくる。
…あぁ、もう戻れない。
〇〇にとっての正しく『 地獄のパーティ』の始まりだった───。
「あら、可愛らしいこと」
「オーウェン伯爵家のクローディア様とクライヴ様だったかしら」
「まぁ…聞いていた通り、本当によく似てらっしゃるのね」
「でも、やはり男の子ですね、クライヴ様は少し凛々しく見えますもの」
カレとは双子ということもあり、社交界での話題性は抜群なようで…
カレにエスコートされながらパーティ会場を歩けば、周囲の視線を一身に浴びることとなった。
一卵性の双子な為、同じ髪色、同じ容姿に加え、成長途中の今は身長もほぼ変わらない。
衣装の違いがなければ、両親ですら見分けるのは困難だと言っていた。
「ほらね?言った通りだろ?今日のクローディアは本当に可愛らしいって。安心したかい?」
囁くように声をかけてくるのは隣を歩くカレ。
愉しそうに目を細めている。
「……えぇ、お兄様…安心致しましたわ…」
取り繕った笑顔が崩れないよう…
そしてカレと目が合わないよう、必死に視線を逸らす。
「さぁ、クローディア。兄である僕と…ファーストダンスを踊ってくれるかい?」
「…もちろんですわ、お兄様」
唇を釣り上げ微笑むカレに、鼻先を見つめながらも微笑み返した。
幼少より家庭教師に叩き込まれた紳士、淑女の礼からダンスは始まる。
ずっと二人でダンスの練習をしてきた。
最も相手を知っており、それはカレにもそう言える。
カレこそ最良のパートナーといえるだろう。
でも…
気心知れているはずなのに、今日のダンスはちっとも楽しくない。
合わせようとしなくても勝手に身体が覚えているので、ほかの誰と踊るより気楽なはずなのに…。
理由はわかってる。
「疲れたかい?ディアは少し休んでいるといい。僕は少し挨拶をしてこないといけないからね」
当初の予定通り…カレは自分一人残して行く腹づもりらしい。
たった一曲ワルツを踊っただけで疲れるはずがない。
でもここでカレを引き止めてはいけない。
もちろん分かってる。
「ふふっ…そうね、お兄様は楽しんできて」
「あぁ、くれぐれも…変な虫が付かないよう注意するんだよ?ディア」
軽やなウィンクと意地悪な笑みを浮かべたかと思えば、さっさと人混みを避けながら移動し、カレの姿はあっという間に見えなくなってしまった。
「はぁ…」
思わず肩から力が抜けてしまう。
飲み物をもらったらテーブルの方にでも移動するかな…。
身体は疲れていないが、精神的な疲労なら邸を出る前から感じている。
第一希望としてならこのまま、邸まで…いや、むしろ領地までとって帰りたいくらいだ。
その時だった。
会場が一気にざわめく。
みんなの視線はパーティ会場入口。
…螺旋階段の上にある扉だ。
王族のみが出入りを許される扉。
そこから現れた人物は、この国の第二王子『ウィリアム・ルイ・アレキサンダー』だった。
「見て!ウィリアム殿下だわ!」
「素敵!!…でも、今日は婚約者のスカーレット様としか踊られないのでしょうねぇ」
「わたくしだって、もう少し位が高ければ…」
近くの令嬢たちから聞こえる嘆息。
彼女たちが噂しているのは、ウィリアム王子が今まさにエスコートしている『スカーレット・マナ・ハーヴェスト』公爵令嬢だ。
国政には無慈悲なあの冷血宰相が盲目的に溺愛しているらしく、唯一の愛娘であるスカーレットが望んだ為、この婚約が決まったという噂まである。
様々な羨望の眼差しを一身に受けながら階段を降りてきた二人が、メインホールの中心に着いたタイミングで、演奏が終わる。
そして、二人の為の演奏…
主賓二人のダンスの時間が始まった。
そう、この夜会はウィリアム王子の婚約発表の為に開催された、王家主催のパーティなのだ。
「見たところ、お互いを尊重し合う素敵なカップルなのよねぇ…」
ホールの中心で踊る二人を眺めながら小さく零す。
幼いながらも高位の貴族らしく、文句のつけようのない品格のある素晴らしいダンスだ。
当然ながら、ここには公爵から男爵まで年季の入ったたぬき爺も含めて揃い踏みしている。
その全ての視線を一身に浴びながらのダンスなど、自分に置き換えて考えても悪夢でしかない。
とはいえ、普段は口さがない周りの貴族たちも愛らしい二人の姿に微笑んでおり、比較的空気は柔らかいと思う。
このフロアのどこかで見ているであろうカレは、二人のダンスをどう思っているのだろうか。
「……はぁ…」
今更考えても無駄なことだ…。
丁度通りがかったウェイターからシャンパンが注がれたグラスを一つ受け取ると、当初の予定どおり、王宮の美しい庭園が一望できる2階のバルコニーへと向かうことにした。
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