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31-4 侯爵令嬢のサロン
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「お二人とも全問正解ですわ」
そう宣言された直後、令嬢たちから口々に驚きの声が漏れた。
「……少し、易しすぎるんじゃなくて?」
「でも、ルイーズ様も随分迷われていたし……」
――まずは、第一関門突破……。
内心ほっとしながらも、まだ気を緩めることはできない。
運ばれてきたワゴンは四つ、ということはまだ少なくとも三回は勝負をすることになるはずだ。
「次のお相手はわたくしですわ。シュザンヌと申します」
さきほど、答えを告げた黒髪に菫色の令嬢が、軽く美鈴に会釈してから楚々とした動作で席に着いた。
同じように三枚のカードと三杯の紅茶が美鈴の前に運ばれてくる。
結果は――二人とも正解。
令嬢の中には、美鈴の早々の敗北を期待していた者も少なくない。
その中でも、特にこの結果に驚き、憤慨している人物が一人――。
さきほど、美鈴をアリアンヌの隣の席に案内した、勝気そうな金髪の令嬢は美鈴の次の対戦相手でもあった。
ルイーズが正解を読み上げる前、美鈴が迷いなく正しい答えを選択したのを一瞥すると、彼女は扇で口元を覆いながら、すぐ隣にいる令嬢に何事かを話しかけた。
二人の会話が終わってすぐにその令嬢はそそくさと三つ目のワゴンの傍にに控えている召使いの元へ向かった。
「いいこと? ……カロリーヌ様が指示した通りにするのよ」
まだ十代後半といったところだろうか。年若い召使いは緊張した面持ちでコクリと頷き、令嬢は何事もなかったかのように美鈴の勝負を見守る輪に戻っていく。
「カロリーヌですわ。次はわたくしがお相手いたします」
優雅に会釈したカロリーヌのウェーブのかかった長い金髪がふんわりと揺れる。
彼女の顔には絶対の自信と――僅かではあるけれど人を嘲笑するような不敵な微笑みが口の端に浮かんでいる。
美鈴が異変に気付いたのは、三杯の茶杯が配られた直後だった。
陶器の白い肌に映える、イエローグリーンの色合い……。
立ち上る香ばしい芳香に懐かしさがこみ上げる。
紅茶ではない……でも、わたしはこの香りを知っている……!
この異世界の遠い東の果てに、日本のような島国が存在していることは美鈴も知っていた。
彼女のいた世界の日本とは完全に同一でないけれど、非常に似た歴史と文化を持つ国――。
わずかばかりながら、その国からもいくつかの交易品が、フランツ王国や近隣諸国に入ってきていると本で読んだことがある。
……それが、まさかこんな……。
懐かしさと驚きに数瞬、心を囚われてしまった美鈴だったが、すぐに今は勝負中なのだと思い直した。
一つ一つ順番に香りを確認し、味を確かめ終わった時――。
配られたカードを見て、美鈴は自分の目を疑った。
カードが、ない……。
この世界の日本に当たる国名 ジャポンのカードは配られた三枚のカードに入っていないのだ――。
そう宣言された直後、令嬢たちから口々に驚きの声が漏れた。
「……少し、易しすぎるんじゃなくて?」
「でも、ルイーズ様も随分迷われていたし……」
――まずは、第一関門突破……。
内心ほっとしながらも、まだ気を緩めることはできない。
運ばれてきたワゴンは四つ、ということはまだ少なくとも三回は勝負をすることになるはずだ。
「次のお相手はわたくしですわ。シュザンヌと申します」
さきほど、答えを告げた黒髪に菫色の令嬢が、軽く美鈴に会釈してから楚々とした動作で席に着いた。
同じように三枚のカードと三杯の紅茶が美鈴の前に運ばれてくる。
結果は――二人とも正解。
令嬢の中には、美鈴の早々の敗北を期待していた者も少なくない。
その中でも、特にこの結果に驚き、憤慨している人物が一人――。
さきほど、美鈴をアリアンヌの隣の席に案内した、勝気そうな金髪の令嬢は美鈴の次の対戦相手でもあった。
ルイーズが正解を読み上げる前、美鈴が迷いなく正しい答えを選択したのを一瞥すると、彼女は扇で口元を覆いながら、すぐ隣にいる令嬢に何事かを話しかけた。
二人の会話が終わってすぐにその令嬢はそそくさと三つ目のワゴンの傍にに控えている召使いの元へ向かった。
「いいこと? ……カロリーヌ様が指示した通りにするのよ」
まだ十代後半といったところだろうか。年若い召使いは緊張した面持ちでコクリと頷き、令嬢は何事もなかったかのように美鈴の勝負を見守る輪に戻っていく。
「カロリーヌですわ。次はわたくしがお相手いたします」
優雅に会釈したカロリーヌのウェーブのかかった長い金髪がふんわりと揺れる。
彼女の顔には絶対の自信と――僅かではあるけれど人を嘲笑するような不敵な微笑みが口の端に浮かんでいる。
美鈴が異変に気付いたのは、三杯の茶杯が配られた直後だった。
陶器の白い肌に映える、イエローグリーンの色合い……。
立ち上る香ばしい芳香に懐かしさがこみ上げる。
紅茶ではない……でも、わたしはこの香りを知っている……!
この異世界の遠い東の果てに、日本のような島国が存在していることは美鈴も知っていた。
彼女のいた世界の日本とは完全に同一でないけれど、非常に似た歴史と文化を持つ国――。
わずかばかりながら、その国からもいくつかの交易品が、フランツ王国や近隣諸国に入ってきていると本で読んだことがある。
……それが、まさかこんな……。
懐かしさと驚きに数瞬、心を囚われてしまった美鈴だったが、すぐに今は勝負中なのだと思い直した。
一つ一つ順番に香りを確認し、味を確かめ終わった時――。
配られたカードを見て、美鈴は自分の目を疑った。
カードが、ない……。
この世界の日本に当たる国名 ジャポンのカードは配られた三枚のカードに入っていないのだ――。
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