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第五章 真昼に舞う宵闇の王女
第39話 相手が悪すぎた
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アスカはラプユスとレムと協力してすでにクラーケンと戦っている最中だった。
「ラプユスよ、船に結界を張れるか?」
「ちょっと難しいですね。足が船に絡みついていますから無理やり結界で押しのけようとすると船体が砕けちゃいます」
「そうか。それでは、乗客や水夫に被害がでんよう、彼らを守ってやれ」
「はい、任せてください」
「レムよ、ワシらで邪魔な触手を排除するぞ」
「了解、です」
アスカは拳をクラーケンの脚へぶつけ粉々に吹き飛ばし、レムは大剣を以って複数の剣線を走らせ切り刻む。
その途中でアスカがこちらの状況に気がついた。
「おぬしら、遊んどらんで協力せい!」
「遊んでねぇよ! 命の危機だっての!」
「あ~、またシャーレの暴走か。仕方ないのぅ~。シャーレよ、フォルスの気を引きたいなら今するべきことはなんじゃ?」
「フォルスの?」
「そうじゃ、フォルスのじゃ。あやつが望むことをすればあやつの心を惹きつけられる。そして、フォルスが望むものはクラーケンから無辜の民を守ることじゃ!」
「フォルスが望む……」
シャーレは闇の風に包まれながらこちらへ漆黒の瞳を揺らす。
「フォルス、救いたいの?」
「それは、もちろん」
「……そう」
小さく短い返事の後、シャーレは薄く笑う。
「ふふ、ならば、救ってあげる! フォルスのために!!」
彼女を包んでいた闇の風が一気に膨らみ、甲板に激しい気流を生んだ。
気流は空を駆け抜け、クラーケンの意識を引く。
巨大な触手の一つがシャーレへ圧し掛かってきた。
だが、彼女は口元を綻ばせ微動だにしない。
「愚鈍な存在。力量も弁えないとは、愚かな。深淵の風」
触手がシャーレへぶつかる寸前で、それが大きく跳ね上がった!?
大樹の胴の如き脚が漆黒に染まる風の刃に切り落とされ、さらに風の刃たちが追い打ちと足を細かく切り刻む。
シャーレは何事もなかったように、自身が生んだ風により乱れた髪を撫で整える。
「フンッ、些末な知性しか持たぬ怪物が、この私に触れることを差し許されると思ったの?」
そう言葉を漏らした彼女からは、畏怖と畏敬が溶け合う迫力を覚える。
その姿を目にして、俺は再認識する。
(普段はそうでもないけど、やっぱりシャーレは魔王なんだな。並みの者じゃ持ち得ない威風を纏い、そして、純粋に強い!)
その強さは彼女だけではない。
アスカたちも……。
「ひゅんひゅんと鬱陶しい触手じゃの~。全部切り落として、晩飯にしてやるとするか」
「アスカさ~ん、早く船体から切り離してくださいよ~。結界が張れませんから」
「初撃は簡単に入りましたが、警戒度が上がり、全体に、魔力による防壁を張っていますね。もっとも、問題、ありませんが」
船よりも巨大なイカの化け物を相手に、三人とも余裕の表情。
アスカは触手の動きと力の流れを読み切り、敵の攻撃打点をずらしいなして、お返しに拳を打ち込む。
ラプユスは襲い掛かる触手から水夫や乗客を守るために、個々に結界を生んで彼らを守っている。
レムは大剣使いでありながらそうと感じさせぬ雷光のような動きを見せて、クラーケンの体へ剣線を走らせる。
シャーレは闇の風で己を守りつつ、漆黒の刃を操り、クラーケンの肉を削ぎ落としていく。
彼女たちの活躍を目にしたララが朧げな言葉を生む。
「ねぇ……あんたの連れ、強すぎない? クラーケンって魔物の中でも、トップレベルの強さなんだけど……」
「そういう人たちの集まりなんで――ララッ!?」
槍のように鋭く尖った一本の触手がララを突き刺さんと襲い掛かってきた。
だが、彼女は――
「わかってるって!」
腹部に幾重にも巻いたベルトへ手を置くと、そこに挟んであるナイフを数本引き抜き、それを触手ヘ放った。
それらが吸盤へ突き刺さると激しい爆発音が広がり、鼓膜を振盪させて痛みを走らせる。
「――ッ!? あのナイフ、爆薬仕込みか?」
「ふふ~ん、さっきは油断しちゃったけど二度目はないから。さ~て、お返しといこうかな!!」
彼女は蝙蝠とともに空へ舞い上がり、腰元の円月輪を手に取ってクラーケンへ飛ばす。
キーンという音とともに二輪の刃がクラーケン頭部のひらひらした耳を切り落とす。
その痛みに悶え、苦し紛れに触手を振り回すが彼女の影すら捉えることもできず空を切る。
「ふんっ、のろま。さぁ、わが眷属よ。ご飯の時間よ! いっけぇぇぇ!」
彼女を包み込んでいた蝙蝠たちが列をなしてクラーケンへ空襲を仕掛けた。
蝙蝠たちは触手の動きを巧みにかわし、怪しくぎょろりと光るオレンジ色の片目を喰らう。
――がぁぁあぁぁぁあぁ!――
片目を貪り食われた海の怪物クラーケンが悲鳴を上げた。
甲板上で背中合わせに立つアスカとシャーレが悲鳴の轟きに顔を向ける。
「ほ~、なかなかやるのぅ。ただのアホの子じゃと思ったが」
「少々抜けているところはあるようだけど、あれでも王の血族。クラーケン如きに遅れを取ることはないでしょ」
二人の批評通り、ララはクラーケンを前にしても常に余裕の笑みを浮かべ、蝙蝠たちと共に空を舞い、幾度も空襲を仕掛けている。
その動きは――俺よりも遥かに上!
(彼女は魔族。もし、敵として現れていたのなら、今の俺では勝てない――)
時滅剣ナストハの力を行使しない、俺本来の実力ではララには勝てない。
ラプユスも含め、自分と同じ年くらいの女の子たちよりも弱いという現実に悔しさを覚える――だからといって、腐っていてもしょうがない!!
彼女たちの活躍を見守りつつ、俺は思う。
「今回は俺の出番はなさそうだな……あの戦列に加わっても遜色がないように、もっともっと頑張らないと」
数分後、悲鳴と怒号は消え去り、静けさが戻る。
憎しみと恨みを抱き、復讐を遂げんと現れた哀れな海の怪物クラーケン。
しかし、彼の者の願いは成就することなく、儚く潰えたのであった。
「ラプユスよ、船に結界を張れるか?」
「ちょっと難しいですね。足が船に絡みついていますから無理やり結界で押しのけようとすると船体が砕けちゃいます」
「そうか。それでは、乗客や水夫に被害がでんよう、彼らを守ってやれ」
「はい、任せてください」
「レムよ、ワシらで邪魔な触手を排除するぞ」
「了解、です」
アスカは拳をクラーケンの脚へぶつけ粉々に吹き飛ばし、レムは大剣を以って複数の剣線を走らせ切り刻む。
その途中でアスカがこちらの状況に気がついた。
「おぬしら、遊んどらんで協力せい!」
「遊んでねぇよ! 命の危機だっての!」
「あ~、またシャーレの暴走か。仕方ないのぅ~。シャーレよ、フォルスの気を引きたいなら今するべきことはなんじゃ?」
「フォルスの?」
「そうじゃ、フォルスのじゃ。あやつが望むことをすればあやつの心を惹きつけられる。そして、フォルスが望むものはクラーケンから無辜の民を守ることじゃ!」
「フォルスが望む……」
シャーレは闇の風に包まれながらこちらへ漆黒の瞳を揺らす。
「フォルス、救いたいの?」
「それは、もちろん」
「……そう」
小さく短い返事の後、シャーレは薄く笑う。
「ふふ、ならば、救ってあげる! フォルスのために!!」
彼女を包んでいた闇の風が一気に膨らみ、甲板に激しい気流を生んだ。
気流は空を駆け抜け、クラーケンの意識を引く。
巨大な触手の一つがシャーレへ圧し掛かってきた。
だが、彼女は口元を綻ばせ微動だにしない。
「愚鈍な存在。力量も弁えないとは、愚かな。深淵の風」
触手がシャーレへぶつかる寸前で、それが大きく跳ね上がった!?
大樹の胴の如き脚が漆黒に染まる風の刃に切り落とされ、さらに風の刃たちが追い打ちと足を細かく切り刻む。
シャーレは何事もなかったように、自身が生んだ風により乱れた髪を撫で整える。
「フンッ、些末な知性しか持たぬ怪物が、この私に触れることを差し許されると思ったの?」
そう言葉を漏らした彼女からは、畏怖と畏敬が溶け合う迫力を覚える。
その姿を目にして、俺は再認識する。
(普段はそうでもないけど、やっぱりシャーレは魔王なんだな。並みの者じゃ持ち得ない威風を纏い、そして、純粋に強い!)
その強さは彼女だけではない。
アスカたちも……。
「ひゅんひゅんと鬱陶しい触手じゃの~。全部切り落として、晩飯にしてやるとするか」
「アスカさ~ん、早く船体から切り離してくださいよ~。結界が張れませんから」
「初撃は簡単に入りましたが、警戒度が上がり、全体に、魔力による防壁を張っていますね。もっとも、問題、ありませんが」
船よりも巨大なイカの化け物を相手に、三人とも余裕の表情。
アスカは触手の動きと力の流れを読み切り、敵の攻撃打点をずらしいなして、お返しに拳を打ち込む。
ラプユスは襲い掛かる触手から水夫や乗客を守るために、個々に結界を生んで彼らを守っている。
レムは大剣使いでありながらそうと感じさせぬ雷光のような動きを見せて、クラーケンの体へ剣線を走らせる。
シャーレは闇の風で己を守りつつ、漆黒の刃を操り、クラーケンの肉を削ぎ落としていく。
彼女たちの活躍を目にしたララが朧げな言葉を生む。
「ねぇ……あんたの連れ、強すぎない? クラーケンって魔物の中でも、トップレベルの強さなんだけど……」
「そういう人たちの集まりなんで――ララッ!?」
槍のように鋭く尖った一本の触手がララを突き刺さんと襲い掛かってきた。
だが、彼女は――
「わかってるって!」
腹部に幾重にも巻いたベルトへ手を置くと、そこに挟んであるナイフを数本引き抜き、それを触手ヘ放った。
それらが吸盤へ突き刺さると激しい爆発音が広がり、鼓膜を振盪させて痛みを走らせる。
「――ッ!? あのナイフ、爆薬仕込みか?」
「ふふ~ん、さっきは油断しちゃったけど二度目はないから。さ~て、お返しといこうかな!!」
彼女は蝙蝠とともに空へ舞い上がり、腰元の円月輪を手に取ってクラーケンへ飛ばす。
キーンという音とともに二輪の刃がクラーケン頭部のひらひらした耳を切り落とす。
その痛みに悶え、苦し紛れに触手を振り回すが彼女の影すら捉えることもできず空を切る。
「ふんっ、のろま。さぁ、わが眷属よ。ご飯の時間よ! いっけぇぇぇ!」
彼女を包み込んでいた蝙蝠たちが列をなしてクラーケンへ空襲を仕掛けた。
蝙蝠たちは触手の動きを巧みにかわし、怪しくぎょろりと光るオレンジ色の片目を喰らう。
――がぁぁあぁぁぁあぁ!――
片目を貪り食われた海の怪物クラーケンが悲鳴を上げた。
甲板上で背中合わせに立つアスカとシャーレが悲鳴の轟きに顔を向ける。
「ほ~、なかなかやるのぅ。ただのアホの子じゃと思ったが」
「少々抜けているところはあるようだけど、あれでも王の血族。クラーケン如きに遅れを取ることはないでしょ」
二人の批評通り、ララはクラーケンを前にしても常に余裕の笑みを浮かべ、蝙蝠たちと共に空を舞い、幾度も空襲を仕掛けている。
その動きは――俺よりも遥かに上!
(彼女は魔族。もし、敵として現れていたのなら、今の俺では勝てない――)
時滅剣ナストハの力を行使しない、俺本来の実力ではララには勝てない。
ラプユスも含め、自分と同じ年くらいの女の子たちよりも弱いという現実に悔しさを覚える――だからといって、腐っていてもしょうがない!!
彼女たちの活躍を見守りつつ、俺は思う。
「今回は俺の出番はなさそうだな……あの戦列に加わっても遜色がないように、もっともっと頑張らないと」
数分後、悲鳴と怒号は消え去り、静けさが戻る。
憎しみと恨みを抱き、復讐を遂げんと現れた哀れな海の怪物クラーケン。
しかし、彼の者の願いは成就することなく、儚く潰えたのであった。
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