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第二章 ベタないじめを拳でぶっ飛ばす

指示をしたのは?

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――学生寮・廊下

 
 ミコンは通りかかりの生徒にネティアたちの所在を尋ね、まだ学生寮にいることを突き止める。
 そして、完全に我を忘れて廊下を疾走していた。

 学生寮三階のロビー。 
 ここは大勢の生徒たちの憩いの場。
 まだ、始業まで時間があるため、学園へ登校する予定の生徒たちが行き交っている。
 そのロビーにネティアと取り巻き三人娘はいた。
 
 ミコンは拳に魔力とは違う力――という名の生命力を宿し、ほのかに白光を纏う。
 そしてそれを、昨日ミコンたちを見て笑っていた三人娘へ振り下ろした。


「このっ、クズがぁぁ!」

「「「えっ!?」」」
「ミコン? おやめなさい!!」

 ネティアの声が飛ぶ――同時に振り下ろされた拳。
 だが、その拳は三人娘に突き刺さる寸でのところで、空中に展開された魔導障壁にさえぎられた。
 拳と障壁がぶつかり合い、バチバチとした光のが飛び散る。

 ミコンは一度拳を戻して、後ろへ数歩飛び退く。
「邪魔をするということは、あなたもグルですか!? ネティア!!」
「あなた、何を言って……」


 ネティアは自身が展開した障壁へちらりと視線を振る。
 咄嗟とは言え、障壁はとても分厚く堅固けんごなものであったはず。
 だが、拳の衝撃で無数の亀裂が走っていた。

(素手で私の障壁をここまで破損させるなんて……)

 視線をミコンへ戻す。彼女は鼻息を荒くして、冷静ではない。
(何があったか知りませんが、頭に血が上っているようですわね。あれでは料理の話題だけでは止まれないでしょう。仕方ありません。力で頬辺ほおべたを殴りますか)


 ネティアは身の内より魔力を産み出し、そこへ殺気を溶け込ませる。
 そして、紅き視線でミコンを射抜いた。

「ミコン、この突然の暴力。どういうつもりですか?」
 淡々と発せられる言葉。しかし、一音一音に圧があり、ミコンはそれを心と肌に感じ取る。
(――っ、なんて奴。殺意と暴力が織り交ざる言葉に魔力――本当にお嬢様なんですか?)

 ネティアの力に頬を殴られたミコンは冷静さを取り戻す。
 しかし、振り上げた拳は前へ突き出したまま。
 ネティアもまた、魔力を鎮めることなくミコンを紅玉の瞳に捕らえたまま。

 二人の無言の圧力に、周囲の生徒や取り巻き三人娘は声を発することもできず、ただただ見つめるばかり。
 しばしの沈黙。しかし、ミコンがそれを消し去る。


「ママから貰った大切なリボンを汚したのはあなたたちですね」
 彼女は確信をもって、三人娘を言葉で突き刺す。
 三人娘はミコンの声と視線に震えながらも、悪態を返す。

「は、はい? 何言ってんの? わけのわかんないこと言わないでよ」
「そうよ、私たちが何をしたというの?」
「緑色のリボンなんて知らな~い。私たちが何かした証拠でもあるの~?」

「どうして、緑色、だとわかるんですか……」
「え、それは……ほら、だって、ラナがいつもしてたじゃない」
「私は……一度もラナちゃんのリボンとは言ってませんよ!!」
「あ……」
「語るに落ちるとはこのことですね――遠慮なく、ぶっ殺す!」
「「「ひっ」」」


 ミコンは身体を前のめりにして、一歩、足を踏み出そうとする。
 それを受けて、ネティアはいつでも魔法を産み出せるよう、魔力を高めた。
 そこにレンが訪れる。彼女は大声を上げながら、こちらへ駆けてくる。

「ミコン、早まるな! 彼女たちに暴力を振るえば、学園にいられなくなる!!」
「だからなんですか!?」
「ミコン!?」

「あのリボンは……ラナちゃんのママがラナちゃんを想って贈ったリボンですよ。それをドブに漬け込むなんて、絶対に許せない。私の友達にあんな悲しい涙を流させたことは絶対に! 絶対に許せない!」


 レンがミコンの肩を掴もうとしたが、一歩遅く、手は空を切る。
 ミコンは、三人娘へと再び飛び掛かった。
 しかし、その間をさえぎるようにネティアが立ち塞がり、小さな光の魔法を放ってミコンの視界を奪う。

「クッ!」

 白に染まった視界はミコンの突進を抑える。
 そこに生まれた僅かな時間――ネティアは周囲を素早く見回す。そして小さな息を漏らすと、高らかに唱えた。


「私が指示をしました!」


 この言葉に、取り巻き三人娘はすかさず声を返した。
「待ってください、ネティア様!」
「あれは、私たちが!」
「そうです! ネティア様には――」

「黙りなさい!!」

 彼女の一喝に三人娘は体を跳ねて押し黙る。
 ネティアは三人娘をちらりと見て、またもや小さな息を漏らす。
 そしてそこから、もう一度はっきりとした声でミコンに言葉を渡した。


「私が指示をしました。庶民であるラナの存在が疎ましくて、三人にいたずらをするようにと。ですから、彼女の大切な母の贈り物を汚せと命じたのは、この私です!」

 広がる言葉。
 ロビーにいた生徒たちはこれに小声で言葉を交わし合う。
「え、なに。ラナって子のお母さんの贈り物をぐちゃぐちゃにしたの?」
「マジで? それはさすがにないわ~」
「いくら庶民が気に食わないからって、ちょっとなぁ」


 ネティアを非難するぼそぼそ声。
 ミコンはネティアから視線を外し、周囲の生徒たちの声を猫耳で受け止めて小さく首をかしげた。
 そこから視線を戻し、ネティアをまっすぐ見つめて問いかける。

「それで、あなたはいいんですか?」

 ネティアは問い掛けに答えない。
 ただ無言でミコンを見つめ返すのみ。
 その彼女の態度に応え、ミコンは拳を降ろした。

「……わかりました。こちらは退きます」
「そう。だけど、ミコン……」

 ネティアはミコンへ近づき、小さな声を漏らす。
「一言、忠告をしておきますわ」
「なんですか?」
「友に寄り添い、怒りを覚えることは悪くありませんが、感情に吞まれれば、悲しむのはその友ですわよ」
「クッ!」

 彼女はミコンから離れ、三人娘へ近づき、ロビーから離れるよう指示を出す。
「話はつきました。行きますわよ」
「「「ですが、ネティア様。私たち」」」
「黙りなさい。さぁ、そろそろ始業時間です。あなたたちは黙って私の後ろからついてきなさい」
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