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第10話 茶番劇再び~自作PCを作ってみて~

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 日本のどこかにある安アパートの一室の空間が歪む。
 青く渦巻く光の中からポンっと少女が出てきました。

 その一部始終を見ていたアスカがため息交じりに声を上げます。
「頼むから、公共交通機関を使い、普通に玄関から入ってきてくれんかのぅ~。おぬしがワームホールを開くたびに中性子が発生して、ご近所迷惑なのじゃよ。のう、ヤマタノ?」
「大丈夫なの~。ちゃん~と、分散フィールドを形成してるの~」

 言葉を返したのはPCのパーツを持ち込んできた、龍神八岐大蛇やまたのおろち。通称ヤマタノ。

 だけど今は、幼い少女の姿。

 彼女はふわふわなくせっ毛の真っ白髪を揺らして、アスカが作り上げたPCを鮮血よりも鮮やかなあかの瞳に映しました。


「わ~、ちゃんとできてるの~。ぴかぴかのてかてかランプが光ってるの~……だっさ!」
「だっさとはなんじゃ! だっさとは!? 世界のLED信者を敵に回すぞ!!」
「そんな人たちいるの~」
「さぁ……知らん」
「いい加減なの~。いい加減と言えば、吾輩たちの説明もなくいい加減なの~」
「そ、それは……」

 ヤマタノはふんわり柔らかな間延びした声を漏らしつつ、体を左右に振って、ゴスロリ服をひらひらと揺らしながら語ります。

「普通は~、どういった事情で~、異国の神であるアスカちゃんが~、日本にいるのか? どうして少女の姿をしてるのか? 吾輩との関係は? そういったことを~、物語に沿いながら~、それとなく開示していくもんなの~」

「うっさいの~、そんなことやってたら話が進まんからカットなのじゃ!」
「みんなをおいてけぼりで最悪なの~」

「最悪で結構じゃ! それよりも雑談はやめじゃ。本題に移るぞ。ほれ、振れ」
「うわ~、雑なの~」
「いいからとっとと振れ!」
「もう~」

 
 ヤマタノは衣服をキュッキュッと引っ張り整えて、アスカに質問を行います。
「PCを組み立てて見てどうだったの~?」
「そうじゃの~、組み立てるという作業は面白かったの。それに想像よりも簡単じゃった。ただし、不安はたっぷりで、ワシのかわゆいちっちゃな心臓は常に早鐘を打ち鳴らしていて破裂寸前じゃったぞ」

「毛塗れの心臓はかわゆくないの~」
「毛なぞ生え取らんわ!」
「ほかには何かあるの~?」
「他か? そうじゃな、ざっとメリットデメリットを下記にまとめるとするぞい」


――メリット

・何につけても安い。
 今回は14万円前後(OSを購入していた場合でも15万円ちょっと)で収まっておる。 
 近いスペックのPCをBTOのパソコン(パソコンショップでの受注生産)で購入しようとすると、22万円以上はかかる。最低でも8万円くらい浮いておるの。

・予算に応じて自由にカスタマイズできる。
 自分にとって必要なもの・不必要なものの取捨選択がBTOパソコンよりも広く行える。そのため、自分好みでPCを作れる。
 予算を度外視すれば、こだわりにこだわりぬいたPCを作り上げることも可能じゃしの。

・一度作り上げれば自信をそれなりに持てるので、ケーブルを外すくらいでビビったりせんようになるし、各種パーツに関する知識を手にすることもできる。その結果、故障した場合、その故障したパーツのみを交換して末永く使用できるようになるの。



――デメリット

・全て自己責任であること。不具合が起きても自分で何とかする必要があるということじゃな。市販品やBTOパソコンであれば、『どっか壊れた。ならば、保障を元に修理を頼む』ということができるがな。

 じゃが、自作の場合はそうはいかん。各パーツごとに保障はあるものの、そのパーツのどれに問題があるのかを自分で探さねばならん。保障が切れても、やっぱり自分で探して購入・交換となる。

 もっとも、どうしてもわからんならパソコンショップに持ち込んで相談するという方法が使えるじゃろうて。もちろん、これは有料じゃぞ。

・相性問題・サイズの問題。これらも自分で調べることになる。

・あとは~、個人的すぎる感想じゃが……初心者の場合、金に不安がある者は下手に手を出さん方が良いかもしれん。


 ここでヤマタノの声が飛びます。
「ちょっと待った~、なの!!」
「どうした、ヤマタノ?」
「お安く作れるなら、予算が少ない人ほど助かるんじゃないの~?」

「そうなんじゃが、自己責任というのが重うのしかかっての」
「ん?」

「もし、購入したパーツの相性が悪く起動しない。組み立て中に壊してしもうた。なんてことがあると、問題のパーツによっては結構な痛手なのじゃ。初期不良や自然故障であればメーカー側の責任で交換できるが、購入者の都合だと交換はできんからな」

「なるほどなの~、それは怖いの~」
「特に、お高いグラフィックボードを自分の不手際で壊した日には泣くぞ」
「お高いパーツだから大変なのなの~」
「ワシの場合、プラスドライバーでマザーボードをつついた時には、最悪買い直しかもしれんと覚悟したもんじゃ」

「そんなことしたの~!? アホなの!」
「アホ言うな!」
「アスカちゃんは普段から大雑把すぎるの~」
「余計なお世話じゃ。いいから金の話に戻るぞ」
「なんか、みみっちいの~」


「お金は大事じゃぞ! ごほん、ともかくじゃ、ある程度余裕を持って作りたいので、数万失ってもこれはこれで仕方がないと思えるくらい、懐と心に余裕があるほうが良いじゃろうな」
「余裕がないと駄目なんて、安く済ませたくて作りたいと思ってる人にとって、それはそれはとてもアイロニーなの~」

「いや、まぁ、絶対手を出すなと言うとるわけじゃない。それぐらいの覚悟が必要じゃ、と言う話じゃ。お勧めとしては、もし初めて作るなら、最悪を想定して軽い痛手で済む程度の予算で始めた方が良いと思うぞ」


 ここでヤマタノが手をポンっと打って、一つのアイデアを提示します。
「あ、そうだ! 古いパソコンを利用して、一度分解して、また組み直す。そんな練習をしておくといいかもなの~」

「ヤマタノの言う通り、手元に分解していいPCがあるならそれも手じゃが、そういうの持っとるのは自作PCをやっとる者となる場合が多いじゃろうて、なかなか難しいかもしれんの。メーカー品はケースを開けること自体が一苦労の場合があるからな。一体型などのは独特な組み立てをしとるし」
「はぁ~、またもやアイロニーなの~」

「そうじゃなぁ……一度はBTOパソコンを購入してから次は自作へ、という流れであれば、手元に練習用のPCができて良いかもしれんな」
「そんなのめんどくさいの~。やってられないの~」


 そう愚痴をこぼしたヤマタノはごそごそと懐から透明なグラスとお酒を取り出して、お酒をグラスに注ぎ始めます。

「そ~れ、とくとくとくとくなの~」
「おい、何をやっとるんじゃ?」
「白〇の18年ものなの~」
「誰も酒の銘柄を聞いたわけではない! なんでいきなり酒を飲もうとしていると聞いたのじゃ!」

「嫌なことがあったらやけ酒に限るの~」
「この、のんべぇめ。テキトーな理由をつけて飲もうとしてからに。まったく、酒で大失敗した過去を忘れたか?」
「それはお互い様なの~」


 遠い過去に、八岐大蛇やまたのおろちはお酒に酔い潰れたところを素戔嗚尊すさのおによって退治されています。

 ケツァルコアトルことアスカは、過去にお酒が原因で妹と肉体関係を結んでしまい、アステカの地を追われています。
 

 ですがアスカは、ヤマタノの言葉に納得がいかず一緒にするなと吠えました。
「おぬしの場合は酒癖の悪さが招いた結果じゃろ! ワシはテスカトリポカ(夜空の神)に嵌められて、呪いの酒を飲んだせいじゃぞ!」

「どっちもお酒の失敗談でおんなじなの~」
「全然違うわ!」
「ぶ~、うるさいの~」


 ヤマタノは唇を尖らせつつ、琥珀色に満たされたグラスをPCケースの上に置きました。それを見たアスカは豚のような絶叫を上げます。
「ぷぎぃぃぃぃ! なんちゅうとこにお酒を置くんじゃ! このPCケースの上部はアミアミ構造で風通りがよく、そこに液体をこぼしたらPCが即死するんじゃぞ!!」

「あれ~? でもでも~、アスカちゃんは以前のケースの上には、ジュースやお茶を置いていたの~」

「たしかに置いておったの。あれはちょうど良い位置にあってな。ついつい、置いてしまっていたのじゃ。そして…………よく、零してたのじゃ」
「ええええ! パソコン壊れちゃうの~!?」

「じゃがの、以前のPCケースの上部はアミアミ構造ではなく鉄板じゃったので、零しても内部に入ることはなかったのじゃ。なので、安心じゃったのじゃ」
「ぜんぜん安心じゃないと思うの~。フロント部分の隙間から入ってきたらどうするの~?」

 という、ヤマタノのツッコミをアスカは無視して、煌めく黄金の瞳をおニューのPCケースのてっぺんへと向けます。
「ふむ、一番のデメリットは、ケースの上に液体を置けなくなったことかもしれんな」
「アスカちゃん……メーカーさんも、そんなおバカさんの相手できないの~」

 ――――――――――
 組み立ては終えたので、次は細かな不具合の話です。残りは四話くらい。
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