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第24話 腐る心

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――深夜

 宴の時間。
 貴族様が奴隷の命をもてあそぶ時間。
 
 砦の最上階の広々とした一室に貴族様たちが集まり、部屋の中央では鎖に繋がれた奴隷たちが怯えていました。
 部屋のあちらこちらには拷問器具や薬品などが置かれています。

 ツツクラ様は貴族様を前に、大仰な手振りを交え式辞を述べ始めました。

「ここは世界から切り離された場所。良識という下らぬ概念から解き放たれた場所。今宵も皆々様に楽しんで頂けるよう、選びに選び抜いた奴隷たちをご用意しました。どうか、飽くるまで欲望の猛りのままにご堪能下さい」

 ここでは、外の世界では絶対に行ってはいけないことを平然と行える。
 他者の心と体を蹂躙し、壊し、殺す。

 全身の皮を剥がしても許される。目玉を刳り貫いても許される。無抵抗な存在を殴りつけるという、最も単純かつ原始的な暴力に酔いしれることも許される。

 ツツクラ様の言葉の終わりと同時に、貴族様たちは奴隷たちに群がり、思い思いの拷問を行う。
 助けを乞う姿に微笑みを浮かべ、叫び声を耳に楽しむ。
 薬品により焦げた肉の匂いが広がる中で、ツツクラ様は微笑みを見せたまま私に声を掛けます。

「外に出るよ」

 指示に従い、部屋の外へ出ます。
 すると、ツツクラ様は大きなため息を漏らしました。これはいつも見る御姿。 
 そして、いつもと同じ言葉を吐き捨てます。

「くだらないね……」
 
 そう言って、彼女は軽く頭を振った。
 意外なことですが、ツツクラ様は残虐な行為があまり好きではありません。
 正確に言えば、娯楽のための残虐な行為ですが。
 
 彼女にとって残虐な行為は、己の力を誇示して恐怖での支配を行うためであって、娯楽のために行っているわけではなく、それを楽しむ趣味もないということです。
 もちろん、だからと言っておこなっていい理由にはなりませんが。

 
「ルーレン、お前は出入り口を見張ってな。大事なんてないだろうけどね」

 簡素な指示を残して、ツツクラ様はこの場から立ち去りました。
 私は指示通り、鉄斧を構えて扉の前に立ちます。
 背にあるのは分厚い扉ですが、それでも音は完全に遮断できずに、奴隷たちの叫び声と貴族様方の笑い声が微かに漏れ出て背中に当たります。

(はぁ、嫌な仕事)

 背後で行われる残虐な行為。そこに背負う罪悪感。
 ですが、その罪悪感が私の中に良識が残っていることを示して、それに安心を覚えるのです。

 もはや、誰かを助けたいという思いはなく、ほのかに残る良識に酔いしれる。私にはまだ、普通である部分があると……。

 私はやっぱり壊れ――いえ、もう腐っている。
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