上 下
17 / 37

第17話 ティンバーさんの闇

しおりを挟む
 暗がりの部屋にぽつんと置かれた椅子。
 そこには縄で拘束され、目隠しをされているティンバーさん。
 顔に殴られた痣はありますが、拷問をされていた様子はありません。
 彼は私の声を聞くと話しかけてきました。


「ルーレン? ルーレンがいるのかい? 頼む、僕を助けてくれ!!」
「ティンバーさん、どうして……?」

 ティンバーさんは激しく体を揺すります。
 彼は私が来る前から抵抗をしていたのでしょう。
 体を揺するたびに、きつく結ばれた手首の肉が捲りあがり、そこから血が滴り落ちます。
 ぽたりぽたりと落ちる血は、ギシギシと唸る椅子に合わせて、黒ずんだ床に赤を広げていきます。

 私は前に立つパーシモンに問い掛けました。
「ティンバーさんは何を?」
「奴隷を殺したのさ」
「え!?」

 パーシモンさんはティンバーさんの前に立ち、彼の頭をバシッと叩きます。
「この馬鹿は奴隷の女のガキを二人も殺しやがった。ディケードの旦那から手痛い目に遭って、やべぇ趣味を引っ込めたかと思ってたのにな」
「あ、あの、状況がよく飲み込めないのですが……?」

 こう問うと、さらにパーシモンさんはティンバーさんの頭を叩きます。
「小児性愛者なんだよ、こいつは。それもかなりこじれたな」
「しょうに……」

「こいつにゃ、自分の気に入った女のガキを連れ去って、面倒を見る癖があったんだ。で、もしガキが拒絶したら、犯し殺す。殺した後は、気に入った部位を切り取って保存していた。とんでもない変態ってわけだ」
「ティンバーさんが……そんな……あっ」

 ここでふと、ティンバーさんとの会話を思い出しました。
 彼はこう言っていた。
 ディケードさんに娘を殺されたと……。

「そ、それじゃ、ディケードさんがティンバーさんの娘さんを殺したという話は?」
「そんなでっちあげの話をしてたのか、この馬鹿。ディケードの旦那はそんなことしてねぇぞ」
「え?」


 パーシモンさんはディケードさんに顔を振ります。
 すると、ディケードさんは軽く頭を横に振って、思い出すのも嫌そうに声を出しました。
「彼が保存していた、ぐちゃぐちゃに縫われていた少女の遺体を燃やしただけだ」
「ぐちゃ? 縫われた? え?」

「彼は少女の気に入った部位を集め、縫い合わせて理想の娘を作り上げていた。そこに私の部隊が踏み込み、縫い合わされた少女を見つけた。だが、防腐が甘く、それは人として形を成していなかった」
「そ、そんなことを、ティンバーさんが?」
「ああ、すでに腐り始めていた少女たちを放置しては、伝染病の懸念があるため燃やしたのだ」


「違う!! 全部、嘘っぱちだ!!」

 突然、ティンバーさんが激高して、荒げた声で場を叩きつけました。
 彼はさらに言葉を続けます。

「彼女は生きていた! 全ての臓器が揃えば復活するはずだったんだ。僕の娘が! それをディケード!! お前が殺したんだ!! 脳だけは娘のものだったのに!!」


 彼の声に、私は足を一歩後ろへ引きました。
 話していることが、明らかに異常。
 そうなると、真実を述べているのはディケードさんとなります。

「ディケードさん、どうしてその時に?」
「彼を見逃し、さらに迎い入れたのか? という疑問だな」
「はい」
「こいつは戦術官としての才があり、教師としての才もあったため、ツツクラ様が有用と判断したのだ。実際にここに来てから、彼の力は大いに役に立った」

 パーシモンさんの声が続きます。
「反吐が出そうな趣味が暴走しないように、監視はしてたんだがな。ま、がちがちに固めちまったら狂っちまうから、会話と軽い触れ合い程度なら、目溢ししてたんだが。それがいけなかったかもなぁ」

「触れ合いって……?」

「おっと、いやらしい話じゃないぞ。こいつ、飴玉をガキどもに配って、ご機嫌取りをして遊んでやってたんだ。ルーレンも何度が貰っただろ」
「はい……あの、その飴玉の中には何か?」

「勘繰りたくなるだろうが、安心しろ、普通の飴だ。こいつはここに来る前からどういう訳か、ガキどもに飴を配ってたらしい。それに何が入ってるわけもなく、普通の飴。ま、飴でガキどもを釣ってたんだろうが」


「違う! あの飴は娘が大好きな――」
「黙ってろ!!」

 突然割って入ってきたティンバーさんの声を、パーシモンさんが頭を叩いて止めます。
「とにかくだ。今までずっと大人しかったのに、なんでか奴隷のガキを殺しちまった。それで、この様だ」
「そう、なんですか……?」


 私はティンバーさんへ問い掛けます。
「どうして、そんなことを?」
「…………飴だ」
「はい?」

「僕は飴玉を上げようとしたんだ……そうしたら、あの子たちはいらないって言った! あげようとした飴が嫌いだと言いやがったんだ!! 娘が大好きだった飴を!! だから殺した!! 僕は悪くない!! あいつらが僕の心を蹂躙した!! だから――!!」
「飴飴うるせいよ!」


 またもや、頭を叩かれます。そのせいで舌を噛んだようで、唇からは血を流しています。

 不意に静けさが訪れました。
 それは数秒ほどでしたが、とても長い沈黙。
 指で数えるほどの間だった静寂を、ディケードさんが消し去ります。
 耳を疑う声と共に……。


「ルーレン、ティンバーを殺せ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】淫夢の城

月島れいわ
恋愛
背徳の官能物語

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。 《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。 彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。 だが、彼が次に目覚めた時。 そこは十三歳の自分だった。 処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。 これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

処理中です...