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第17話 ティンバーさんの闇
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暗がりの部屋にぽつんと置かれた椅子。
そこには縄で拘束され、目隠しをされているティンバーさん。
顔に殴られた痣はありますが、拷問をされていた様子はありません。
彼は私の声を聞くと話しかけてきました。
「ルーレン? ルーレンがいるのかい? 頼む、僕を助けてくれ!!」
「ティンバーさん、どうして……?」
ティンバーさんは激しく体を揺すります。
彼は私が来る前から抵抗をしていたのでしょう。
体を揺するたびに、きつく結ばれた手首の肉が捲りあがり、そこから血が滴り落ちます。
ぽたりぽたりと落ちる血は、ギシギシと唸る椅子に合わせて、黒ずんだ床に赤を広げていきます。
私は前に立つパーシモンに問い掛けました。
「ティンバーさんは何を?」
「奴隷を殺したのさ」
「え!?」
パーシモンさんはティンバーさんの前に立ち、彼の頭をバシッと叩きます。
「この馬鹿は奴隷の女のガキを二人も殺しやがった。ディケードの旦那から手痛い目に遭って、やべぇ趣味を引っ込めたかと思ってたのにな」
「あ、あの、状況がよく飲み込めないのですが……?」
こう問うと、さらにパーシモンさんはティンバーさんの頭を叩きます。
「小児性愛者なんだよ、こいつは。それもかなりこじれたな」
「しょうに……」
「こいつにゃ、自分の気に入った女のガキを連れ去って、面倒を見る癖があったんだ。で、もしガキが拒絶したら、犯し殺す。殺した後は、気に入った部位を切り取って保存していた。とんでもない変態ってわけだ」
「ティンバーさんが……そんな……あっ」
ここでふと、ティンバーさんとの会話を思い出しました。
彼はこう言っていた。
ディケードさんに娘を殺されたと……。
「そ、それじゃ、ディケードさんがティンバーさんの娘さんを殺したという話は?」
「そんなでっちあげの話をしてたのか、この馬鹿。ディケードの旦那はそんなことしてねぇぞ」
「え?」
パーシモンさんはディケードさんに顔を振ります。
すると、ディケードさんは軽く頭を横に振って、思い出すのも嫌そうに声を出しました。
「彼が保存していた、ぐちゃぐちゃに縫われていた少女の遺体を燃やしただけだ」
「ぐちゃ? 縫われた? え?」
「彼は少女の気に入った部位を集め、縫い合わせて理想の娘を作り上げていた。そこに私の部隊が踏み込み、縫い合わされた少女を見つけた。だが、防腐が甘く、それは人として形を成していなかった」
「そ、そんなことを、ティンバーさんが?」
「ああ、すでに腐り始めていた少女たちを放置しては、伝染病の懸念があるため燃やしたのだ」
「違う!! 全部、嘘っぱちだ!!」
突然、ティンバーさんが激高して、荒げた声で場を叩きつけました。
彼はさらに言葉を続けます。
「彼女は生きていた! 全ての臓器が揃えば復活するはずだったんだ。僕の娘が! それをディケード!! お前が殺したんだ!! 脳だけは娘のものだったのに!!」
彼の声に、私は足を一歩後ろへ引きました。
話していることが、明らかに異常。
そうなると、真実を述べているのはディケードさんとなります。
「ディケードさん、どうしてその時に?」
「彼を見逃し、さらに迎い入れたのか? という疑問だな」
「はい」
「こいつは戦術官としての才があり、教師としての才もあったため、ツツクラ様が有用と判断したのだ。実際にここに来てから、彼の力は大いに役に立った」
パーシモンさんの声が続きます。
「反吐が出そうな趣味が暴走しないように、監視はしてたんだがな。ま、がちがちに固めちまったら狂っちまうから、会話と軽い触れ合い程度なら、目溢ししてたんだが。それがいけなかったかもなぁ」
「触れ合いって……?」
「おっと、いやらしい話じゃないぞ。こいつ、飴玉をガキどもに配って、ご機嫌取りをして遊んでやってたんだ。ルーレンも何度が貰っただろ」
「はい……あの、その飴玉の中には何か?」
「勘繰りたくなるだろうが、安心しろ、普通の飴だ。こいつはここに来る前からどういう訳か、ガキどもに飴を配ってたらしい。それに何が入ってるわけもなく、普通の飴。ま、飴でガキどもを釣ってたんだろうが」
「違う! あの飴は娘が大好きな――」
「黙ってろ!!」
突然割って入ってきたティンバーさんの声を、パーシモンさんが頭を叩いて止めます。
「とにかくだ。今までずっと大人しかったのに、なんでか奴隷のガキを殺しちまった。それで、この様だ」
「そう、なんですか……?」
私はティンバーさんへ問い掛けます。
「どうして、そんなことを?」
「…………飴だ」
「はい?」
「僕は飴玉を上げようとしたんだ……そうしたら、あの子たちはいらないって言った! あげようとした飴が嫌いだと言いやがったんだ!! 娘が大好きだった飴を!! だから殺した!! 僕は悪くない!! あいつらが僕の心を蹂躙した!! だから――!!」
「飴飴うるせいよ!」
またもや、頭を叩かれます。そのせいで舌を噛んだようで、唇からは血を流しています。
不意に静けさが訪れました。
それは数秒ほどでしたが、とても長い沈黙。
指で数えるほどの間だった静寂を、ディケードさんが消し去ります。
耳を疑う声と共に……。
「ルーレン、ティンバーを殺せ」
そこには縄で拘束され、目隠しをされているティンバーさん。
顔に殴られた痣はありますが、拷問をされていた様子はありません。
彼は私の声を聞くと話しかけてきました。
「ルーレン? ルーレンがいるのかい? 頼む、僕を助けてくれ!!」
「ティンバーさん、どうして……?」
ティンバーさんは激しく体を揺すります。
彼は私が来る前から抵抗をしていたのでしょう。
体を揺するたびに、きつく結ばれた手首の肉が捲りあがり、そこから血が滴り落ちます。
ぽたりぽたりと落ちる血は、ギシギシと唸る椅子に合わせて、黒ずんだ床に赤を広げていきます。
私は前に立つパーシモンに問い掛けました。
「ティンバーさんは何を?」
「奴隷を殺したのさ」
「え!?」
パーシモンさんはティンバーさんの前に立ち、彼の頭をバシッと叩きます。
「この馬鹿は奴隷の女のガキを二人も殺しやがった。ディケードの旦那から手痛い目に遭って、やべぇ趣味を引っ込めたかと思ってたのにな」
「あ、あの、状況がよく飲み込めないのですが……?」
こう問うと、さらにパーシモンさんはティンバーさんの頭を叩きます。
「小児性愛者なんだよ、こいつは。それもかなりこじれたな」
「しょうに……」
「こいつにゃ、自分の気に入った女のガキを連れ去って、面倒を見る癖があったんだ。で、もしガキが拒絶したら、犯し殺す。殺した後は、気に入った部位を切り取って保存していた。とんでもない変態ってわけだ」
「ティンバーさんが……そんな……あっ」
ここでふと、ティンバーさんとの会話を思い出しました。
彼はこう言っていた。
ディケードさんに娘を殺されたと……。
「そ、それじゃ、ディケードさんがティンバーさんの娘さんを殺したという話は?」
「そんなでっちあげの話をしてたのか、この馬鹿。ディケードの旦那はそんなことしてねぇぞ」
「え?」
パーシモンさんはディケードさんに顔を振ります。
すると、ディケードさんは軽く頭を横に振って、思い出すのも嫌そうに声を出しました。
「彼が保存していた、ぐちゃぐちゃに縫われていた少女の遺体を燃やしただけだ」
「ぐちゃ? 縫われた? え?」
「彼は少女の気に入った部位を集め、縫い合わせて理想の娘を作り上げていた。そこに私の部隊が踏み込み、縫い合わされた少女を見つけた。だが、防腐が甘く、それは人として形を成していなかった」
「そ、そんなことを、ティンバーさんが?」
「ああ、すでに腐り始めていた少女たちを放置しては、伝染病の懸念があるため燃やしたのだ」
「違う!! 全部、嘘っぱちだ!!」
突然、ティンバーさんが激高して、荒げた声で場を叩きつけました。
彼はさらに言葉を続けます。
「彼女は生きていた! 全ての臓器が揃えば復活するはずだったんだ。僕の娘が! それをディケード!! お前が殺したんだ!! 脳だけは娘のものだったのに!!」
彼の声に、私は足を一歩後ろへ引きました。
話していることが、明らかに異常。
そうなると、真実を述べているのはディケードさんとなります。
「ディケードさん、どうしてその時に?」
「彼を見逃し、さらに迎い入れたのか? という疑問だな」
「はい」
「こいつは戦術官としての才があり、教師としての才もあったため、ツツクラ様が有用と判断したのだ。実際にここに来てから、彼の力は大いに役に立った」
パーシモンさんの声が続きます。
「反吐が出そうな趣味が暴走しないように、監視はしてたんだがな。ま、がちがちに固めちまったら狂っちまうから、会話と軽い触れ合い程度なら、目溢ししてたんだが。それがいけなかったかもなぁ」
「触れ合いって……?」
「おっと、いやらしい話じゃないぞ。こいつ、飴玉をガキどもに配って、ご機嫌取りをして遊んでやってたんだ。ルーレンも何度が貰っただろ」
「はい……あの、その飴玉の中には何か?」
「勘繰りたくなるだろうが、安心しろ、普通の飴だ。こいつはここに来る前からどういう訳か、ガキどもに飴を配ってたらしい。それに何が入ってるわけもなく、普通の飴。ま、飴でガキどもを釣ってたんだろうが」
「違う! あの飴は娘が大好きな――」
「黙ってろ!!」
突然割って入ってきたティンバーさんの声を、パーシモンさんが頭を叩いて止めます。
「とにかくだ。今までずっと大人しかったのに、なんでか奴隷のガキを殺しちまった。それで、この様だ」
「そう、なんですか……?」
私はティンバーさんへ問い掛けます。
「どうして、そんなことを?」
「…………飴だ」
「はい?」
「僕は飴玉を上げようとしたんだ……そうしたら、あの子たちはいらないって言った! あげようとした飴が嫌いだと言いやがったんだ!! 娘が大好きだった飴を!! だから殺した!! 僕は悪くない!! あいつらが僕の心を蹂躙した!! だから――!!」
「飴飴うるせいよ!」
またもや、頭を叩かれます。そのせいで舌を噛んだようで、唇からは血を流しています。
不意に静けさが訪れました。
それは数秒ほどでしたが、とても長い沈黙。
指で数えるほどの間だった静寂を、ディケードさんが消し去ります。
耳を疑う声と共に……。
「ルーレン、ティンバーを殺せ」
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