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第二十三章 ケント=ハドリー
タイムリミット
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彼女の言葉に、私は短く問いかける。
「なぜ、そう思う?」
「アステ=ゼ=アーガメイトの『これはスカルペルの知識ではない』……一見、地球の知識を示唆しているように見えるけど、地球人にこれを作り上げられる知識はない」
「もちろんそれは知っている。だが、知恵――発想は借りられる」
「はっきり言うね。それでも無理よ。あんたの考えた数式は明らかに私たちや地球人の知識と知恵を大きく超えるもの。なにせ、古代人を殺せる滅びのナノマシンを防げるんだもん。だからこれは、古代人レベルの知識を持つ者にしか生み出せないもの」
「何が言いたい?」
「あんたは無意識に、古代人の情報領域とやらにリンクしていた可能性があると思うの」
「証拠は?」
「ない。でも、スカルペル人と地球人双方に生み出すことのできない知識となれば、古代人しかない。あんたの銀眼、あんたの知らない秘密があるんじゃないの?」
たしかにフィナの指摘通り、私はこの銀眼の力を見誤っていた。
私の認識では、少々肉体を強化できて、遠くのものが見える程度のもの。
だが実際は、セアたちの情報領域にアクセスができる力を持ち、彼らから力を借りられる能力を持っていた。
「そうだな。まだまだこの銀眼には秘密があるのかも。だが、今はわかることだけを話そう」
――
私は数式を父に披露したことにより、自分の有用性を示すことができた。
これにより、私はドハ研究所で居場所を確立し、さらに私にとって大きな転機となる出来事が起こる――。
「ケントよ」
「はい、アステ様」
「貴様の活躍はドハ内において目覚ましいものがある。私は才ある者を好む。よって、今日よりアーガメイトの名を名乗るがいい」
「え!?」
「今日から貴様は私の息子として生きろ」
「よろしいのですか?」
「貴様が好まぬと言えば、無理強いはせん」
「そ、そんな。ありがとうございます。僕はアステ様に認められて、とても嬉しいです!」
「アステ様はやめろ。父と呼ぶがいい」
「ち、ち……は、はい、父さんっ!」
私はアステ=ゼ=アーガメイトに認められ、息子となった。
研究所に勤めていた者たちも、私のことを認めてくれて、とても優しく接してくれた。
もっとも、他の研究員は父とは違い、元より幼い私に良くしてくれたが……。
アステ=ゼ=アーガメイトの息子となった私は、いよいよ自分が生み出した数式を使い、遺跡より発掘されたナノマシンを合成する機械で滅びを回避するナノマシンを製造する。
そしてそれをレイたちに投与。
ナノマシンに効果があり、彼らをポットから救い出すことができた。
――
「しかし、そのせいで彼らは勇者であることを強要されていくのだが……」
「兄さん、それは言いっこなしだよ。兄さんがいなければ私たちは今もポットの中か、最悪処分されていた。兄さんのおかげで、生きることを許されたんだ。ありがとう」
「そう言ってくれるのは嬉しい。だが、私のナノマシンは不完全だった。レイたちはすでに気づいているが、滅びのナノマシンを完全に止めることができなかったんだ。だからフィナ、話の後にレイの状態を見てほしい。君なら、彼らを救えるかもしれない」
「ふふ~ん、任せといて!」
フィナは大きな胸をより大きく見せつけるように胸を張った。
しかし、レイは頭を横に振りながら悲しい事実を口にする。
「それは、もういいよ……」
「レイ?」
「本当は黙っていようと思っていたけど、思った以上に滅びのナノマシンの活性化が強く、まるでがん細胞のように私たちの体を蝕んでいるんだ。王都はそれを隠しているようだけど、知り合いの宮廷錬金術師に見てもらい、彼の見立てでは、持ってあと四・五年。もう手の施しようがないってさ」
「馬鹿なっ! いくら私のナノマシンが不完全でも二十年以上は持つはずだ!!」
「うん、機密資料をこっそりのぞいた時に、ジクマ閣下率いる宮廷魔導師の見解を見つけたことがあるんだけど、彼らも当初は問題があっても二十年以上は持つと見ていたみたいだ。でも加速度的に滅びのナノマシンが活性化して……」
「なぜだ?」
「理由は強化のナノマシンの多用。あれにレスターの力を取り込むたびに、回避のナノマシンで眠ったはずの滅びのナノマシンにもレスターが伝播しているようなんだ。ここ最近は魔族たちの動きが活発だからどうしてもね」
「ならば、今すぐ多用をやめろっ。そうすれば、もう少し長生きできるはず!」
「それはできないよ、兄さん。私たちが休むということは、ヴァンナスが危機に晒されるということ。それは、多くの民衆が苦しむということ。だから、私たちは決めたんだ。残された僅かな時間を誰かを救うために使おうって」
「レイっ……」
それでもやめろ、と、レイに言葉をぶつけたかった。
だが、彼の瞳には私の説得など意味を為さない決意が宿っている。
彼らはすでに選択を終えている。自分の道をどう歩むか決めている。
私が口を挟む余地はない。
それでも……私は振り上げた言葉を納め、フィナヘ縋る。
「フィナ……」
「わかってる。タイムリミットは四年ね。何とかして見せる。レイ、あとで血液と細胞のサンプルをもらうよっ」
「二人とも……わかった、二人に私たちの希望を託すよ」
レイは私とフィナに微笑みを見せて、私たちは頷くことによって彼らの命を受け取った。
フィナは両手を腰に当てて、私へ顔を向ける。
「えっと、勇者が生まれたところで、話は終わりかな?」
「いや、もう少し話をさせてもらおう。父がドハ研究所を爆破するに至った理由までな。過去に戻った際に、過去の父から心に宿った思いを色々と聞いたんだ。それを話す必要がある……カインに」
カインは父の暴走により、大切な姪を二人失った。
彼にはそこへ至る経緯を知る権利がある。
カインへ顔を向ける。
彼は続く話に興味を示すだろうと思っていたが、口元を押さえ、一人、物思いに耽っていた。
「カイン?」
「え、何でしょうか、ケントさん?」
「今から、父がドハ研究所を爆破した理由を話そうと思っているんだが、あまり興味はないか?」
「えっ? もちろん、それはあります。アステさんから謝罪は受けましたが、どうして、あのような悲劇を産もうとしたのかは聞いていませんからっ」
「そうだろうな……何か、考え事をしていたようだが大丈夫か?」
「そうですね。僕が考えたことはあまりにも突飛な話。最後にお話しさせて貰える場を頂きたいです」
「それは構わないが……」
彼は私たちが気づかぬ何かに気づいているようだ。
その話は最後に聞くことにして、私は壊れゆく父の姿を語る。
「なぜ、そう思う?」
「アステ=ゼ=アーガメイトの『これはスカルペルの知識ではない』……一見、地球の知識を示唆しているように見えるけど、地球人にこれを作り上げられる知識はない」
「もちろんそれは知っている。だが、知恵――発想は借りられる」
「はっきり言うね。それでも無理よ。あんたの考えた数式は明らかに私たちや地球人の知識と知恵を大きく超えるもの。なにせ、古代人を殺せる滅びのナノマシンを防げるんだもん。だからこれは、古代人レベルの知識を持つ者にしか生み出せないもの」
「何が言いたい?」
「あんたは無意識に、古代人の情報領域とやらにリンクしていた可能性があると思うの」
「証拠は?」
「ない。でも、スカルペル人と地球人双方に生み出すことのできない知識となれば、古代人しかない。あんたの銀眼、あんたの知らない秘密があるんじゃないの?」
たしかにフィナの指摘通り、私はこの銀眼の力を見誤っていた。
私の認識では、少々肉体を強化できて、遠くのものが見える程度のもの。
だが実際は、セアたちの情報領域にアクセスができる力を持ち、彼らから力を借りられる能力を持っていた。
「そうだな。まだまだこの銀眼には秘密があるのかも。だが、今はわかることだけを話そう」
――
私は数式を父に披露したことにより、自分の有用性を示すことができた。
これにより、私はドハ研究所で居場所を確立し、さらに私にとって大きな転機となる出来事が起こる――。
「ケントよ」
「はい、アステ様」
「貴様の活躍はドハ内において目覚ましいものがある。私は才ある者を好む。よって、今日よりアーガメイトの名を名乗るがいい」
「え!?」
「今日から貴様は私の息子として生きろ」
「よろしいのですか?」
「貴様が好まぬと言えば、無理強いはせん」
「そ、そんな。ありがとうございます。僕はアステ様に認められて、とても嬉しいです!」
「アステ様はやめろ。父と呼ぶがいい」
「ち、ち……は、はい、父さんっ!」
私はアステ=ゼ=アーガメイトに認められ、息子となった。
研究所に勤めていた者たちも、私のことを認めてくれて、とても優しく接してくれた。
もっとも、他の研究員は父とは違い、元より幼い私に良くしてくれたが……。
アステ=ゼ=アーガメイトの息子となった私は、いよいよ自分が生み出した数式を使い、遺跡より発掘されたナノマシンを合成する機械で滅びを回避するナノマシンを製造する。
そしてそれをレイたちに投与。
ナノマシンに効果があり、彼らをポットから救い出すことができた。
――
「しかし、そのせいで彼らは勇者であることを強要されていくのだが……」
「兄さん、それは言いっこなしだよ。兄さんがいなければ私たちは今もポットの中か、最悪処分されていた。兄さんのおかげで、生きることを許されたんだ。ありがとう」
「そう言ってくれるのは嬉しい。だが、私のナノマシンは不完全だった。レイたちはすでに気づいているが、滅びのナノマシンを完全に止めることができなかったんだ。だからフィナ、話の後にレイの状態を見てほしい。君なら、彼らを救えるかもしれない」
「ふふ~ん、任せといて!」
フィナは大きな胸をより大きく見せつけるように胸を張った。
しかし、レイは頭を横に振りながら悲しい事実を口にする。
「それは、もういいよ……」
「レイ?」
「本当は黙っていようと思っていたけど、思った以上に滅びのナノマシンの活性化が強く、まるでがん細胞のように私たちの体を蝕んでいるんだ。王都はそれを隠しているようだけど、知り合いの宮廷錬金術師に見てもらい、彼の見立てでは、持ってあと四・五年。もう手の施しようがないってさ」
「馬鹿なっ! いくら私のナノマシンが不完全でも二十年以上は持つはずだ!!」
「うん、機密資料をこっそりのぞいた時に、ジクマ閣下率いる宮廷魔導師の見解を見つけたことがあるんだけど、彼らも当初は問題があっても二十年以上は持つと見ていたみたいだ。でも加速度的に滅びのナノマシンが活性化して……」
「なぜだ?」
「理由は強化のナノマシンの多用。あれにレスターの力を取り込むたびに、回避のナノマシンで眠ったはずの滅びのナノマシンにもレスターが伝播しているようなんだ。ここ最近は魔族たちの動きが活発だからどうしてもね」
「ならば、今すぐ多用をやめろっ。そうすれば、もう少し長生きできるはず!」
「それはできないよ、兄さん。私たちが休むということは、ヴァンナスが危機に晒されるということ。それは、多くの民衆が苦しむということ。だから、私たちは決めたんだ。残された僅かな時間を誰かを救うために使おうって」
「レイっ……」
それでもやめろ、と、レイに言葉をぶつけたかった。
だが、彼の瞳には私の説得など意味を為さない決意が宿っている。
彼らはすでに選択を終えている。自分の道をどう歩むか決めている。
私が口を挟む余地はない。
それでも……私は振り上げた言葉を納め、フィナヘ縋る。
「フィナ……」
「わかってる。タイムリミットは四年ね。何とかして見せる。レイ、あとで血液と細胞のサンプルをもらうよっ」
「二人とも……わかった、二人に私たちの希望を託すよ」
レイは私とフィナに微笑みを見せて、私たちは頷くことによって彼らの命を受け取った。
フィナは両手を腰に当てて、私へ顔を向ける。
「えっと、勇者が生まれたところで、話は終わりかな?」
「いや、もう少し話をさせてもらおう。父がドハ研究所を爆破するに至った理由までな。過去に戻った際に、過去の父から心に宿った思いを色々と聞いたんだ。それを話す必要がある……カインに」
カインは父の暴走により、大切な姪を二人失った。
彼にはそこへ至る経緯を知る権利がある。
カインへ顔を向ける。
彼は続く話に興味を示すだろうと思っていたが、口元を押さえ、一人、物思いに耽っていた。
「カイン?」
「え、何でしょうか、ケントさん?」
「今から、父がドハ研究所を爆破した理由を話そうと思っているんだが、あまり興味はないか?」
「えっ? もちろん、それはあります。アステさんから謝罪は受けましたが、どうして、あのような悲劇を産もうとしたのかは聞いていませんからっ」
「そうだろうな……何か、考え事をしていたようだが大丈夫か?」
「そうですね。僕が考えたことはあまりにも突飛な話。最後にお話しさせて貰える場を頂きたいです」
「それは構わないが……」
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