217 / 359
第十九章 暗闘
とても短い交渉
しおりを挟む
ノイファンの屋敷の会議室。
私以外の仲間たちは別室へ。
しかし、フィナがこっそりと青いナルフを部屋の隅に潜ませて、別室で会議の様子を聞いている。
会議室には机が四脚、四角の形に配置され、私とエメルは左右に相対するように座る。
場を提供したノイファンと調停官であるレイが上座に座り、下座には半島の有力種族代表のマスティフとマフィンが座った。
まず、エメルがアグリスの正当性を主張して、カリスを返還するように求める。
それを私が拒否する。
「ふひ、これは明らかな違法であり、拉致行為。さらには宗教騎士団への不法な戦闘行為。ですが、こちらとしては武力による解決を望んでおらず、トーワが拉致を認め、無条件で我が民であるカリスの返還をしていただければ、今回の件は不問としましょう」
「トーワとして、その条件は飲めない。彼らは難民であり保護を求めている。実際にアグリスでは不当とも呼べる階級制度が敷かれ、カリスの待遇は熾烈を極まる。人道的見地からこれを看過できない」
「ふひひ、なるほどなるほど。アグリスとしてはかなりの譲歩のつもりでしたが、お受けにならないと?」
「譲歩? それは異になることを。武力による解決を望んでいないと仰ったが、すでにアグリスの門前には武装した兵士が配置され、さらには街道にも配置されている。すでにアグリスに話し合いの余地などなく、トーワへ武力制圧の準備を行っているのではありませんか?」
私のこの言葉に対して、マフィンも同様の懸念を伝える。
「トーワを擁護するつもりじゃにぇが、半島側の森近くに警備隊ならいざ知らず、アグリスの軍が出張ってきてんのは、キャビットとしても穏やかじゃいられにぇ~ニャあ」
「んっふっふっふ、それは誤解というもの。兵は現在災害に見舞われ復興中のカルポンティへ対して物資を搬入するための警備です。なにせ、街道には盗賊が出没していますから……ですが、誤解が生じているようですので、兵は下げ、警備隊のみにしましょう」
にこりと笑って、エメルは私を見る。私も笑顔で応える。
「ふふ、そうですか。では、こちらは難民であるカリスに意志を尋ね、アグリスに戻るという者があればその一覧を纏め、アグリスにお渡しいたしましょう」
「んふふふふふふふ、そうですかっ。それでは、良しなに。調停官殿、交渉はこれにて終了となりますが」
「…………そうですか。トーワもよろしいのですか?」
「構いません」
この返しに、レイは少し眉を折るがすぐに戻して、交渉の終了を宣言した。
エメルは席を立つと同時に、レイやノイファン、マスティフ、マフィンに話しかけつつ、私をちらりと見た。
「では、新たな議題について話し合いを行いたいのですが? なにせ、半島に属する有力者たちが一堂に介する機会はそうそうありませんから、これを機会に少々。さらには、レイ様とはアグリスとの魔族対策に関するお話もありますからね。ケント様はもうお帰りに?」
「ええ、もうお話しすることはありません。失礼させていただく」
――別室
別室で会議の様子に聞き耳を立てていたエクアとフィナは拍子抜けをしていた。
「なんだか、あっさり話し合いが終わりましたね。もっと激しいやり取りがあると思ったんですが、終始穏やかで」
「そうね。アグリスは兵の準備をやめて、トーワは表向き帰還者を募る。これでお互いに譲歩したつもり? 政治って、なんだかわかんないね」
と、二人が会議の一幕に対してありのままの感想を述べる中で、親父は穏やかな空気に隠された鋭利な刃に震えを見せていた。
「違うぜ、嬢ちゃんら。今の話し合いで…………トーワとアグリスの戦争が決まっちまったんだ!」
私以外の仲間たちは別室へ。
しかし、フィナがこっそりと青いナルフを部屋の隅に潜ませて、別室で会議の様子を聞いている。
会議室には机が四脚、四角の形に配置され、私とエメルは左右に相対するように座る。
場を提供したノイファンと調停官であるレイが上座に座り、下座には半島の有力種族代表のマスティフとマフィンが座った。
まず、エメルがアグリスの正当性を主張して、カリスを返還するように求める。
それを私が拒否する。
「ふひ、これは明らかな違法であり、拉致行為。さらには宗教騎士団への不法な戦闘行為。ですが、こちらとしては武力による解決を望んでおらず、トーワが拉致を認め、無条件で我が民であるカリスの返還をしていただければ、今回の件は不問としましょう」
「トーワとして、その条件は飲めない。彼らは難民であり保護を求めている。実際にアグリスでは不当とも呼べる階級制度が敷かれ、カリスの待遇は熾烈を極まる。人道的見地からこれを看過できない」
「ふひひ、なるほどなるほど。アグリスとしてはかなりの譲歩のつもりでしたが、お受けにならないと?」
「譲歩? それは異になることを。武力による解決を望んでいないと仰ったが、すでにアグリスの門前には武装した兵士が配置され、さらには街道にも配置されている。すでにアグリスに話し合いの余地などなく、トーワへ武力制圧の準備を行っているのではありませんか?」
私のこの言葉に対して、マフィンも同様の懸念を伝える。
「トーワを擁護するつもりじゃにぇが、半島側の森近くに警備隊ならいざ知らず、アグリスの軍が出張ってきてんのは、キャビットとしても穏やかじゃいられにぇ~ニャあ」
「んっふっふっふ、それは誤解というもの。兵は現在災害に見舞われ復興中のカルポンティへ対して物資を搬入するための警備です。なにせ、街道には盗賊が出没していますから……ですが、誤解が生じているようですので、兵は下げ、警備隊のみにしましょう」
にこりと笑って、エメルは私を見る。私も笑顔で応える。
「ふふ、そうですか。では、こちらは難民であるカリスに意志を尋ね、アグリスに戻るという者があればその一覧を纏め、アグリスにお渡しいたしましょう」
「んふふふふふふふ、そうですかっ。それでは、良しなに。調停官殿、交渉はこれにて終了となりますが」
「…………そうですか。トーワもよろしいのですか?」
「構いません」
この返しに、レイは少し眉を折るがすぐに戻して、交渉の終了を宣言した。
エメルは席を立つと同時に、レイやノイファン、マスティフ、マフィンに話しかけつつ、私をちらりと見た。
「では、新たな議題について話し合いを行いたいのですが? なにせ、半島に属する有力者たちが一堂に介する機会はそうそうありませんから、これを機会に少々。さらには、レイ様とはアグリスとの魔族対策に関するお話もありますからね。ケント様はもうお帰りに?」
「ええ、もうお話しすることはありません。失礼させていただく」
――別室
別室で会議の様子に聞き耳を立てていたエクアとフィナは拍子抜けをしていた。
「なんだか、あっさり話し合いが終わりましたね。もっと激しいやり取りがあると思ったんですが、終始穏やかで」
「そうね。アグリスは兵の準備をやめて、トーワは表向き帰還者を募る。これでお互いに譲歩したつもり? 政治って、なんだかわかんないね」
と、二人が会議の一幕に対してありのままの感想を述べる中で、親父は穏やかな空気に隠された鋭利な刃に震えを見せていた。
「違うぜ、嬢ちゃんら。今の話し合いで…………トーワとアグリスの戦争が決まっちまったんだ!」
0
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる