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第十一章 世界とトーワと失恋
結末はわかっていますが
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――トーワ城一階広間・エクア
ケント様が居なくなってしまったので、私たちが代わりにグーフィスさんのお相手をすることになりました。
ゴリンさんは邪な理由で仕事に来たことを怒っていましたが、それをギウさんと親父さんが宥めて、グーフィスさんの相談に乗ります。
まず、私はグーフィスさんの気持ちについて尋ねました。
「グーフィスさんはかなり落ち込んでいらっしゃいましたよね。そこにフィナさんからひどい仕打ちを受けたのに、どうしてフィナさんのことを?」
「あ~、それはなんて言っていいかなぁ。恋人に裏切られ、酒に溺れていた俺を、フィナさんはとても優しく活を入れてくれたのがうれしくてよぅ」
「優しくですか……思いっきり蹴っ飛ばされて、脅されていたような……」
「傍目はそうかもしれねぇが。だけど、俺にはわかる。あの人の中に宿る優しさが……」
「えっと……」
私はギウさんと親父さんとゴリンさんに視線を振ります。
「ぎう……」
「盲目というやつでしょうな」
「はぁ、若い奴はすぐに目が曇りやがる」
「ど、どうします?」
「ほっといていいんじゃねぇのかな? エクアの嬢ちゃんが気にかけるような話じゃねぇでしょ」
「そうそう、エクアちゃんが関わるような話じゃねぇって。勝手に爆死させときゃぁいい」
「ギウギウッ」
「でも皆さん、このままフィナさんに突っ込んでいったら、グーフィスさん死んじゃうかも、ですよ……」
「「「…………」」」
皆さんから返事が戻ってきません。
それはグーフィスさんの恋には悲しい結末しかないことがわかっているから……。
とにかく、皆さんと相談し、一つの結論を出しました。
それは、グーフィスさんに心強くあってもらうことです。
「グーフィスさん。結果はどうあれ、フィナさんはかなり厳しい言葉や態度を見せると思います。ですので、どんなに辛くても、心を強く保ってください」
「わかってるぜ、エクアさん。あの方は強い女性だ。だから、俺も強くねぇとな!」
「どうしよう、わかっているようでわかってない。ともかく、一筋縄でいくような方ではないということはわかってくださいね!」
「おう、任せとけ!!」
ドンっと、グーフィスさんは自分の胸を叩きます。
私は両手で顔を覆って、言葉を薄く漏らすことしかできません。
「どうして、こんなに自信満々なんですか、この人……」
「エクアの嬢ちゃん。こいつはもう、突撃させてから死体を拾うしかないですぜ」
「はぁ、目の前で命を絶とうとしている人を救えないことがこんなにも辛いことなんて……わかりました。どうせ死を迎えるなら、伝えるべきことだけは伝えられるようにしましょう。グーフィスさん!」
「う、うん? なんだい?」
「フィナさんに回りくどいことは通用しません。ど~んと気持ちをぶつけてください!」
「お、おう。どーんとな! そうだなっ、そうだよな! 男なら気持ちをはっきり伝えないとなっ!」
グーフィスさんはなぜか晴れ晴れとした表情で両手を広げ、天井を仰ぎ見ています。
これから死の淵に向かう人の姿には見えません。
私は親父さんとゴリンさんに声を掛けます。
「あの、親父さんとゴリンさん」
「どうした?」
「どうしやした?」
「遺体の収容をよろしくお願いします。私は子どもなので、お酒には付き合えませんので」
「うぐっ」
「おおぅ、まっずい酒になりそうでやすな……あの、ギウさんは?」
「ギウ!? ぎう、ぎううぎう……」
「お酒は飲めない、と? それ、絶対うそでやしょ!」
「ギウッ!」
ギウさんはそっぽを向いて、尾っぽをこっちに向けています。
このありさまを見て、親父さんがポツリと言葉を落としました。
「なんて面倒な。旦那が逃げ出すはずだ……」
ケント様が居なくなってしまったので、私たちが代わりにグーフィスさんのお相手をすることになりました。
ゴリンさんは邪な理由で仕事に来たことを怒っていましたが、それをギウさんと親父さんが宥めて、グーフィスさんの相談に乗ります。
まず、私はグーフィスさんの気持ちについて尋ねました。
「グーフィスさんはかなり落ち込んでいらっしゃいましたよね。そこにフィナさんからひどい仕打ちを受けたのに、どうしてフィナさんのことを?」
「あ~、それはなんて言っていいかなぁ。恋人に裏切られ、酒に溺れていた俺を、フィナさんはとても優しく活を入れてくれたのがうれしくてよぅ」
「優しくですか……思いっきり蹴っ飛ばされて、脅されていたような……」
「傍目はそうかもしれねぇが。だけど、俺にはわかる。あの人の中に宿る優しさが……」
「えっと……」
私はギウさんと親父さんとゴリンさんに視線を振ります。
「ぎう……」
「盲目というやつでしょうな」
「はぁ、若い奴はすぐに目が曇りやがる」
「ど、どうします?」
「ほっといていいんじゃねぇのかな? エクアの嬢ちゃんが気にかけるような話じゃねぇでしょ」
「そうそう、エクアちゃんが関わるような話じゃねぇって。勝手に爆死させときゃぁいい」
「ギウギウッ」
「でも皆さん、このままフィナさんに突っ込んでいったら、グーフィスさん死んじゃうかも、ですよ……」
「「「…………」」」
皆さんから返事が戻ってきません。
それはグーフィスさんの恋には悲しい結末しかないことがわかっているから……。
とにかく、皆さんと相談し、一つの結論を出しました。
それは、グーフィスさんに心強くあってもらうことです。
「グーフィスさん。結果はどうあれ、フィナさんはかなり厳しい言葉や態度を見せると思います。ですので、どんなに辛くても、心を強く保ってください」
「わかってるぜ、エクアさん。あの方は強い女性だ。だから、俺も強くねぇとな!」
「どうしよう、わかっているようでわかってない。ともかく、一筋縄でいくような方ではないということはわかってくださいね!」
「おう、任せとけ!!」
ドンっと、グーフィスさんは自分の胸を叩きます。
私は両手で顔を覆って、言葉を薄く漏らすことしかできません。
「どうして、こんなに自信満々なんですか、この人……」
「エクアの嬢ちゃん。こいつはもう、突撃させてから死体を拾うしかないですぜ」
「はぁ、目の前で命を絶とうとしている人を救えないことがこんなにも辛いことなんて……わかりました。どうせ死を迎えるなら、伝えるべきことだけは伝えられるようにしましょう。グーフィスさん!」
「う、うん? なんだい?」
「フィナさんに回りくどいことは通用しません。ど~んと気持ちをぶつけてください!」
「お、おう。どーんとな! そうだなっ、そうだよな! 男なら気持ちをはっきり伝えないとなっ!」
グーフィスさんはなぜか晴れ晴れとした表情で両手を広げ、天井を仰ぎ見ています。
これから死の淵に向かう人の姿には見えません。
私は親父さんとゴリンさんに声を掛けます。
「あの、親父さんとゴリンさん」
「どうした?」
「どうしやした?」
「遺体の収容をよろしくお願いします。私は子どもなので、お酒には付き合えませんので」
「うぐっ」
「おおぅ、まっずい酒になりそうでやすな……あの、ギウさんは?」
「ギウ!? ぎう、ぎううぎう……」
「お酒は飲めない、と? それ、絶対うそでやしょ!」
「ギウッ!」
ギウさんはそっぽを向いて、尾っぽをこっちに向けています。
このありさまを見て、親父さんがポツリと言葉を落としました。
「なんて面倒な。旦那が逃げ出すはずだ……」
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