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第九章 危機と頼れる友たち

ケントの一端

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 フィナは紫が溶け込む蒼色の瞳で私の銀眼を覗き込む。


「雰囲気を壊すようで悪いけど、今は二人っきり。だから、聞きたいことがある」
「魔族との戦いのときに見せた銀眼のことだな? 返す言葉は……言えない、だ」
「そういうと思った。でも、その力、勇者の力と同じものだよね? あんたのは遥かに弱いけど」

「……なぜ、そう思う?」
「以前、ちょっとだけ勇者の一人と関わることがあって、その時に勇者の力の発動を見たことがあるの。それが、魔族と対峙したときのケントの雰囲気に似てた」

「そうか……」
「もし、勇者と同じ力なら、あんたは地球人の末裔ってことになるよね?」
「残念ながら、それは違う。彼らはそうであっても、私は違うんだ」
「それじゃあ、勇者の力を宿すあんたは何者なの?」

 この問いに答える術を知っている。だが、答えるわけにはいかない。
 それでも、命の恩人たる少女に小さく扉を開く。


「私は彼らとは少し違う。彼らは囚われ人。私は自由。そして、私も彼らも『君たち』の敵ではない。同じ心ある存在と信じている。いや、信じたい。『君たち』が私たちをどう感じるかはわからないが……」

「前半部分は意味不明だけど、途中の『君たち』って? まさか、あんたってスカルペル人じゃないの? いえ、私たちってことは勇者も? あ、勇者は地球人の末裔だからそういった表現でもおかしくないか。でも、言葉の響きに引っ掛かりが……つまり、どういうことよ!?」

「そうだな、難しい話だ。あえて、言葉で表すならば、私も彼らも地球人であり古代人でありスカルペル人であり、そして、どの世界の何者でもない存在。特に私はな」

「ええっと、地球人であるけど古代人でスカルペル人? でも、あんたは勇者の末裔とは関係なくて、今の勇者たちは末裔で、両方とも何者でもない? あんたは勇者以上に? ちょっと、謎めいたことばっか言ってややこしくしないでよ!」

「あはは、情報は時に混乱を呼ぶ。いや、君を混乱させたいんだ」
「どうしてよっ?」
「怖いからだ。全てを伝えることが」


 私は片手を胸元まで上げて、指を広げる。
 指先は意思とは無関係に小刻みに震える。
 その震えを瞳に納めたフィナは、これ以上の問いを発することはなかった。

 彼女はチロルハットを深く被りなおして、気分を変える。
 そして、いつもの様子で声を出した。
 だから――私もいつもの自分に戻る。


「ふん、まぁいいや。この話はポイして、私、ゴリンとちょっと話してくるよ。あんたの代わりにね」
「ん、何をだ?」
「ええ~、忘れたの? 医者よ医者。医者がここに来るんでしょ。部屋を用意してもらわないと」
「ああ、そうだったな。でも、どうして君が?」
「さっきの今じゃ、ゴリンに頼みにくいでしょ。だから代わりに伝えといてあげる」
「そういうことか、ありがとうフィナ」
「ふふん、どういたしまして。それじゃ、今日のところはこれで勘弁してあげる。じゃねっ」


 フィナは手を軽く振るって……ぴょこんと二階から飛び降りた。
 できれば、ちゃんと階段を使って欲しい。

 
 一人残された私は、心に言葉を広げる。

(私にもわからないことがあるんだ、フィナ。初代の勇者たちは地球人であり、己の肉体のみで勇者として名を馳せた。だがある日、その末裔たちに、古代人の力が宿った……なぜ、スカルペル人に宿らず、地球人の血を引く者たちに宿ったのかは謎。その力は彼らを強固にするが、それ以上に命を蝕むもの。そしてそれは、私の銀の瞳にも宿っている)


 風が頬を撫でる。
 撫でられた頬に手を当てて、沈みゆく太陽を銀の瞳に映す。

(だが、私は地球人ではない。古代人でもない。スカルペル人でもない。人ですらない。それなのに、地球人であり、スカルペル人であり、古代の力の一端を持つ、異端の存在……)

「私の正体を知れば、人はこう呼ぶだろうな…………化け物、と」
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