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第三章 アルリナの影とケントの闇

微妙な銀の瞳の力

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――路地裏


 屈強な男たちと揉めていた少女を背に預かり、彼らと対峙する。
 私は背後にいる少女へ声を掛ける。

「もっと奥へ」
「で、でもっ。あなたにご迷惑が!」
「もう、その問答は越えている。彼らが勝つが私が勝つかの状況だ。少しでも勝率を上げるために、私から離れていてくれ」
「……はい」

 少女は小さく頷き、路地裏の奥にあった木箱の裏に隠れた。
 彼女の安全を確認して、男三人の前に立つ。

「さて、退き気はないな?」
「アホかよ、てめぇは。てめぇが泣こうが叫ぼうが、ぶっ殺す決定なんだよ。殺すぞ!」
「殺すぞ、殺すぞ、殺すぞ……もう少し、語彙力を養ったらどうだ?」
「ごい、なんだ?」
「何でもない。さぁ、かかってこい」


 私は銀に輝く瞳に力を籠める。
 瞳は思いに応え、淡い白光を宿した。
 男たちは瞳の変化に警戒を生む。

「な、なんだよ。目を光らせやがって。きっもちわりぃな」
「ああ、私もそう思う。生まれつきとはいえ、時々嫌になることがあるよ」
「何言ってんだ? おい、どうだ? 俺は何も感じねぇけど、お前らは?」
 
 小柄な戦士は他の二人に話しかける。二人の戦士は……。
「隊長の言うとおり、別に魔力の大きな変動は感じないな」
「そいつの気配も大したもんじゃないし、はったりじゃね? それで、こいつどうするよ、隊長?」」
「どうするって、決まってるだろ。俺がぶっ殺すわ」

 隊長と呼ばれた小柄な戦士が意気揚々と前に出てきて殴りかかってきた。
 私はそれをひらりと躱す。


「チッ、よけるんじゃねぇ~よ。殺すぞ」
 男は何度も殴りかかってくるが、彼の拳は私をかすめることすらない。
 それは、この力の宿る銀眼に彼の動きがはっきりと映っているからだ。
 男は苛立った声を上げながら拳を振り回す。

「くそ、ちょこまかと! 殺すぞ!」
「フフ、私の瞳には特別な力が宿っていてね、お前程度の動きなら造作もなく避けることができる」
「んだとぉぉぉぉ!?」

 男は雄叫びを上げて、さらに素早く拳を振り回すが私に当たることはない。
 だが、私は彼の動きを見ながら内心では冷や汗をかいていた。
(思ったより手強い。傭兵を生業にしているだけはある。腕前は王都の小隊長クラスほどか。だが、これならば、ギリギリやり合えるな……)


 私の持つ、この銀の瞳には不可思議な力が宿っている。
 遠くにあるものを見ることができて、素早い動きに対応できる。
 しかし、瞳に力を宿した状態でも身体機能そのものは僅かに向上する程度。
 相手の動きが一流の戦士であれば動きは見えていても体が対応できずに、あっさり殴り飛ばされていた。


(さて、問題は攻撃を避けることができても、こちらからの攻撃はいまいちというところだな)
 男の動きをさっと躱して、右拳で彼の頬を殴りつけた。

「ってなぁ、てめぇ!! 殺すぞ!」
 男は殴られた頬を軽く擦って、構えを取り直す。
 彼の様子から、ほとんどダメージを負っていないようだ。

(やはり、私の腕力では一発で相手を格好良くのすことはできない。それどころか、殴ったこっちの手が痛い。一流ではなくとも、傭兵らしく私なんかよりも丈夫だな)
 私は殴りつけた右拳をプラプラと振る。

 一方、男は私を鋭く一睨みして、面倒そうに腰に差してある剣の柄に手を置いた。
 背後にいる二人の男も剣に手を置く。
 木箱に身を隠す少女は緊張に喉を鳴らす。
 私は張り詰めた声色で、彼らに問いかける。


「剣を、抜くのか?」
「ああ、てめえがしつけぇから、こうなるんだよ」
「そうか。ならば、こちらも武器を使わせてもらう」

 私はベルトに挟んである銃に手を置いた。
(さすがに命を取るのはやり過ぎか……上手く、肩のあたりを狙えればいいが)
 弾数が六発しかないため、もったいなく試し撃ちなどはしていない。
 また、生まれて一度も銃を撃ったことがない。
 そのため、狙った的を射抜く自信はなかった。

(対象との距離は近いため、外すことはないと思うが……一発、威嚇で空に向けて撃ってみるか?)
 彼らに銃の脅威が伝わるかは疑問だが、まずは威嚇射撃を試みようとした。

 そこに、彼が訪れる。


「ギウギウ?」
 ギウが路地裏に姿を現したのだ。
 彼は路地裏に入ったきり出てこない私を心配して来てくれたようだ。

「ギウ? ギ~ウ、ギウッ」
 彼は路地裏を見回して、状況を把握。
 銛を強く握りしめて、気配をがらりと変えた。
 それは普段のおっとりしているギウからは想像できない姿。

 彼は銛を構え、静けさを纏う。
 その姿に、怯えを見せる戦士たち……。

「な、な、なんでギウが?」
「ど、どうするよ、隊長? ギウなんて相手にしたら」
「俺たちだけじゃ敵わねぇぞ!」

 この三人の動揺ぶり。私の想像よりもギウはかなりの実力者のようだ。
 しかし、小柄な戦士は怯えを無理やり抑え込み、剣を引き抜いてギウに構えた。


「ああん! ビ、ビビんなよ。ギウと言っても一人! こっちは三人だ! だろ!?」
 男は剣を震わせながら、ギウを睨みつける。
 ギウはというと、軽く息をついて、銛を動かした。
 その突きの鋭さは銀の瞳を持つ私以外、見ることは叶わなかったであろう。
 剣を構えていた男は、突きの素早い動きによって巻き起こった風に目をぱちくりしている。

「な、なんだ?」
 男が身体を少し動かす。
 すると、手にしていた剣が砂塵のようにさらさらと崩れ落ちてしまった。


 この現象には突きの動きが見えていた私も驚く!?

(な、に? 何が起こった? ギウは剣を突いたが、その剣が塵になるなんて……?)

 皆が一様に驚く中で、ギウは銛を回転させて、肩……エラの部分に銛の柄を置いた。
 そして、体を揺すって、男たちに立ち去れと示す。

「くそ、なめやがって。殺すぞ!」
「やめとこうぜ、隊長。この人数じゃギウには敵わねぇよ」
「ここは一旦退こうぜ」
「……チッ、くそぉ、お前ら覚えていやがれ!」

 男たちは何のオリジナリティもない捨て台詞を残してこの場から逃げ去った……。
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