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第二章 たった二人の城
高いっ
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東門を通り抜け、アルリナの町を歩く。
その途中で、聞き覚えのある胡散臭い親父の声が飛んできた。
「そこの銀目の兄さん。いや、領主のケントの旦那!」
「その声は、土産屋の親父か?」
声に顔を向けると、銃を売っていた親父がござの上に商品を並べて、いかつい顔に仏頂面の仮面を被っていた。
親父は私のそばに立つギウをちらりと見る。
「おや? ギウが一緒とはぁ、珍しいこともあるもんだ」
「珍しい?」
「ギウはあまり他の種族と関わることがないもんで」
「そうなのか?」
「ま、そんなことよりも、旦那……古城トーワの領主様だったんですね?」
「まぁ、そうだが」
「身分を隠して買い物たぁ、完全にやられましたよ」
「別にそのようなつもりは……」
「なにより、その『銃』! 随分と貴重な物だそうじゃないですか!」
「ああ~、なるほど。それで不機嫌なのか」
どうやら、親父は銃の価値に気づいたようだ。
彼は私が貴重な品と知りながら、安価で購入したことに腹を立てている様子。
「ったく、領主様と知っていれば、もっと吹っ掛けて、他にも色々売りつけてやったのに! それどころか、商品を買い叩かれるとは!」
「別に買い叩いてはいないだろう。親父さんが自分で値付けをして売っただけだしな」
「こっちが価値を知らないことに付け込んだんでしょうがっ」
「それは商売人として商品の価値を見抜けなかった親父さんの落ち度だ。それに逆の立場なら、親父さんだって付け込むだろう」
「ググ~、まぁ、そうですがね。旦那、若くて見た目は人が好さそうだけど、腹の中身は中々ですな」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておこう。しかし、親父さんこそ私を領主と知っても、あまり態度を変えないのは中々だな」
「旦那がそういうことに拘らないお人だってのは分かりまさぁ」
親父は無精ひげをジョリっと撫で、笑顔を見せる。
「ふふふ、人を見る目には自信あり、といったところか。できれば、商品を見る目もあれば良かったんだろうがな」
「そんな皮肉はいいですから、何か買っていってくださいよ。前回良い品を安く手に入れたんだから、その礼として」
「何の礼なんだ? だいたい、親父さんの扱う商品は土産物が多く、今の私に必要のない物ばかり。だから、別にいらんよ」
「そんな~」
「ま、そういうことだ。行こう、ギウ」
と、ギウを呼びかけるが反応がない。
隣に立つギウに顔を向けると、彼は金の模様が複雑に絡み合うガラスの花瓶を見つめていた。
その姿は完全に花瓶に魅入られている。
これはいけないと、彼に声を掛けようとしたが、親父さんが指をパチリと跳ねて私の声をだみ声で覆い隠した。
「さすが、ギウ! お目が高い。この花瓶はランゲン国の王が貴族に贈った品でね。ヴァンナス国に滅ぼされてからは貴重な品になってんだ。金の模様はもちろんっ、本物の金が使ってある。ガラスもあのトロッカー産! 貴重に貴重を組み合わせた最高の一品だよ!」
「ギウウ~」
ギウが唸り声を上げながら、真剣な表情でガラスの花瓶を見ている。
このままではお高そうな花瓶を購入させられてしまう。
「ギウ、まずは必要な物を購入してからだ。わかるな?」
「ギウ、ギウギウギウ!」
「たしかに花瓶を購入する話はしたが、何もあのような高そうなものを」
「ギウ、ギウ!」
「まず値段を聞け? わかった、尋ねてみよう。親父さん、それはいくらなんだ?」
「おや、旦那はギウの言葉がわかるんで?」
「いや、なんとなくわかっているだけだ。それでいくらだ?」
「二五万ジユ」
「高いっ!」
「いやいやいや、旦那は貴族様でしょう? 二五万ぐらいポンとっ」
「出せない貴族もいるんだ。だいたい、花瓶が二五万は高すぎるだろう」
「何を言ってんですか? こんな貴重な品がたったの二五万ですぜ」
「その花瓶が本当に貴重かどうかは親父さんが勝手に言っているだけだろ。ランゲン国の王が貴族に贈ったなんて話、胡散臭い」
「話を胡散臭く感じて結構。ですがね、模様に金が使われているのは事実。ガラスがトロッカー産なのも事実ですぜ!」
「そうだとしても二五万は……ギウ、さすがにこれは高すぎる」
彼は私の台所事情を知っている。花瓶の値段を知れば退いてくれるだろう……と思ったが……。
「ギウギウギ~ウ」
「何、花瓶は何個も購入するものじゃないから、多少高くてもいいだろう? いや、それでも高すぎる」
「ギウギウ」
「貴重な品の方が大事にする? その理屈はわからないでもないが……たかが花を生けるだけのガラス瓶に二五万は……」
「ギウギウギウウウ~」
「はぁ~、旦那はわかってませんなぁ」
「二人して、何がだ?」
「ギウギウウ」
「お土産って~のは、印象深い方がいいもんでしょう。これ、銃を購入したときに旦那が言った言葉ですぜ」
「クッ、たしかに言ったが」
まさかの二対一。ギウと親父さんはまるで互いをわかり合っているかのように連携してくる。
状況は圧倒的に不利。
このままでは敗北必死。ならば、少しでも被害を抑える選択肢しかない。
「わ、わかった。購入しよう。だが、少しまけてくれ!」
「もちろんですよ。多少は勉強させていただきます。やりましたな、ギウ!」
「ギウギウ!」
二人は仲良さげにハイタッチをしている。
そんな二人を横目に、私は苦虫を嚙み潰したような顔を見せていた。
その途中で、聞き覚えのある胡散臭い親父の声が飛んできた。
「そこの銀目の兄さん。いや、領主のケントの旦那!」
「その声は、土産屋の親父か?」
声に顔を向けると、銃を売っていた親父がござの上に商品を並べて、いかつい顔に仏頂面の仮面を被っていた。
親父は私のそばに立つギウをちらりと見る。
「おや? ギウが一緒とはぁ、珍しいこともあるもんだ」
「珍しい?」
「ギウはあまり他の種族と関わることがないもんで」
「そうなのか?」
「ま、そんなことよりも、旦那……古城トーワの領主様だったんですね?」
「まぁ、そうだが」
「身分を隠して買い物たぁ、完全にやられましたよ」
「別にそのようなつもりは……」
「なにより、その『銃』! 随分と貴重な物だそうじゃないですか!」
「ああ~、なるほど。それで不機嫌なのか」
どうやら、親父は銃の価値に気づいたようだ。
彼は私が貴重な品と知りながら、安価で購入したことに腹を立てている様子。
「ったく、領主様と知っていれば、もっと吹っ掛けて、他にも色々売りつけてやったのに! それどころか、商品を買い叩かれるとは!」
「別に買い叩いてはいないだろう。親父さんが自分で値付けをして売っただけだしな」
「こっちが価値を知らないことに付け込んだんでしょうがっ」
「それは商売人として商品の価値を見抜けなかった親父さんの落ち度だ。それに逆の立場なら、親父さんだって付け込むだろう」
「ググ~、まぁ、そうですがね。旦那、若くて見た目は人が好さそうだけど、腹の中身は中々ですな」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておこう。しかし、親父さんこそ私を領主と知っても、あまり態度を変えないのは中々だな」
「旦那がそういうことに拘らないお人だってのは分かりまさぁ」
親父は無精ひげをジョリっと撫で、笑顔を見せる。
「ふふふ、人を見る目には自信あり、といったところか。できれば、商品を見る目もあれば良かったんだろうがな」
「そんな皮肉はいいですから、何か買っていってくださいよ。前回良い品を安く手に入れたんだから、その礼として」
「何の礼なんだ? だいたい、親父さんの扱う商品は土産物が多く、今の私に必要のない物ばかり。だから、別にいらんよ」
「そんな~」
「ま、そういうことだ。行こう、ギウ」
と、ギウを呼びかけるが反応がない。
隣に立つギウに顔を向けると、彼は金の模様が複雑に絡み合うガラスの花瓶を見つめていた。
その姿は完全に花瓶に魅入られている。
これはいけないと、彼に声を掛けようとしたが、親父さんが指をパチリと跳ねて私の声をだみ声で覆い隠した。
「さすが、ギウ! お目が高い。この花瓶はランゲン国の王が貴族に贈った品でね。ヴァンナス国に滅ぼされてからは貴重な品になってんだ。金の模様はもちろんっ、本物の金が使ってある。ガラスもあのトロッカー産! 貴重に貴重を組み合わせた最高の一品だよ!」
「ギウウ~」
ギウが唸り声を上げながら、真剣な表情でガラスの花瓶を見ている。
このままではお高そうな花瓶を購入させられてしまう。
「ギウ、まずは必要な物を購入してからだ。わかるな?」
「ギウ、ギウギウギウ!」
「たしかに花瓶を購入する話はしたが、何もあのような高そうなものを」
「ギウ、ギウ!」
「まず値段を聞け? わかった、尋ねてみよう。親父さん、それはいくらなんだ?」
「おや、旦那はギウの言葉がわかるんで?」
「いや、なんとなくわかっているだけだ。それでいくらだ?」
「二五万ジユ」
「高いっ!」
「いやいやいや、旦那は貴族様でしょう? 二五万ぐらいポンとっ」
「出せない貴族もいるんだ。だいたい、花瓶が二五万は高すぎるだろう」
「何を言ってんですか? こんな貴重な品がたったの二五万ですぜ」
「その花瓶が本当に貴重かどうかは親父さんが勝手に言っているだけだろ。ランゲン国の王が貴族に贈ったなんて話、胡散臭い」
「話を胡散臭く感じて結構。ですがね、模様に金が使われているのは事実。ガラスがトロッカー産なのも事実ですぜ!」
「そうだとしても二五万は……ギウ、さすがにこれは高すぎる」
彼は私の台所事情を知っている。花瓶の値段を知れば退いてくれるだろう……と思ったが……。
「ギウギウギ~ウ」
「何、花瓶は何個も購入するものじゃないから、多少高くてもいいだろう? いや、それでも高すぎる」
「ギウギウ」
「貴重な品の方が大事にする? その理屈はわからないでもないが……たかが花を生けるだけのガラス瓶に二五万は……」
「ギウギウギウウウ~」
「はぁ~、旦那はわかってませんなぁ」
「二人して、何がだ?」
「ギウギウウ」
「お土産って~のは、印象深い方がいいもんでしょう。これ、銃を購入したときに旦那が言った言葉ですぜ」
「クッ、たしかに言ったが」
まさかの二対一。ギウと親父さんはまるで互いをわかり合っているかのように連携してくる。
状況は圧倒的に不利。
このままでは敗北必死。ならば、少しでも被害を抑える選択肢しかない。
「わ、わかった。購入しよう。だが、少しまけてくれ!」
「もちろんですよ。多少は勉強させていただきます。やりましたな、ギウ!」
「ギウギウ!」
二人は仲良さげにハイタッチをしている。
そんな二人を横目に、私は苦虫を嚙み潰したような顔を見せていた。
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