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第二章 たった二人の城

古城トーワとは

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 食事が終え、ギウと共に食器を片付け終えると、彼はぺこりと身体を前に倒し別れの挨拶をして砂浜へと戻っていった。
 一人残った私は三階の寝所へ向かい、古城トーワに関する書類に目を通すことにした。

 
 腰の剣をソファに立てかけ、銃をソファのクッションの間に挟む。
 そして、ベッド兼ソファに腰を掛けて、書類の文字を目で追っていく。
 一文目は注意書き。


『二百年前のヴァンナス国とランゲン国の戦争で資料が紛失しているため、以下の内容は正確ではない。だが、可能な限り、情報を纏めている』

 下に続くのは予測が混じる、不確定な情報。
 内容は以下の通りだ。
 

 千年前――クライル半島には、ヴァンナス国領内にも存在していたと言われる古代人がいた。彼らは『トーワ』を拠点に魔族と戦いを繰り広げ、この半島から魔族の大部分を追い出した。その後、古代人は姿を消す。

 魔族と古代人の激しい戦いで土地は汚染された。その区域は広大で、半島全て覆うほどだったと言われている。汚染の原因は不明。
 だが、時が経つにつれて、汚染された土地は浄化され、現在では遺跡が存在する、古城トーワの北方に広がる大地のみが汚染されている。周辺の土地に汚染はない。
 また、汚染の原因と同じく、浄化の要因も不明。
 
 
 五百年前――ランゲン国が古代人の遺跡と拠点を発見。
 ランゲンは古代人が使っていた拠点に、遺跡の探索と魔族退治を兼ねた城を築城。(これが現在の古城トーワの原型に当たる)
 遺跡より、古代の兵器を発掘。その兵器を用い、トーワ城を中心に半島に残った魔族の掃討に当たる。
 
 古代遺跡の汚染――遺跡の探索隊に謎の病気が蔓延する。ランゲン国は優れた古代の技術や文明を求めて調査を強行したが、被害の拡大が止められず、断念。


 三百年前――半島とビュール大陸を繋ぐ北の山脈の袂に、大都市『アグリス』を形成。ランゲン国は半島の北西にあった首都『カルポンティ』から『アグリス』へ遷都を行う。

 半島の海の玄関口『港町アルリナ』の誕生。『アグリス』との街道が整備され、これ以降、トーワの街道及び城の使用頻度が減る。


 二百五十年前――ランゲン国、半島より魔族の撲滅を完了。種族の敵を駆逐したことにより、ランゲン国は隆盛を迎え、ビュール大陸において最強の国家となる。


 二百年前――クライエン大陸の雄・ヴァンナス国とビュール大陸の雄ランゲン国が激突。ヴァンナスが勝利し、ランゲンは滅亡。


 その際、ヴァンナスは古城と遺跡を見つけるが、注意書きの通り、戦時でランゲン国の資料が紛失したため当初は謎の遺跡と古城であった。(のちの聞き取り調査により、前文の出来事が判明)
 資料がないため、ヴァンナスは遺跡の危険性を知らず古城トーワに拠点を構え探索に乗り出すが、ランゲンと同じく奇病に苛まれ、探索を断念。

 以降、病気の拡大を恐れ、遺跡を封印。
 また、古城トーワも街道から外れており、利用価値がないため放棄。(百年ほど前)



 と、資料を読み終えてソファに置いた。
「ふむ、遺跡の詳細は記されていない。古代人の遺跡とされているが、その証拠となるものもないようだが……いや、それは機密事項に当たるので表の資料に詳しく記載されていないだけか」

 古代人に関して、彼らの正体は機密事項に当たる。
 私は一部であるが第一級の機密に触れる権限を持っていたため、彼らの正体を知っているが……。


「しかし、何故私がこの情報を得ていない? ヴァンナス以外に古代人の遺跡があるなど初耳だぞ」
 私はヴァンナスの最重要研究に携わっていた。その立場上、遺跡に関する情報を知らないというのはおかしい。

「つまり、これは第一級中の第一級の情報というわけか? いや、違うな。遺跡の存在自体は表の資料に記載されているということは、私にとって不要な情報だったから、私の目に止まらなかったのか?」


 研究員時代の私は、研究のために必要な情報を手に入れることができた。
 その情報のほとんどは古代人が操っていた技術に関するものだったが、私が扱う技術はあまりにも専門に特化していため、細部の技術には詳しくない。

「あの頃の私は、一つの研究に必死で周りを見ていなかったからな。一段落が終えた頃に、父を亡くし、議員に……私が気づかなかっただけで、古代人に関する機密の中に、このトーワのことが書かれていたのかも……」


 書類に視線を落とす。
 多くの文字の中で気になる単語がある。
 それは魔族を退けることのできた『兵器』の存在。

「具体的にどんなものかと書かれていないということは、兵器については完全なる機密事項か。これは私の権限でも閲覧できる内容なのか、そうではないのか?」

 書類から視線を王都オバディアがある西へ移す。
「トーワに関する機密資料に触れるとなると王都まで戻る必要があるが、今の私が機密資料を閲覧しようとするのは、あまり良い行動ではないな……」

 左遷され、研究所から遠ざかった私が古代人に関する資料を集め始めた。
 その様なことをすれば、無用な警戒を抱かれるだろう。


「ここは余計な不信感を煽る必要もない。それに少なくとも、北方の荒れ地に存在する遺跡が古代人のものだという証拠は十分に揃っている」

 視線をソファのクッションの間に押し込んだ銃に向ける。
 鉄とも陶器とも言えぬ容器に納められていた銃。
 長い時を経て、錆び一つなく存在する銃。
 これは現在の我々の技術を凌駕する。

 一つ疑問があるとすれば、何故、銃なのかだが……。
 それについて、推測を重ねていく。

「大事に箱の中に納められていた。保管か? 好事家でもいたのか? だからこれは、武器に使用するつもりでなく、骨董品のような扱いだった? 我々から見れば銃は先端の武器だが、古代人のとっては原始的な武器のはずだからな」


 そう、彼らの武器は我々の先を行っている。銃や剣や魔法に頼る必要がない。
 資料でも触れられているが、ランゲン国が魔族を撲滅できたのも、古代人の兵器のおかげだという。
 その力で、彼らは魔族に対抗できたのだろう。
 これらの事実が、遺跡を古代人のものであると示唆している。

 その事実を補強するのが、我がヴァンナス国の存在。
 ヴァンナスがクライエン大陸に存在する魔族勢力を抑えられているのは、クライエン大陸にあった古代遺跡から発掘された道具のおかげ。
 古代遺跡の力で、ヴァンナスはランゲンと同じく小国から大陸を治める大国にのし上がった。

 ただ、ヴァンナスの遺跡はランゲンの遺跡とは違い汚染されておらず、宮廷錬金術士を中心に細部に渡り発掘された。
 しかし、遺跡の大部分が朽ち果てていたという。
 それでも、そこで発掘された道具……装置は、我々に大きな希望を与えた。
 我々は、その装置を使い……。


 私は首を横に振り、装置に対する想いからトーワに存在する遺跡に意識を向ける。

「とすると、トーワの北方にある遺跡は、世界に二つしかない古代人の遺跡となるが……」
 このスカルペルにおいて私の知る限り、古代人の大規模な痕跡があるのはヴァンナスとランゲンのみとなる。
 その遺跡は知識の宝庫であり、力の眠る場所。
 是が非でも発掘したいはず。
 それを断念という形で両国の牙を折った奇病……。


「おそらく遺跡には、私が想像する以上に危険な病気が蔓延しているのだろう。資料には封印してあると書いてあるから、まず伝染の心配はないのだろうが……あまり近づきたくはないな」
 
 資料を床に置き、ソファに寝転ぶ。

「結局、わかったことは遺跡が古代人のものと、ヴァンナス、ランゲン両国が発掘を断念するくらい危険ということくらいか。一番肝心な土地の汚染の原因が不明というのは問題だな……ふふ」

 笑いが漏れる。
 それは土地の汚染をどうこうしようと考えている私に対して……この感情は、野心だろうか? それとも好奇心?
 私の銀の瞳は、未来に何を見ようとしているのだろう……。


「ふっ、馬鹿馬鹿しい。領民もなく、一人でやっていくなら城の周辺と防壁内の土地で畑は十分に事足りる。余計なことをして、病気になる必要もあるまい」
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