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第二章 たった二人の城
家庭的なギウ
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魚の姿をした種族ギウと共に砂浜から崖上へと続く階段を昇り、城へ向かう。
彼は私の案内などなくとも迷うことなく歩いていく。
その様子から、城の周辺の地理を把握しているようだ。
彼と共に、城の台所までやってきた。
大量に取れた魚で料理でも作ってくれるのだろうか?
彼は荒れ果てた台所を見て、身振り手振りを交え何かを尋ねてきた。
「ギウ、ギウギウ、ギウ?」
言葉はさっぱりだったが、なんとなく包丁やまな板、鍋などの道具はどこにあるのかと尋ねられているように感じる。
「すまないな、ほとんど片付いていない状況で。道具類はここから少し離れた倉庫に入れてある。調味料の類もあるから取りに行こう」
ギウを引き連れ、倉庫へ移動する。
倉庫には乱雑に積まれた荷物。
私は陽射しが降り注ぐ天井を見上げながら、早急に屋根の必要性を考えていた。
「雨が降る前に何とかしないと。しばらくの間、道具類は割れていない甕の中に保存しておくとして……さて、調味料や包丁はどこに置いたか?」
ギウに手伝ってもらい、荷解きを行う。
程なくして、包丁、まな板、大鍋、油、調味料類が見つかった。
それらの探し物の途中で、仕舞い込んでいた古城トーワに関する書類も見つかる。
「こんなところにあったのか。今夜にでも目を通しておかないと」
「ギウ?」
「ん? ああ、これか? 赴任の際に貰った書類だ。大したことは書いてないだろうが、一応、一般の者には見せられない。すまないな」
「ギウ」
ギウは軽く頷き、鍋類を運び出していった。
見た目は巨大な魚で迫力があるが、かなり分別のある者のようだ。
私は早足で書類を三階の寝所にあるソファにおいて台所へ向かった。
台所ではギウがお湯を沸かしつつ、まな板の上に置いた魚を捌いている最中だった。
彼は尾から頭に向かって包丁の先を動かし、鱗を剥がしている。
それが終えると頭を落とし、刃先で腹に切り込みを入れて内臓をかき出す。
そして、木桶に貯めた水で血や鱗を洗い流し、綺麗なタオルで魚の水気を取り、まな板を洗い流して、その表面を別の布で拭いた。
こうして、瞬く間に二十尾はいた魚が捌かれ、二尾はぶつ切りに。もう二尾は三枚におろされた。
残りの魚は頭を残し捌かれ、最初の四尾とは別に分けられた。
あまりの包丁さばきに私の出る幕がない。
彼の後ろで『魚が魚を捌くのかぁ』と下らぬことを考えているだけだ。
次に、ギウは塩のみをお湯に入れ、下地となるスープを作っている様子。
その合間に野菜を刻んでいる。
完全に手持ち無沙汰の私だが、黙って見学しているのも悪い。
「ギウ、何か手伝えることはあるか?」
こう尋ねると、ギウは焚き木用の木の枝を手に取って、これを集めてきて欲しいと頼んできた。
彼は手で大きさを指定する。
必要な枝はあまり大ぶりなものではないようだ。
私はコクリと頷き、急ぎ足で城の少し先にある森に向かう。
そして、地面に落ちている小枝を籠に入れて、城へ戻る。
その帰りの途中で、かまどにあった焚き火の痕跡のことを思い出す。
「おそらくあれはギウが使用した痕跡だったんだな。どうりで迷わずかまどに直行できるわけだ」
焚き火の謎が解けて揚々と城に近づく。すると、胃を刺激する美味しそうな匂いが漂ってきた。
ここに訪れて、まだまともな食事にありついていない。
食べた物は小麦を焼いたものと小麦の団子のみ。
城を包む香りに舌が唾液に溺れる。
「ごくり、これは期待できそうだな」
小枝の入った籠を抱え、台所へ戻ってきた。
食欲のそそる香りに満ちた場に、思わずよだれが零れそうになる。
それをグッと我慢して、ギウに小枝を渡した。
「ギウ、小枝を持ってきたぞ。これをどうするつもりなんだ?」
「ギウ」
彼は二つあるかまどの前に立っている。
一つはスープの中で魚と野菜類が仲良く煮込まれていた。
さらに、すでに二尾の魚が焼き終わっていて、それらが皿に盛りつけられている。
そして、もう一つのかまどの上にある大きな鍋の中では、お湯が沸騰していた。
彼はそのお湯に、先ほど渡した枝を選別して入れていく。
何をしているのだろうか?
数本の枝をさっと煮て、取り出す。
そしてその枝を、頭を残して捌いていた魚の頭に突き刺していった。
一本の枝に、数尾の魚の頭が通される。魚たちは頭から枝にぶら下がっている状態だ。
次にお湯の入っていた鍋をどけて、魚を通した枝を置いていく。
枝はかまどの円の縁に引っかかる大きさで下に落ちることはない。
枝に支えられ、かまど内で宙ぶらりんになる魚たち。
次に、かまどの上に鉄鍋を被せると、別の小枝に火をつけ、それをかまどに入れて魚を燻し始めた。
そこまで来て、ようやくギウが何をしようとしているのかがわかった。
「もしかして、燻製を作っているのか?」
「ギウ」
ギウは身体を上下に振る。正解のようだ。
「なるほど、さきほど枝を煮たのは殺虫と消毒のためか。そして、燻製と……たしかに燻製なら、ある程度保存が利くからな。しかし君は、釣りが上手く、料理も上手で、燻製まで作れるとは。すごいな」
「ギウ~」
ギウはエラに手を当てて、身体を左右に振る。照れているようだ。
「はは、ギウには感謝だな。釣った魚が無駄にならなくてよかった。それでは、今日の料理となるのは台の上の焼き魚と、隣のかまどにあるスープかな?」
「ギウギウ」
ギウは返事をして、燻製の火種を調節し、料理の盛り付けを始めた。
「では、私は食事の場所の用意をしておくか。屋内はまだ、ゆっくり落ち着いて食事を取れる場所は確保できていないが、荷物の中に敷物があったはずだ。それを使い、外で準備して待っているよ」
彼は私の案内などなくとも迷うことなく歩いていく。
その様子から、城の周辺の地理を把握しているようだ。
彼と共に、城の台所までやってきた。
大量に取れた魚で料理でも作ってくれるのだろうか?
彼は荒れ果てた台所を見て、身振り手振りを交え何かを尋ねてきた。
「ギウ、ギウギウ、ギウ?」
言葉はさっぱりだったが、なんとなく包丁やまな板、鍋などの道具はどこにあるのかと尋ねられているように感じる。
「すまないな、ほとんど片付いていない状況で。道具類はここから少し離れた倉庫に入れてある。調味料の類もあるから取りに行こう」
ギウを引き連れ、倉庫へ移動する。
倉庫には乱雑に積まれた荷物。
私は陽射しが降り注ぐ天井を見上げながら、早急に屋根の必要性を考えていた。
「雨が降る前に何とかしないと。しばらくの間、道具類は割れていない甕の中に保存しておくとして……さて、調味料や包丁はどこに置いたか?」
ギウに手伝ってもらい、荷解きを行う。
程なくして、包丁、まな板、大鍋、油、調味料類が見つかった。
それらの探し物の途中で、仕舞い込んでいた古城トーワに関する書類も見つかる。
「こんなところにあったのか。今夜にでも目を通しておかないと」
「ギウ?」
「ん? ああ、これか? 赴任の際に貰った書類だ。大したことは書いてないだろうが、一応、一般の者には見せられない。すまないな」
「ギウ」
ギウは軽く頷き、鍋類を運び出していった。
見た目は巨大な魚で迫力があるが、かなり分別のある者のようだ。
私は早足で書類を三階の寝所にあるソファにおいて台所へ向かった。
台所ではギウがお湯を沸かしつつ、まな板の上に置いた魚を捌いている最中だった。
彼は尾から頭に向かって包丁の先を動かし、鱗を剥がしている。
それが終えると頭を落とし、刃先で腹に切り込みを入れて内臓をかき出す。
そして、木桶に貯めた水で血や鱗を洗い流し、綺麗なタオルで魚の水気を取り、まな板を洗い流して、その表面を別の布で拭いた。
こうして、瞬く間に二十尾はいた魚が捌かれ、二尾はぶつ切りに。もう二尾は三枚におろされた。
残りの魚は頭を残し捌かれ、最初の四尾とは別に分けられた。
あまりの包丁さばきに私の出る幕がない。
彼の後ろで『魚が魚を捌くのかぁ』と下らぬことを考えているだけだ。
次に、ギウは塩のみをお湯に入れ、下地となるスープを作っている様子。
その合間に野菜を刻んでいる。
完全に手持ち無沙汰の私だが、黙って見学しているのも悪い。
「ギウ、何か手伝えることはあるか?」
こう尋ねると、ギウは焚き木用の木の枝を手に取って、これを集めてきて欲しいと頼んできた。
彼は手で大きさを指定する。
必要な枝はあまり大ぶりなものではないようだ。
私はコクリと頷き、急ぎ足で城の少し先にある森に向かう。
そして、地面に落ちている小枝を籠に入れて、城へ戻る。
その帰りの途中で、かまどにあった焚き火の痕跡のことを思い出す。
「おそらくあれはギウが使用した痕跡だったんだな。どうりで迷わずかまどに直行できるわけだ」
焚き火の謎が解けて揚々と城に近づく。すると、胃を刺激する美味しそうな匂いが漂ってきた。
ここに訪れて、まだまともな食事にありついていない。
食べた物は小麦を焼いたものと小麦の団子のみ。
城を包む香りに舌が唾液に溺れる。
「ごくり、これは期待できそうだな」
小枝の入った籠を抱え、台所へ戻ってきた。
食欲のそそる香りに満ちた場に、思わずよだれが零れそうになる。
それをグッと我慢して、ギウに小枝を渡した。
「ギウ、小枝を持ってきたぞ。これをどうするつもりなんだ?」
「ギウ」
彼は二つあるかまどの前に立っている。
一つはスープの中で魚と野菜類が仲良く煮込まれていた。
さらに、すでに二尾の魚が焼き終わっていて、それらが皿に盛りつけられている。
そして、もう一つのかまどの上にある大きな鍋の中では、お湯が沸騰していた。
彼はそのお湯に、先ほど渡した枝を選別して入れていく。
何をしているのだろうか?
数本の枝をさっと煮て、取り出す。
そしてその枝を、頭を残して捌いていた魚の頭に突き刺していった。
一本の枝に、数尾の魚の頭が通される。魚たちは頭から枝にぶら下がっている状態だ。
次にお湯の入っていた鍋をどけて、魚を通した枝を置いていく。
枝はかまどの円の縁に引っかかる大きさで下に落ちることはない。
枝に支えられ、かまど内で宙ぶらりんになる魚たち。
次に、かまどの上に鉄鍋を被せると、別の小枝に火をつけ、それをかまどに入れて魚を燻し始めた。
そこまで来て、ようやくギウが何をしようとしているのかがわかった。
「もしかして、燻製を作っているのか?」
「ギウ」
ギウは身体を上下に振る。正解のようだ。
「なるほど、さきほど枝を煮たのは殺虫と消毒のためか。そして、燻製と……たしかに燻製なら、ある程度保存が利くからな。しかし君は、釣りが上手く、料理も上手で、燻製まで作れるとは。すごいな」
「ギウ~」
ギウはエラに手を当てて、身体を左右に振る。照れているようだ。
「はは、ギウには感謝だな。釣った魚が無駄にならなくてよかった。それでは、今日の料理となるのは台の上の焼き魚と、隣のかまどにあるスープかな?」
「ギウギウ」
ギウは返事をして、燻製の火種を調節し、料理の盛り付けを始めた。
「では、私は食事の場所の用意をしておくか。屋内はまだ、ゆっくり落ち着いて食事を取れる場所は確保できていないが、荷物の中に敷物があったはずだ。それを使い、外で準備して待っているよ」
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