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第八章 聖槍を手にした女性騎士

第77話 百年前のあの日~魔王と勇者~

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「色々と言いたいことはあるだろう。だが、質問は後回しにさせてもらう。まずは端的であるが語らさせてもらおう」


――百年前の出来事・アルラの語り①

・異界より勇者が訪れる。のちに私の農作物や畜産の師匠となる。
・彼から調律者の存在を知る。
・調律者――宇宙や多次元の均衡を図る存在。

――
「調律者は宇宙のエネルギーを管理する存在だ。無限に見えてこの宇宙は有限であり、エネルギーもまた有限。そのため、時折エネルギーの調整のため世界を消すことがある」
「えっと、それじゃあおじさんの言う師匠さんは、私たちがエネルギーの無駄遣いをしてるから調律者が消しに来たと言いに来たの?」

「無駄遣いからではない。運悪く、調律者の目に止まっただけだ。あれは適当なものを消してエネルギーの調和を図っている」
「たまたまってこと? 酷い……」
「そうだな……とりあえず、続けるぞ」


――アルラの語り②

・師匠によってもたらされた情報で、私は調律者の存在を知り、その対応に追われる。
・だが、協力者はない。この時、私はこれを他の誰かに話しても信用は得難く、時間の無駄だと考え、単独で対応することにした。師匠は当時の強者、勇者ティンダルたちへ協力を仰げと言ってくれたのにな。

・師匠からの指導を得て、調律者の出入り口を特定する。場所はまほろば峡谷の先に広がる大地の空。私は調律者がこちらの世界へ訪れることができないように、追い返す術式を使用することにした。

・師匠は故あって去り、私だけで準備を行うが、力が足りない。そこで師匠の言葉を思い出す。勇者ティンダルたちとの協力という言葉を……。
・だがそれは、彼らへ事情を話し協力を得るのではなく、彼らを人柱にして術式を高める方法だった。

――――
「当時の私は人間など取るに足らない存在であり、信用に値しない存在だと思い込んでいた。これが大きな過ちであったことを、のちに知ることになる」


――――アルラの語り③

・何とか調律者がこちらへ訪れる前に、勇者ティンダルたちをまほろば峡谷の奥へと誘い出すことに成功。
・その地にて、私は彼らを術式に組み込み、調律者を追い返すつもりでいた。

 だが――


――――――
「彼らは私が想像していたよりも強かった。ティンダルは私と同等の力を持ち、仲間たちもそれにぐ力を持っていた。これでは人柱にするどころか、私が敗れてしまう。しかし、ティンダルは途中で気づいた。私の戦いが奇妙であることに」


―――アルラの語り④

 ティンダルは剣を下げて、問う。
「おい、アルラ! 何故、俺たちを殺そうとしない。何を考えているんだ?」
「貴様に話しても無駄なことだ。さぁ、戦いを続けよう」
「地面のあちらこちらに術式が封じられている。俺たちの力を利用して何かを成す気だな?」

「――な!?」

「へへ、図星のようだな。術式は空間に干渉する力……召喚? いや、送還? 何を送り返そうとしているんだ、アルラ?」
「それは――くっ! 来てしまったか!!」


 ティンダルとの会話の途中で、空に紫色の裂け目が生まれた。
 そこから調律者の力が溢れ出す。
 私はその力に恥ずかしくも怯え、諦めてしまった

「か、彼に聞いていたがこれほどとは……これまでか。この世界は消滅する」
「な、なんだ、あいつは? アルラ、もしや、お前はあれを送り返そうとして?」
「ああ、その通りだ。貴様たちをにえに捧げ、調律者を送還するつもりだった……」


 ティンダルは紫の裂け目から降り落ちる、調律者の一部であるガラスのような破片を見つめて、三人の仲間に視線を振った。
 三人の仲間たちは彼に向かってゆっくりと頷く。
 そして――

「アルラ! 俺たちを使い、あれを送り返せ!」
「な!? 何を言っているんだ、貴様!?」
「俺たちが協力してもあれには勝てない。だが、お前が準備した送還術式ならまだ何とかなる! 急げ!!」

「馬鹿なことを! それを行えば貴様らも調律者と共に亜空間に封じられるんだぞ。その先がどうなっているかもわからない。そのような場所に自ら封じられようというのか!?」
「それ以外選択肢がないなら、そうする!!」
「何故そのような選択肢を迷わず選べる、ティンダル!?」

「はっ! そいつはぁ、馬鹿な問いだぜアルラ」
「何故だ?」

「決まってるだろう、それは俺が、俺たちが勇者だからさ!」

「ティンダル……?」
「勇者ってのは損な役割でな、ちやほやされるが世界の危機となりゃぁ、率先して前に立たなけりゃならねぇ。そいつがどんなに怖くても、どんなに絶望的でも、たとえそれが死に直結してても、諦めるわけにはいかねぇんだ!!」


 ティンダルの声に、三人の仲間も答え頷く。
 彼は一様に笑みを浮かべる。
「貴様……貴様たちは……」


――私はこのとき、自分の愚かさを呪った。人間を見下すあまり、師匠の忠告を無視して、彼らと協力する選択肢を消してしまったことを――


 私は術式を発動させる、卑怯な言葉と共に……。
「ティンダル、すまない!!」 
「そこはありがとうだろう、アルラ」
 術式に組み込まれ、この世界から姿を消していくティンダルたち。
 彼らは笑みを見せ続け、未知の恐れを前にしても、勇者としての誇りを崩さない。
 薄れゆくティンダルが語り掛けてくる。


「なぁ、アルラ。命を張る代わりに、一つ頼みを聞いちゃあくれないか?」
「私ができることであればなんでもしよう!」
「そいつはぁ、ありがてぇ。頼みっては、この戦争の終結だ」
「戦争の?」

「俺たちがいなくなったらお前ら魔族の独擅場だ。それは勇者としてさすがに困る。だから、これ以上の戦争はやめてくれ。頼む!」
 眼前に死よりも恐ろしいものが迫っているというのに、他者のために頭を下げるティンダル。
 これに私は、自身の器の小ささを恥じた。

「何も貴様が頭を下げる必要などない。全ては私の愚かさゆえの結末! 約束しよう。これ以上、魔族と人間族は事を構えることはない。戦争を終えると!!」
「そいつを聞いて安心した」
「私を信じてくれるのか?」

「世界を救おうと一人頑張ってたんだろう、お前は。そいつがしてくれる約束だ、信じるさ!」
「ティンダル……本当にすま……いや、ありがとう。私を信じてくれて」

「気にすんな。俺もお前としっかり話していればよかったな。ま、あっちがどうなってるか知らないが、俺には仲間がいる。何とかするさ」
「何とか……そのようなことできるわけが――」

「できる! 諦めなければできる! たとえ、可能性がゼロであっても、俺はゼロをぶっ壊して無理矢理百にしてやる!」
「き、貴様と言う男は……」
「ふふ、じゃあ、またな。アルラ! 次に会うときは、友として会いたい!」
「私もだ、ティンダル!!」


――――
「こうして、ティンダルたちを犠牲に捧げて調律者の侵入を食い止めた。私は約束通り、戦争の終結を宣言。以後百年、小競り合いはあるものの、勇者ナリシスが立つまで大きな戦争もなく今に至る」

 話を終えて、私は皆の反応を窺う。
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