重なる世界の物語

えんとま

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初めての依頼

終わりと始まり

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クラインはゆっくりと目を開けた。はっきりしてきた視界に映ったのは自分の部屋の天井だった。
どうやらベッドに寝かせられていたようだ。

かけられていた毛布を避けて上半身を起こす。ふと自分の手に目をやると、あることに気づいた。

あれ、手の甲の印がない…。
あれって確か馴染むのに一週間くらいかかるんじゃなかったっけ。


もしかすると僕は一週間ベッドにいたのか!?

慌ててベッドから出ようとする。
足をつけ立ち上がろうとしたがうまく力が入らず倒れてしまった。

バタンっ!と派手に転んでしまう。
…痛い…。

音を聞きつけてか、バタバタと誰かが階段を駆け上がってくる音がする。

ガチャっと扉が開くと、そこにはシリエが立っていた。

「!クライン君!よかった、目が覚めたのね!」

シリエが駆け寄って肩を貸してくれた。
なんとかベッドに戻る。

「まだ動いちゃダメよ。待っててね、みんなを呼んで来るから」

そう言ってシリエは出ていってしまった。


しばらくしてまた階段を駆け上がる音がする。

扉をあけて顔を出したのはアリスとキースだった。いつもは凛とした顔のアリスが、今は不思議な顔をしている。

「クラインさん…よかった…本当に良かった…」

その場で崩れてしまった。
あれ、僕は女の子を泣かせてしまったのだろうか。

後ろで立っていたキースが部屋に入ってくる。

かと思えばその場に正座し始めたではないか。

「えっ、ちょっと、どうしたんですかキース」

「クライン君、本当にすまなかった!」

深々と頭を下げるキース。
えっ!どういう状況だ!

あたふたするクライン。キースは言葉を続ける。

「グルーを起点に転移できるからと油断した結果、君を危険な目に合わせてしまった。まさかグリフォンがあんなに生息域を離れて活動していたなんて…いや、これは言い訳だね」

「僕の考えが甘かった。…申し訳ない…」

「や、やめてくださいキース!」

「キースが謝る必要なんてありません!あんな事態は誰にも予想なんてできなかった。それに僕はあの戦いのおかげで前進することができたんです。危険ではありましたが、僕には必要な戦いだった」

「クライン君…」

「それよりキース、僕が寝ている間に何があったのか、教えてくれませんか?」

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


「クアァァアアァ!!」

!?

この咆哮、グリフォンだ。
だいぶ近いぞ!

使い魔の狼に乗り、音がする方へ急ぐキース。

見えてきた…グリフォンとクライン君、良かった、まだやられてはいないみたいだ。

だんだん近づいていくと、その様子がはっきり見えてきた。見えてくる光景にキースは驚愕する。

何だあれは…本当にクライン君か?

暴れるグリフォンにそれを全て紙一重でかわすクライン。そこに一切の無駄はなく、洗練された芸術とも言える戦い方だ。

クラインは弱ったグリフォンにとどめを刺す。グリフォンは塵になり消えていった。

「クライン君…」

キースが呼びかけたその時、クラインはその場に倒れこんだ。

「クライン君!大丈夫か!」

駆け寄るキース。近くには瓶が転がっていて、ハイポーションが半分ほど残っている。

なるほど、これを使ったんだな。外傷は少ないし傷は塞がっている。

だけど…グリフォンの爪の毒にやられてしまっている。激しい戦闘で毒が全身に回ってしまっているな、クソ、間に合ってくれ!

急いで解毒薬を取り出し飲ませる。中でも効果の高い薬だが、これだけ回っていると時間がかかる。安静にしなくてはならない。

向かうときは転移の魔術を使うと魔力を使い切った状態でグリフォンの前に出ることになるから控えていたが、クライン君が倒してくれたからその心配もない。素材を回収して拠点に転移しよう。

それにしても…

キースは辺りを見渡す。
そこにはグリフォンのものと思われるが散らばっていた。

グリフォンは一匹だったよな…

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


「クライン君をすぐ動かすわけにも行かなかったから、しばらく拠点で休ませて僕は残りの依頼を片付けていたんだ」

「翌日クラインさんとキースさんは戻ってきましたが、あれから9日寝たきりだったんです」

キースとアリスのおかげでようやく状況が掴めてきた。

「それにしても一人で合成種キメラと戦って倒してしまうなんてね。しかもただの槍とナイフで」

「えぇ、あの戦いの中で気づけたんです。継承する魂マスターソウルの本当の使い方を。ひどい目には会いましたがいい経験になりました」

「そういってくれると僕も少し気が楽になれるよ」

「だから、キースは悪くないですって」

再び扉が開く。そこには美味しそうな料理を持ったシリエが立っていた。

「しばらく食べてなかったからお腹がすいているでしょう。今は食べて、ゆっくり休んでね」

あ、言われて急にお腹がすいてきた。

グウと音を鳴らすクラインのお腹。
気の抜けたお腹の返事に、つい笑ってしまった。

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


「ドーガンさん、いらっしゃいますか?」

「おう坊主!よくきたな!こないだまで寝たきりだったんだろ?もう動いていいのかよ!」

あれから数日後、動けるまでに回復したクラインはジャガーノートを訪れていた。

「えぇ、ようやく調子が戻ってきました。これ、依頼の素材です」

「ありがとな!助かったぜ。それにしても災難だったな。グリフォンに出くわしちまったんだって?」

「はい、その事なんですが…」

そういってカウンターにドロップした素材を並べていくクライン。
 始めは眺めていたドーガンだが、だんだん目を丸くする。

「おいおい、お前一体何匹のグリフォンを狩ったんだよ」

「そんな何匹も相手できないですよ、これは一匹からドロップした素材です」

「!?冗談だろ、ドロップ率が高い時の2匹分はあるぞ!それに魔物の核、魔石まであるじゃねえか!」

「魔物のドロップする素材は魔力濃度の特に高い部分ですよね。その部分をうまく壊さないように捌くとよりドロップの確率が上がるんです。戦闘の中で行使するのは結構難しいですけど」

クラインの話を聞いても、ドーガンはいまいちピンときていないようだ。

「俺には何言ってんだか全然わかわねぇ。だけどこれからお前が何を言うかはわかるぜ。特注の武器を作って欲しいんだろ」

ニコッと笑うクライン。

「まさにその通りです。ドーガンさん、請け負ってくれますか?」

ドーガンもニッと笑う。

「あたりめーだろ!魔石があるなら魔武器を作ることができるな。こりゃ腕がなるぜ、最高の武器を作ってやる!」

「魔武器…本当ですか!楽しみに待ってます!」
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